前世と向き合ってみました③
『四季彩の花を君に』
それは良家の子女が多く通う私立校で繰り広げられる恋愛を題材にした乙女ゲームでした。
苗字に四季が入った男の子達が攻略対象で、さらにシークレットキャラが2人。
ストーリーは、当時人気ドラマを手がけた脚本家さんの書き下ろしという異色の作品で、さらに美麗なイラストと豪華声優陣に大ヒット。
私の死んだ後には、漫画化にノベライズ、果てはアニメ化から実写版の話まででた人気作品だったそう。
「あぁ、なんかそんなゲーム、あった気がしますね……」
突然、語り出され、曖昧に頷きます。
あいにく乙女ゲームは興味なくってあまり知らないのですが、友人に信者がいて熱く語られた気がします。
なにぶん、興味のないことには記憶力が発動されない人間だったので、右から左に流してしまってうろ覚えですが………。
それにしても、『敦史』は、ゲームそんなに興味なかった気がしましたけど、わたしが死んでから新たな趣味にでも開眼したんでしょうか?詳しいですね?
………何もコテコテの乙女ゲーに目覚めなくても。
「なんで、俺がそんな目で見られてるんだ?
『沙絢』のパソコンにデーター入ってたんだぞ?お前がやってたんだろ?!」
わたしの視線に焦ったように、レミジオさんが叫んでます。そんなに「乙女ゲーにハマった」疑惑はそんなにイヤですか。
ん?………パソコンのデーター?
「あぁ、そういえば、すっごい綺麗だから見ろって友人からデーター押し付けられた気がします。面倒でどっかのファイルに押し込んだまま忘れてました」
ポンっと思い出した記憶に手を叩けば、横でレミジオさんが崩れ落ちていました。
「………『沙絢』ってそういうやつだったよ。
………廃棄していいデーターが判断するために全部チェックした俺の苦労は………」
なんかブツブツ言ってますが、もしかして「お互いに何かあったらあとはよろしく」協定の事ですかね?
「………もしかして、パソコンの中身、全部見たんですか?何もせずに廃棄してくれたら良かったのに?!」
パソコンの中にはありとあらゆるモノが入ってたはずで、中には1つや2つ見られたくないものも当然あって。
てか、見られたくないからこその「協定」だったのに、何やってるんですか?!
思わず悲鳴を漏らせば、冷たい瞳が帰ってきました。
「いくら『沙絢』と『敦史』の関係でも、デスクトップのパソコン丸ごと持って行って廃棄なんて出来るわけないだろ?
お前、あのパソコンで家族写真の整理とかもしてたじゃないか。
明らかにブラックボックスなのはそのまま消したけど、お前整理しないで適当に突っ込んでたファイル多すぎだったんだよ。俺がどれだけ苦労したと……」
「はい、ごめんなさい。わたしが悪かったです」
説教モードに移行しそうな気配を察知して、早々に白旗を上げて全面降伏します。
そういえば、うちの母親が機械音痴で、家族旅行の写真とかのデーター管理、私がしてたんでした。
そりゃ、ハード丸ごと破棄なんて出来ないですよね〜〜。
話題。話題を変えましょう!
「それで、その人気の乙女ゲーがどうしたんですか?」
話を最初の方へ強引に戻せば、大きなため息が降ってきました。
「ここまで言ったら気づけよ。『夏』八木だって言っただろ?」
「そう、そこ!なんで兄の苗字がシュウ君と同じなんですか?おかしいでしょ?」
ストップをかければ、レミジオさんの首がコテンと傾げられました。
「…………1つ確認なんだが」
「はい?」
長い沈黙の後、真面目な顔でつぶやかれました。
「「倉敷」って事は、お前達、母親と暮らしてるんだな?「莉央」の父親は?」
「お兄ちゃんのお父さん、ですか?謎のままですけど?いえ、どこかのお金持ちのお家の方らしいのは知ってますけど、それ以上は聞いてません」
言葉の端々から生きてはいるらしいのが推測されるんですけど、中々話題にしづらい問題というか。
兄は知ってるかもしれませんが、私はあえて触れずに置いていたんですよね。
私の言葉に再び沈黙が落ちます。
長いです。
でも、眉間にふっかーいシワを寄せて真剣な表情で考え込んでいる人の邪魔をする勇気は私にはありません。
しかし、乙女ゲーム、ですかぁ。
まぁ、ありがちな設定ですよねぇ。
四季がついた苗字、とか、分かりやす!
そういえば、兄の友人にも居ましたねぇ。
騎龍さんの『冬乃院』って、確か『冬』でしたよね。『藤』じゃ無いんだ〜って印象強かったんですよね〜〜。
暇のあまり、ぼんやりと考えているうちに、ふと脳裏をよぎる面影。
あれ?そういえば総馬さんの『春日野』って『春』ですよね?
………俊一さんの苗字ってなんでしたっけ?
春も秋も冬も………全部いる?
あ、そういえばシュウ君も「夏」ですよね………。
「あの………。なんだか、すごく嫌な考えにたどり着いたんですけど………」
ポツリと呟けば、フッとレミジオさんの視線が向けられました。目が「なに?」って言ってますね。
じゃぁ、遠慮なく。
「ここって、そのゲームに何か関係あったりします?………なーんて言ってみたりして」
こそっと言ってみた後、おどけてみれば、すごく可哀想なものを見る目を向けられました。
なんでそんな顔するんですか?
お願いですから、「馬鹿なことを」って否定してくださいよ!
「残念ながら、細かい差異はあるけど、この世界は俺の知ってるゲームの世界とほぼ同じなんだ。そう考えるのが妥当だろうな」
ようやく数多のフラグを乗り越えて、概ね平和な生活を手にしたと思ったのに!
再びやってきたフラグは、ある意味過去最大級に意味不明で訳わからないものでした。
乙女ゲームに転生なんて、聞いてませんよ〜〜〜!?!
読んでくださり、ありがとうございました。
名前被り感が凄かったので、少し変更してます。
兄の同級生 俊一郎→俊一
ちなみに俊一君の苗字は秋澤です。
字を見ないと「春夏秋冬」が入ってるか分かりにくい苗字を探すのに、当時少し面倒だった記憶がうっすら。
折角なので少しは活用してみようかと(笑