中学生になりました④
中等部に入って結愛とクラスが分かれた。
僕たちの成績や評価を考えれば半ば予想範囲内だったけど、やっぱり少しショックだ。
結愛は成績はいいけどお人よし過ぎて人心管理には向いていないから、クラス管理にはされないだろうし、運が良ければ一緒になれるかと、ほんの少しだけ希望を持ってたんだけどな。
そもそも、愛梨とは同じクラスなのに作為を感じる。
絶対、身内にねだって操作しているに決まってる。
この学校の理事長である愛梨の祖父は、愛梨の事をかわいがっていると噂だし、それくらいならやってくれるだろう。
大体、小等部の時から、愛梨と結愛の同じクラス率高すぎだったんだから。
「りーく、黒いの漏れてきてるから。落ち着け」
「・・・ああ、うん」
掲示板の前で悶々としていたら、いつの間に来たのか洸夜に頭をこずかれた。
「しかし、噂通り見事に内部生バラバラになってるな。バランスの良い事で」
肩をすくめる洸夜に苦笑で答える。
内部生の成績上位者や各部署でリーダーシップを取っていた人物が見事に5クラスの中に配分されていたからだ。
この調子だと外部生も似たようなものだろう。
試験の中で、面接に1番時間を割いてるって噂は間違ってないんだろうな。
不穏分子は極力振り落とす。
けどまぁ、絶対じゃ無い。
人のやる事だし、みんなネコ被るから。
それを抑えるためにも、内部生の有力者を均等に配分してるんだろう。
「中等部のクラスくらいまとめて見せろ」との大人達の意図も透けて見えるけど……。
「まぁ、クラスくらい別れたって、放課後や昼休みに遊べば良いし」
「………そっだな」
つぶやけば生温かい目で見られた。
はいはい。
どうせ強がりですよ。
学校が始まって二週間がたった。
入学ガイダンスも終わり、通常授業が始まって、クラスの方もまだ多少ぎこちないながらも平穏に回り出した。
まぁ、案の定クラス委員なんて押し付けられた僕は、昼休みや放課後にクラス会議や委員会なんかに呼び出されて忙しいんだけど。
1年の1学期は先生の指名だから断れない。
家柄も考慮されるため、結愛はいないし、忙しいだけで殆ど旨味が無いんだよ。
やってらんない。
内心のため息を押し殺しながら退屈な会議に出席する。
初等部と違って中等部は、生徒にかなりの自治権が渡されるせいで、何かと細かい会合が多いんだよな。
1年のクラス委員なんてどうせ発言権も決定権も無いに等しいんだから、勝手にやってくれれば良いのに。
そんな事を考えてたら、隣にいた洸夜に脇を突かれた。
顔には出してないんだから、考えるくらいほっといてくれないかな?
「陸人、意外と顔に出てるんだよ。他はともかく、北条先輩達にはバレる。面倒はごめんだろ?」
会議が終わって洸夜と駐車場の方へ向かっていれば、呆れ顔の洸夜に窘められる。
生徒会メンバーを思い出し、顔をしかめる。
会長の北条家嫡男である祐さんは、家同士の付き合いがあるため、幼い頃からの顔馴染みだ。
確かに、祐さんにはバレバレだろうな。
2つ上の彼は、人の嫌がる所を突いてからかう悪癖がある。
弱みは見せない方が得策、か。
「………結愛に会いたいな」
顔馴染みにさえ弱みを見せられない化かし合いの日々は、偶に酷く疲れてしまう。
裏表のない結愛の笑顔が恋しい。
しみじみ呟く僕に洸夜が笑う。
けど、洸夜だって似たようなものだ。
そこに僕と同じ感情が無いだけで、結愛との会話に癒されてるのは知ってるんだからな。
「今度、みんなで遊ぶ算段でもつけるか」
「………だね。どこならスケジュール、合うかな?」
そんな会話をしてた僕の耳に、ふと何かが引っかかった。
女の子の声。随分とトゲトゲしい……。
この校舎は、特別教室が集まっていて人気が少ない上に裏庭に面してる。
秘密の集会を開くにはうってつけだろう。
何気なく窓から外を見て、僕は持っていた鞄を洸夜に押し付けると走り出していた。
複数の女の子に囲まれている少女の髪が、陽の光にきらめいていた。
そんな子、僕は1人しか知らなかった。
僕の突然の行動に驚いて名前を呼ぶ洸夜を無視して、あそこに駆けつけるための最短コースを選択する。
そうして、駆けつけてみれば案の定、険しい女の子達の真ん中で、少し困り顔の結愛を発見した。
振り上げられた手を止めた瞬間、安堵と怒りが湧いてきて、暴走しそうになる感情を僕は必死に飲み込む羽目になった。
流石に、女の子に暴力は駄目だ。
それでも、シッカリと釘だけは刺しておこうと注告を残して、僕は結愛の手を取るとその場を離れた。
「………陸人君、怒ってますか?」
手を引かれるままについてくる結愛をチラリと見れば、明らかにションボリと肩を落としていた。
気のせいかいつも元気にぴょこぴょこ跳ねてるツインテールも萎れて見える。
「………別に。心配しただけだよ」
囲まれている結愛に怪我は無いみたいに見えたけど、コレで結愛が怪我していたらと思うとゾッとした。
「なんでついて行くかな?危ないでしょ?」
「………はい。ごめんなさい」
思わず漏れた声は我ながら説教じみて響いた。
結愛がますますションボリと肩を落とす。
なんだか僕が悪い事してる気分になってきて、ため息を1つ。
「お話ししたら、分かり合えるかなぁって思ったんです。………思っていた以上に、思考が凝り固まってて、どうしたら良いのか分からなくなっちゃいましたけど」
ションボリ結愛は、どこまでも結愛だった。
あんな明らかに難癖つける気満々の子達にまともな会話なんて、通じるわけ無いのに。
ああゆう手合いは、自分の聞きたく無い情報には上手に耳をふさぐんだから。
「結愛だって、僕が………僕達が理不尽に怪我したら嫌だろ?」
足を止めて、目を覗き込む。
突然の僕の言葉にきょとんとしながらも結愛が頷く。
「僕らだって結愛が痛い思いや怖い思いをするのは嫌だよ?結愛の事、大切だから」
僕の言葉に大きく目を見開いた後、結愛が恥ずかしそうな嬉しそうな顔で頬を染める。
あまりに可愛い表情に僕の心臓がドクンと音を立てる。
うん、勘違いするなよ?僕。
結愛のコレは「友愛」だ。
たぶん、愛梨が同じ言葉を言っても同じ顔をするんだ。
脳裏で愛梨の奴が高笑いをして、僕は冷静さを取り戻した。
「だから、危ない事、しないって約束して?呼び出されても、行かない。どうしても気になるときは、誰かを連れていく事」
琥珀色の瞳を見つめながら言い聞かせば、結愛はコクリと頷いてくれた。
「はい。心配かけました。本当にごめんなさい」
「許さない」
神妙に謝る結愛に、僕はあえてにっと笑って見せた。
結愛の目が驚きに見開かれる。
「お詫びに学食で飲み物奢って?そしたら、お返しにケーキ奢ってあげるからさ」
笑いながらそう続ければ、結愛の驚き顔がゆっくりと笑顔に変わった。
車で待っていた洸夜から電話が来てその存在を思い出すのは、15分後の事。
どこからか聞きつけた愛梨が合流するのはさらに10分後で。
結愛との2人っきりの時間は、いつも通りあっけなく終わったんだ。
まぁ、みんなで騒ぐのも楽しいし、良いんだけどね。
読んでくださり、ありがとうございました。
基本夜に書いているため、サーバーに繋がらない事件はビックリでした。
と、さりげなく遅くなった言い訳をしてみたり………。
陸人君は相変わらず。
これでも対外的にはちゃんとしっかり者の仮面をかぶっています。
だけど、根が素直なので疲れて、結愛に癒されるんです。
洸夜君はおかん化が進んでいる模様。
同級生の中では、彼が1番大人です。