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前世と向き合ってみました④

「もう、ここまで言ったら自分で気づくのも直ぐだろうからバラすけど、『莉央』の父親が『夏八木』だったんだよ」

肩をすくめるレミジオさんをジッと見つめます。


「………ゲームの話しですよね?」


「………そうだな。ゲームの中では、『夏八木莉央』は幼少期に母親と内縁の夫に虐待を受けて死にかけて、その後、父親に引き取られてる。


ちなみに、血の繋がりはないが『妹』もお情けで一緒に引き取られてる。唯一の心の支えを失ったら『莉央』の心が持たないと判断されたみたいだな。

実際、意識が戻った後、妹の姿が見えないと錯乱した様に大暴れしたらしいし。


そんなだから共依存がスゴくて、攻略するには妹をまずどうにかするのと虐待のトラウマ解消とのダブルコンボで大変だったらしい。失敗するとなかなかの鬱展開……」


つらつらとあげられるゲームの中の『莉央』情報に唖然とします。

この場合『妹』って明らかに私のポディションですよね?

トラウマ?共依存?なんの話ですか?


確かに、母親の彼氏に殺されそうにはなりましたけど、母さんは、最後は護ってくれました。

自分もボロボロになりながらも男を追い払おうと奮闘していた背中を覚えています。




でも、と、ふと幼い頃の事を思い出しました。




飛び出して帰ってこない母親に、残された幼い兄妹。


確かに兄は当時から年齢以上にチートでしたが、それでも、普通なら生まれたばかりの赤ちゃんを4歳そこそこの子がまともにお世話出来るはずが無いのです。


押入れの中に押し込められて泣きもせずジッと出来る赤ん坊が、いったいどこにいるというんでしょう。


私は当時も思ったじゃ無いですか。

結愛が「私」じゃなかったら、もっと悲惨なことになってたんじゃ無いか……って。





青い顔で押し黙る私に、レミジオさんが、フッと口をつぐみました。

そして、ポンっと頭に手が置かれ、慰める様に柔らかに髪をかき回してきました。


「まぁ、『結愛』が前世の記憶をもって生まれてきたことで、かなりストーリーが変わったんだろ。

『莉央』は夏八木に引き取られず、母親との関係も良好そうだしな。向こうで初めて『莉央』に会った時、ゲームとの違いに驚いて、「もしかしたら」って思ったのもそのせいだ」


「………虐待、は、ありました。ネグレクトされてたんです。ただ、私は産まれた時には『沙絢』の記憶があったので」

「………そうか。頑張ったんだな」

柔らかく髪を撫でる掌にまた涙が出そうになって、グッと飲み込みました。


「………ここが、そのゲームの中、もしくはそこに酷似した世界だとして、ゲームの内容がスタートするのはいつですか?」


前世も今も、私の趣味の1つは読書です。

かなりの雑食で、ラノベから専門書まで、その時目に付いたものを乱読するので「趣味」と胸を張っていいものかは悩むところなのですが。


その中には、乙女ゲーム転生なんて話もあって、なかなか面白かったです。

チート能力をもらって奮闘する主人公や、悪役転生してしまってフラグを折ろうと頑張るライバルなどなど。


まさか、自分がその立場になるとは思ってもみなかったですけど。


「予定通りなら来年の春、転入生として主人公が来るはずだ。そこから1年かけて攻略者たちのトラウマを解消して仲良くなっていって、最終的に誰かと結ばれる………ん、だが。まぁ、現実問題ああは上手くいかないだろう、とは思う。

『莉央』はトラウマなくなってつけいる隙がないだろうし、アドも大丈夫だし」


「アド?……アドルフォさん?」

レミジオさんの言葉に首を傾げると、苦笑が返ってきました。

「季節が入ってるって言っただろ?アドルフォの家名はインヴェルノ。「冬」だ」


うわぉ!まさかの「冬」のキャラがもう1人。

名前としてスルーしてて気づきませんでしたが、そういえば、そのまんまじゃないですか!


「まぁ、俺がトラウマのフラグはバキバキにへし折ったせいでアドもかなり性格が変わったしな」

少し目をそらし気味にレミジオさんが呟きます。

私が言うのもなんですが………。


「何やったんですか?」

「あいつのトラウマの根本は、誘拐された時に目の前で幼馴染が自分を庇って殺されるんだ。

俺の記憶が戻ったのが『アドルフォ』に初めて会った時だったんだよ。幼馴染ポディションからは立場的に逃げられそうも無かったから、ちょっと頑張った。………流石に死にたくは無かったし」


あ、アドルフォさんのトラウマ=自分の死亡フラグだったんですね。

それは折ってもしょうがないです。

自分大事。これ、鉄則。


「まぁ、ついでに誘拐企てた親戚を潰して2度とそんなこと考えられない様にしたり、アドのやつが我儘放題になって俺様にならない様に天狗の鼻をへし折ってみたり………」


ん?オーバーキルの香りがします。あれ?


「せめて自分の身くらいは自分で守れる様に鍛えてたらやりすぎて、なんでかアドルフォの護衛みたいになってたのはしょうがないとして、あいつの巻き起こすトラブル処理に奔走してたら、いつの間にか一族の中でも結構な権力手にしたりしてた」


ああ、昔からハマると徹底的に追求するし、視野が広い分、面倒見も悪く無かったですものね。

だんだん目が死んだ様になってきてますけど……おそらく殆ど自業自得なはず。


「………まぁ、|最悪の事態(死亡フラグ)は逃れられたわけですし、そう、悲観することもないかと」

「……………ソウデスネ」

何故に片言?

突っ込んだらやぶ蛇な気がするので放置しますけど、ね。


あ、もう1つだけ、確認。

「レミジオさんは攻略対象者では無いんですよね?」

「俺はトラウマ用の死にキャラだったから、ゲーム通りなら今ここに居ないんだ。攻略出来るはずもないだろ?」


フッと皮肉な笑みを浮かべるレミジオさんは、影のある表情が非常に魅力的でした。

そっかぁ、こんなにカッコいいのに攻略対象ではないんですね。

ゲームのファンがいたらハンカチ噛んで悔しがりそうですけど。


「了解です。だいたい把握しました。何が出来るかは分かりませんが、春まで時間はあるみたいですし、色々考えます」

「………前向き、だな」

少し呆れた様な笑顔。

ん、コレは『敦史』には無かった表情ですね。


「もちろん。幸せになるために頑張るのは当然です。倉敷結愛わたしの目標は、お婆ちゃんになって縁側でのんびり笑ってお茶を飲むことですからね!」

胸を張って言い切れば、驚いた様に目が見開かれた後、弾けるような笑い声が庭園に響き渡りました。


まるでお日様のような明るい笑顔。

そこには、ずっと張り付いていた少し何かを憂うような影はどこにもありませんでした。




「いいな、それ。俺も真似させてもらおう」




笑いすぎて目尻に浮かんだ涙を拭いながらそう言ったレミジオさんに、心臓がトクンッと1つ、跳ねた気がしたのは秘密、です。



読んでくださり、ありがとうございました。

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