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前世と向き合ってみました②

少し間が開きました。すみません。

きちんと挨拶してくれたレミジオさんに、フッと肩の力が抜けます。


夢の名残か、どうにも前世の面影がチラついて落ち着かなかったのですが、改めて見れば、髪や瞳の色こそ似ていますが、前世とは似ても似つかぬ顔立ちです。


前を引きずっているのは、私も一緒、ですね。

むしろ、ガチガチに身構えている分、私の方が重症なのでしょうか?もしかして。


どうにも、面倒に巻き込まれてばかりの今世に、今回も「トラブル発生?!」と警戒しすぎていたみたいです。

まだ(・・)彼には何もされていないというのに。




内心、己のあり方にひっそりと反省していたら、ククッとレミジオさんが笑い出しました。

「………いや、失礼。百面相が、おかしくて………」

口元を覆って顔を背けてますが、笑いが漏れている時点でダメですからね?


「………いいえ。こちらこそ、失礼しました」

まぁ、警戒心バリバリだったのも、隣の相手を放置して考え事してたのも事実ですからね。

甘んじて受けましょう。

大人ですからね、私!


それでも、冷たい視線は隠せなかったようで、レミジオさんは笑いをどうにか納めると、ベンチの背もたれに体を預けるようにして、空を見上げました。


「………あ〜〜あ、なんか気が抜けた」

ぼそりと呟いた言葉は本当にぼんやりとした響きで、スゥッと空に吸い込まれていきました。


「これでも、さ。イロイロと考えてたんだ。何を話そう、とか、何から話そう、とか。でも、そうだよな。今さら、ごちゃごちゃ何言ったって、変わんないよな」


それは、私に聞かせるためというより、自分に言い聞かせているもののようで、私はかける言葉を見つけられず、ただ、黙って聞いていました。


「そ、だな。前世(まえ)の事は、1つだけ、でいいや」

ポツリとつぶやいた後、レミジオさんは体を起こすと、ジッと私を見つめました。

真っ黒な瞳が、真っ直ぐに私の瞳を覗き込みました。


「敦史から沙絢へ。お前の最後の伝言は、ちゃんとおばさん達に伝えたから」

そうして、告げられた言葉は予想外のもので。

でも、静かな声はストンと私の胸の深いところまで真っ直ぐに落ちていきました。


『最後の伝言』


声にならない声で必死に呼んだ、(あつし)の名前に込めた想い。


言葉にならなかったはずの「ありがとう」と「ごめんなさい」を、キチンとすくい取って、そうして伝えてくれたと言うんでしょうか。


そんな重たいものを突然託されて、………自分自身だってきっとひどく傷ついた筈なのに。


胸の奥におちた言葉に押し上げられるように込み上げてきた何かは、透明な雫となって私の瞳から零れ落ちました。


意識する前に溢れてきたものは、きっと『沙絢』の想いの欠片で、だから、私は表情を変えることも、声を出すこともできずに、ただほろほろと流れるままに動くことも出来ませんでした。


そんな私に、少し困ったように笑うと、レミジオさんは黙って私の体を引き寄せ、肩を貸してくれました。

抱きしめるのではなく、肩に顔を押しつけるようにするその仕草は昔のままで、切なさと可笑しさが同時に込み上げてきます。


一方的に護られる事を嫌がった『沙絢』は泣き顔を見られるのが嫌いで、それを知っている『敦史』は見ない為に、いつもソッポを向いていたんです。

ただ、側にいるよ、と肩を貸してくれながら。


それが、2人の距離、でした。


もしかしたら家族よりも近くにいた『親友』で、何もかもを預けて隣に立っていられる『相棒』。


まぁ、ソッポを向きながらも、そっとハンカチが差し出されたのが、昔との違い、でしょうね。

そして、それを素直に受け取った私も。


もう、あの頃の2人はどこにも居ないのだと、それぞれに重ねた年数分、別の存在になったのだと、しみじみ感じました。

それは、切なくて、でも、どこかホッとするような複雑な気持ちです。


フフッと笑みが溢れました。


借りたハンカチでそっと涙をぬぐい、私は押し付けられていた肩から、そっと体を離しました。


「ハンカチ、洗って返しますね」

「………いつでも良い」

離れてしまった温もりが、少し寂しく感じました。

それは、確かに私の中に『沙絢』がいた証なのでしょう。

でも、だからこそ「寂しい」と感じたのは誰にも秘密です。


だって私は『倉敷結愛』なのですから。








「そういえば、なんで分かったんですか?」

身体を起こした私に、すっと離れたレミジオさんは、直ぐに紅茶とコーヒーの缶を持って戻ってきてくれました。

冷たい紅茶はほんのりと甘く、喉を潤してくれます。

と、同時にずっと疑問だった事を思い出して、尋ねてみました。


それに、レミジオさんは、少し困ったように首を傾げました。

「なんで、と聞かれたら、ほとんど直感だな。まぁ、『倉敷結愛』ってって存在に何かあるんだろうって言うのは、薄々分かってはいたんだが」

「何かあるって?」

予想外の言葉に、今度は私が首を傾げました。


「あぁ、『莉央』が、あまりにも俺の知る人物とは別人だったしな。そもそも、苗字が『倉敷』なままの時点でおかしかったし」

「それの何がおかしいのですか?」

次々に落とされる爆弾(ことば)に、どんどん混乱してきます。


なんで、結愛(わたし)の話のはずが莉央(あに)の話題に変わっているのでしょう?

何より、レミジオさんの知る『莉央』ってなんなんですか?


疑問だらけのわたしの顔に、レミジオさんは、少し困ったような顔で笑いました。

あ、この表情は知ってます。

沙絢(わたし)』がヤラかした時によくしてた顔です。


………なんか、嫌な予感がします。聞きたくないです。

だけど、レミジオさんは容赦なく口を開きました。





「俺の知っていた『莉央』の苗字は『夏八木』。性格も、大分違うな。なぁ、『四季彩の花を君に』って、覚えてないか?」




読んで下さり、ありがとうございました。


ゆあちゃん、警戒態勢解除です。

チョロすぎ?

そして、新たなフラグ立てますよ〜(笑

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