表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/121

中学生になりました⑥

お久しぶりです。

春休みにドイツに遊びに行ったら先生に捕まり、ツアー先を引っ張りまわされた。


先生のステージを見せてもらうのは勉強になるし、息抜きの一環でピアノを見てもらう事もある。

代わりに身の回りの細々とした世話をするので、立場としてはほぼ対等。


ただ、普段適当なのにツアー中はピリピリする事の多い先生が僕をかまっている時は楽しそうだし機嫌がいい、と、周囲の大人に泣きつかれたため、中々日本に帰れなくなったのは予定外だった。


学校が始まるからと何度も訴えたのに、のらりくらりと誤魔化される。

日本は飛び級制度が無いから、出席日数があまりにも足りないと留年の危機だ。

ほんの少し、結愛と一緒の学年も楽しいかな?と脳裏をよぎったけど、やっぱりダメだろう。

何より、僕はピアノを仕事にする気は無い。ケジメは大事だ。


結局、「捨てないで〜」と馬鹿な三文芝居をする先生を振り切って日本に帰ってきたのは始業式から2週間後のことだった。


補習の嵐も覚悟してたけど、幸い昨年の成績を考慮してくれて、始業後すぐにあった学力診断テストを受けるだけですんだ。

私立の融通、万歳。


ちなみに学力テストは昨年度のまとめのようなものだったので無事に満点を叩き出し、友人達に小突かれまくったが、まぁ、甘んじて受けた。


小突かれるだけですんだのはおそらくお土産(ワイロ)が効いたんだろう。

中学生男子なんていつでも腹を空かしてるもので、それは上流階級のお坊っちゃま達だって大差は無い。

澄ましてたって腹は膨れないのだ。




「じゃぁ、いろんな所を回ったんですね。大変だけど、楽しそう」

僕の話を楽しそうに聞きながら結愛がキラキラと目を輝かせる。

琥珀色の瞳が柔らかくほころぶと僕までなんだか嬉しくなるのは相変わらずだ。


「そうだね。今回は下町の方を散策するのに先生が嵌って、ちょっと大変だったけど、楽しかったよ。観光地とはまた別の活気があって」

そんな町の雑貨屋で見つけたリボンを渡すと、少し大げさなくらいにはしゃいで見せて、早速髪につけてくれる結愛があざとかわいい。


「うん、似合ってるね」

黒いビロードに細かな花の刺繍がされたリボンは想像通り結愛の淡い髪によく映えた。

本当はキチンと結ばれているのに「歪んでる」と手を伸ばしてさりげなく髪に触れる。

ツヤツヤ柔らかな結愛の髪は相変わらず気持ちいい。


「いつもピンクとか赤が多いから、なんだか新鮮です」

僕の下心なんか気づいてない結愛が無邪気に笑ってされるがままになってる。

少し良心が咎めて苦笑しながら、さらりと髪を撫でて手を戻した。


「結愛ならどんな色だって似合うよ」

「…………シュウくんが向こうに感化されてプレイボーイになってます。危険です」

思った事を言っただけなのに、結愛が頬を赤く染めてブツブツ何か呟いてる。

こんな言葉言われなれてそうなのに、毎回照れるんだよね。

あの人の囲い込みが眼に浮かぶ。

やりすぎると免疫がつかなくて、それはそれで不安になるんだけど、僕だけかな?


「じゃぁ、少し遅くなったけど、中等部入学おめでとう。約束通り、なんでも弾いてあげるよ?何がいい?」

赤くなったまま「このままじゃ勘違いする女の子が量産されるから〜〜〜」なんて見当違いの説教を始めようとする結愛を遮って、僕はピアノの前に座った。


そう、ここは学園の音楽室の1つ。

選択授業用の小教室だから放課後には利用する人もいないので、学園に交渉して僕がよく利用させてもらってる場所だ。


「ディズニー系が良いです」

我に帰った結愛が、いそいそと僕の斜め後ろの位置に椅子を持ってくる。

音響的にはもっと良い場所があるのだけど、結愛は「ピアノを弾く指を見ているのが好き」という主張の元いつもそこに座りたがる。

ちょっと緊張するポディションなんだけど、ね。


「了解。じゃあ、適当にメドレーで」

軽く指を動かして、軽いタッチで音を紡ぎ出す。

最初は、世界一有名なネズミのマーチ。

愉しげに跳ねる音に結愛が笑顔を浮かべたのが視界の端に映る。


入学早々、暴走したおバカさん達がいたことは、友人から聞いていた。

僕が戻ってくる前にそれがとりあえず収束した事も。

それを解決したことが僕じゃなかったことにほんの少し残念な気持ちもあるけど、まぁ、結愛が笑ってるなら良いかな。


そもそも、「解決」っていうには微妙な終わり方だったみたいだし、本人は否定するけど結愛はトラブルメイカーだから、すぐにまた何が起こるだろうし、ね。


「ね、結愛、歌って」

何曲目かに促せば、結愛が、笑って歌い出した。

少し細いけど透明で優しい声はまさに結愛そのものだと思う。

気づけば余計な考え事は全部吹き飛んでいて、純粋に音楽で楽しんでいる自分がいるんだ。




ねぇ、結愛。

君が思うより、きっと僕は君の事を想ってる。

大好きだよ、結愛。









読んでくださり、ありがとうございました。


シュウ君は音楽で一緒によく遊んでます。

2人の逢瀬は音楽室が基本。

まぁ、シュウ君、いろいろ忙しい人なんで中々時間合わないんですけど、ね。

忘れられない為に、実は結構必死です。見せないけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ