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観察されました(しました)

「………君が、シュウ君?」

いつもの裏庭でのんびり本を読んでると、不意に声をかけられてぼくは顔を上げた。

いつの間に来たのか、すぐ目の前に中等部の制服を着た男子生徒が立っていた。

………気配、感じなかったぞ?


黒髪に同じく黒い瞳が、じっとぼくを観察(・・)していた。

そう、まさに観察(・・)

でも、嫌な気配では無い。どちらかと言えば、どこか面白がるような空気を感じた。


「………そう、ですけど」

どちら様?という空気を醸し出しつつ首をかしげて見せながらも、ぼくは目の前の整った顔立ちにどこか懐かしさを感じていた。

この顔を、どこかで見たことがある?


クスリと黒い目が細められる。

「ああ、失礼。僕の名前は倉敷莉央(くらしきりお)。妹が最近お世話になってるみたいだね?」


「………倉敷……って、結愛ちゃんのお兄さん、ですか?」

思いがけない人物の登場に目を見開く。

そういえば、結愛が、中等部に兄がいるって言ってたけど。


「そう。最近、君の名前が結愛の口から出てくることが多くてね。気になって野次馬しに来ちゃったよ」

戯けて肩をすくめて見せる仕草がとても綺麗で、結愛を思い出させた。

顔はあまり似てないけど、雰囲気は良く似てる、かな?


おおかた、自分の目が離れた途端に現れた見知らぬ虫を確認に来たんだろう。

驚きが去ってしまえば、理由も推測がつく。


推測がついたら、自ずと対応は浮かんできた。

「こちらこそ、仲良くさせて貰ってます。ぼくはまだ、こちらにあまり知り合いが居ないので」

意識してにっこりと笑顔を浮かべ敵意が無いことをアピール。

今後も結愛の側にいたいなら、この人を敵に回すのはどう考えても悪手だろう。

結愛の話してくれる様子からも、彼女が兄を大好きなのは間違いなかったし、わざわざこんな所まで足を運ぶくらいだから、この人も相当だ。


立ち上がり、ペコリと頭を下げる。

ぼくの様子に、結愛のお兄さんは少し首をかしげてじっとぼくを見つめてきた。

探るような視線が少し居心地悪いけど、あくまで目は逸らさず、胸を張っておく。

疚しい事は何も無いし、おどおどするのも変だし、ね。


「………お兄ちゃん!どうしてここにいるんですか?!」

その時、驚いたような声が響いて、結愛が駆け込んできた。


「予定が早く終わってね。結愛を迎えついでに、噂のシュウ君にご挨拶してたんだよ」

振り向いた横顔が優しげに綻んだ。

その瞳が、結愛を特別なんだと物語っていて、なんだか胸がさっきとは別の意味でドキリとする。

だけど、跳ねた鼓動の意味が良く分からない。


「もう、お兄ちゃんは過保護すぎます。シュウ君にも迷惑ですよ?」

腰に手を当て、怒ってます!とポーズを取る結愛の仕草が可愛い。

「ごめん、ごめん。だって気になったんだよ」

あやすように頭を撫でられ、結愛が困ったように眉を下げた。


「シュウ君、ごめんなさい。いろいろあってうちの家族は心配性なんです」

「いや、大丈夫。ご挨拶して貰っただけだから」

後、妹の側に置いていいかのチェック受けてたけどね。そこまで言うのは無粋だろう。

首を振ると、そうそうと頷きながら綺麗な微笑みを向けられた。


「これからもよろしく、ね。秀一郎君」

………含みを感じるのは、ぼくだけかな?

まぁ、第一関門は通ったんだろう。

「いえ。よろしくお願いします」


応えたぼくはその時、感じた含みにいろんな意味があったなんて、当然気づきもしなかった。

懐かしいと感じた意味さえも取り違えていたことに気づくのは、もう少し後の話。






「もう!わざわざこんな所まで見に来るなんて悪趣味ですよ?」

手をつないでいつもの道を帰りながらも苦情を言ってくるゆあをあやしながら、僕はさっき会った「シュウ君」の様子を脳裏で反芻していた。


名前を名乗っても、純粋な驚きだけで、特に含みは感じなかった。と、いう事は彼は「僕」の存在を知らないんだろう。

もしくは、存在は知っていても細かい情報は知らない、のかな?


「どうやら、考えすぎだったみたいだな」

「何がですか?」

思わず声に出てたみたいで、ゆあが不思議そうに尋ねてきた。


「ん〜、なんでも無いよ?賢そうな子だね。僕もピアノ、聞いてみたいな」

「ですよね〜、コンクールには先生の方針で出てないそうですけど、小さい頃からずっとならってるんだそうですよ〜?」

適当にごまかせば、仲良しのお友達(・・)を褒めてもらえて嬉しいらしいゆあはニコニコ笑顔になった。


………ちょろすぎるよ、ゆあ。

素直なのは良いけど、ちょっとお兄ちゃんは君の将来が不安になってくるんだけど。

まぁ、フォローはするから大丈夫だけどね。


「今日のデザートはチーズケーキだって。楽しみだね」

「本当ですか?!楽しみです!」

歓声をあげるゆあの手を引きながら、僕らはいつもの道をのんびりと帰ったんだ。





そうそう。

血の繋がりってやっぱりあんまり関係無いや。

僕は「結愛」だから可愛いし、大好きなんだ。


読んでくださり、ありがとうございました。


悩みましたが、シュウ君は莉央君に気づいてない方向で行くことに決めました。

状況変わって「あの子」に対するコンプレックスは無くなったとはいえ、やっぱり複雑だと思うんですよね……。

もう少し大きくなって、そこら辺の折り合いがつくまでは極力秘密って事で。


兄も好奇心はとりあえず満たされたので静観の構えです。

コレで、同じクラスとかだったら、また違った行動に出てたんでしょうけど、クラス違って放課後たまにくらいの接点ですしね。

ゆあちゃんの心労の方を取りました(笑)


って訳で、当分ゆあちゃんにも秘密です。

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