嵐の前の静けさ?(兄編)
日間ランキング13位が嬉しかったので、短いですが兄視点投稿です。
よろしくお願いします。
おじいちゃんの家に引っ越して半年近くが経った。
最初のうち、ぼくは『おじいちゃん』と『おばあちゃん」が、いつひどい事をするかずっと警戒してた。
油断して、また、ゆあを怪我させたら大変だから。
どんな時でもゆあから目を離さないように、ずっと側にいるようにしてたんだ。
癇に障らないように、笑顔をみせ、逆らわず、だけど、決して警戒は解かない。
ゆあも同じ気持ちみたいで、ぴたりと僕にくっついていた。
そんな僕たちに2人は少し悲しそうな顔で、でも無理に引き離すこともせず見守ってくれていた。
そうして日々が過ぎ、最初に警戒を解いたのはゆあだった。
昼寝から先に起きたゆあは、おばあちゃんと2人でおやつを食べていたんだ。
目が覚めて隣にゆあがいない事に気付いて心臓が止まりそうなくらい驚いていた僕は、リビングでクリームだらけになりながらケーキを食べている姿に、力が抜けて座り込んでしまった。
青い顔でへたり込んだ僕に、驚いたおばあちゃんが駆けつけて抱き上げてくれた。
そのまま、ソファーまで運ばれたんだけど、そんな事をされたことが無い僕は別の驚きに動けなくなった。
ゆあは少しびっくりした後、隣に来た僕に「おいし〜の」と生クリームがたっぷり乗ったパンケーキを口に押し込んできた。
優しい甘さが口の中に広がる。
「ゆあ、まぜぇたのよ〜」
ニコニコ笑顔でのご報告にさらに力が抜ける。横からおばあちゃんが「上手だったわよ」と、これまた笑顔の追加情報だ。
まだ、小さいゆあは人を疑う事に慣れてないからしょうがない。
そうは思っても、これじゃ、警戒心バリバリだった僕がばかみたいだ。
本当は直ぐに分かってたんだ。
『おじいちゃん』と『おばあちゃん』が、今まで母親が連れてきた男達とは違う人種だってことは。
だって、目の色が違ったんだ。
あいつらは僕を見るなり、舌なめずりをしそうなひどい目つきをしたから。
だけど、今までの日々が僕に培った硬い殻が、なかなか割れてくれなかっただけで。
そう。
2人はとても優しい人達だ。僕らを『護って』くれる大人だ。
認めてしまえば、いつのまにか肩に乗っていた重たいものが消えた気がした。
「にに、あ〜ん」
もう一口、ゆあが僕の口に運んでくれたパンケーキは、昔、母さんが機嫌のいい時に作ってくれたものと同じ味がした。
「おいし?」
「………うん。美味しいね」
笑顔で聞いてくるゆあに、頷いて笑顔を返す。
そのままの表情で、おばあちゃんの方を向いてみた。
おばあちゃんが、驚いたように息を飲む。
「おばあちゃん。僕も、おやつほしい」
「………っ、ちょっと待っててね」
この家に来て初めてのおねだりに、おばあちゃんは一瞬くしゃりと顔を歪めた後、小走りでキッチンの方に消えていった。
「にに、ばぁ〜ばいじめちゃメェよ?」
その様子に何を思ったのか真面目な顔でゆあが僕の頬をつねってきた。
ちっとも痛く無いそれに笑ってしまいながら、僕は可愛い妹をお返しにめいいっぱいくすぐってあげたんだ。
読んでくださり、ありがとうございました。