おでかけしましょ⑤
さて、皆様こんにちは。
突然現れた謎の青年に熱烈ハグをされて、些かパニック気味のゆあです。
はい。ここでチョットおさらい。
兄と待ち合わせ場所にアドルフォさん登場→すったもんだの挙句一緒に昼ごはん→(たぶん)お迎えの青年登場→目があって(前世の)名前呼ばれてか〜ら〜の駆け寄ってきて熱烈ハグ←イマココ
突然の事にみんな驚きすぎて動けない中、青年は私を抱きしめたままスリスリと頭に頬ずりすると少し膝を折り、甘い囁きが炸裂。
「沙絢。さぁ〜や。まさか俺の事が分からないなんて、そんな事無いだろ?」
ひゃあ〜〜。耳元で囁かないでください!
抱きしめて来る腕の力強さとか、伝わって来る体温に頭が飽和状態で何も考えられません。
てか、もうやめて、私のライフはゼロよ!
「レミジオ、とりあえず、妹を離して」
「落ち着け、レミジオ。どうしたんだ?」
真っ赤な顔でアワアワしてたら、ようやく我に返った兄とアドルフォさんが引き離してくれました。
兄の腕の中に包まれて、ようやく息ができました。
イケメンの抱擁とか、前世からの筋金入りのモジョには荷が重すぎです。
心臓もちません!
兄の腕の中から向かいを観察すると、アドルフォさんが青年を羽交い締めにする様にして引き止めてくれてました。
「さぁ〜や〜〜」
独特の発音で力なく呟かれる前世の名前。
そして、ヘニャリと眉を下げた情けない表情。
容姿は全然違うのに、非常に見覚えがある気がしするのは何でしょうね。
まぁ、ヤツにあんな甘い声で囁かれた事なんてありませんでしたけどね!
うわぁい。落ち着いたら気持ち悪さに鳥肌立ってきた。
ってのは、置いといて。
心当たりがあるからって、兄の前で反応する気にはなれません。
前世の記憶があって、彼とはその時の幼馴染なんです〜〜〜なんて、どこの電波ちゃんですか!
ありえませんから。
観葉植物で区切られて半個室と化した席ではありますが、これだけ騒げばそろそろ注目が集まってきてますしね。
イラっとする気持ちを抑えて、兄の腕から抜け出そうとしたのですが、離してもらえませんでした。しょうがないので、そのままぺこりと頭を下げました。
「はじめまして、倉敷結愛です」
青年の顔が、悲しそうに歪み何かを言おうと口を開きかけたところで、小さく爪先で床を2回トントンと叩きました。
そうして、ジッと見つめます。
青年に、ハッとした様な表情が浮かびました。
爪先で2回叩くのは、当時の秘密の合図の1つ。
『後で』
声に出せない状況で意思を伝える為に。スパイごっこにハマった子供時代に考えた物の1つでした。
………伝わった、かな?
「お兄さんも兄のお友達、ですか?」
コテンと首を傾げて見つめるうちに、青年の表情がみるみる落ち着いてきました。
すうっと大きく深呼吸を1つして、もう大丈夫だからと言うように、自分を捕まえているアドルフォさんの腕をポンポンと叩いてます。
「レミジオ=ブルグネティと言います。
先ほどはすみません。昔に別れた友人に似ていたもので、取り乱してしまいました」
兄達よりも少し低めの落ち着いた声。
本来は、こんな感じに静かに話す人なのでしょうね。
きっちりと頭をさげる様子は誠実に見えました。
隣で、アドルフォさんがホッとした顔をしています。
「ビックリしたよ。レミジオが女の子抱きしめて口説き出すんだから。環境の変化でおかしくなったのかと思った」
まだ頭を下げているレミジオさんの肩に手を置いて、場の空気を軽くするように少しおどけた調子でアドルフォさんが笑いました。
「言い訳みたいになるけど、本当に普段は真面目であんなことするやつじゃないんだ。ごめんね?」
「大丈夫です。気にしてないので顔をあげてください」
まだ、少し警戒したような顔の兄を宥めるように、私を囲む腕を軽く叩きながら促します。
そろそろ植物越しとはいえ視線が痛くなってきたので、座りたいです。
何しろ、みんなタイプの違う美形なので目立つのですよね。
「お兄ちゃん、ご飯の続き、食べましょ?母さんのプレゼント、選ぶ時間なくなっちゃいます」
少し声に甘えを滲ませて見上げれば、フッと体から力が抜けました。
ここは、諦めて引いてくれるみたいです。
「冷めちゃったな」
つぶやきながらも椅子を引いて座らせてくれるので、にっこり笑顔を返しながら素直にエスコートされておきます。
少しむず痒くて恥ずかしいんですけどね。
「大丈夫です。ここのご飯は冷めても美味しいですから。レミジオさんも良ければどうぞ」
空いている席を進めれば、少し迷った後に、素直にアドルフォさんの隣に座りました。
つまり、私の正面です。
アドルフォさんがそこに座ろうとした時、兄が強硬に反対した為、空いてたんですよね。
その時は呆れてましたが、今は、大人気ない兄に感謝です。
横で若干兄が微妙な顔をしていますが、気づかない振りです。
「ここはなんでも美味しいんですよ?」
笑顔で勧めれば、メニューをちらりと見てランチとイチゴのタルトを頼んでいました。
「あれ?レミジオ、ケーキ食べるの?珍しい」
「あ?あぁ、それは……結愛……さん、に。さっきのお詫びに良ければ」
突然、こっちに振られてキョトンとした後、笑ってしまいました。
ケーキならばベリー系。
昔から変わらない私の好物です。
ただし、コッチに聞かずに勝手に注文しちゃうのはアウトですね。
落ち着いたように見えて、まだ浮き足立ってるんだろうな〜〜。そして、名前、呼びにくそうですねぇ。
机の下でコッソリと向かいの足を軽く蹴ると、ハッとした顔をしました。
「あぁ!すまない、勝手に。苦手なら他のものに代えて………」
「いいえ。大好きなので大丈夫です。いただきますね」
慌てたように謝罪する様子に、隣の兄が突然笑い出しました。
「なんか、君でもそんなに慌てる事があるんだな。初めて見たよ」
クスクス笑う様子に先ほどの険しさはなく、少しホッとしました。
どうにも、兄は相変わらず過保護で困るんですよね。
私のことで友人と気まずくなるなんて、なって欲しくないですからね。
「私が体張って得た報酬ですから。お兄ちゃんにも分けてあげますね?」
ふふっと笑いながら冗談めかして言えば、吹き出すアドルフォさんと微妙な顔になるレミジオさん。
「そうだね。ありがたく貰おうかな?」
笑いながら頷く兄の様子にホッと一息。
仲直り、完了ですね。
さぁーて、和んだところで、どうやってレミジオさんと連絡つける算段を取りましょうかね。
読んでくださり、ありがとうございました。
て、訳で、前世幼馴染の彼、登場です。
しかし未だ前世ネーム出ず(笑
ちょっと暴走してますが、あんな別れ方した後の生まれ変わり、そして再会。
だった為、ちょっとタガが外れました。
そのうちレミジオ君視点で話させるので、あまり嫌わないでやって下さい。