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シュウ君の正体

今更な副題ですが(笑)

ちなみに現時点でゆあちゃんは当然気づいてません。

放課後、いつもの裏庭でシュウ君に会うと、私は、改めてお礼をいって貢物マドレーヌを差し出しました。

「すごいね、結愛ちゃんが作ったの?」

きちんと一言断ってから箱を開けたシュウ君は、本当に礼儀正しいですね。

そうして、嬉しそうに笑うと一つつまんで食べてしまいました。

「・・・・・・・飲み物も用意すれば良かったですね」

もぐもぐと口を動かすシュウ君のおいしそうな笑顔にほっこりしながら思わずこぼせば、首を横に振られました。


「いや。ごめん。おいしそうでつい。残りは家で食べるよ」

行儀悪いよね、と箱を閉めるシュウ君は、なんだか年相応にかわいく見えました。

「喜んでもらえて良かったです」


隣に座って足をぶらぶら。

その場に沈黙が満ちますが、なんだか落ち着きます。

春の暖かい風が気持ち良いですね〜。


のんびり和んでいたのですが、今日はお礼の他にも、大切な使命があるのを忘れていました。

それは〜〜。


「シュウ君、お名前教えてください!」

思い出した勢いのまま大きな声を出せば、隣に座っていたシュン君の目がまん丸になりました。

ですよね〜、そうなりますよね〜。

今更名前教えてって何事かと思われて当然です。


が、兄にも言われたことですし、なあなあで誤魔化すのもダメでしょう。

聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥。

自己紹介したのは小さい時、ですし、覚えてなくても時効ってことでひとつ、よろしくでございます。


じっと見つめる私にくすりと笑った後、シュン君はベンチから立ち上がり私の正面に膝をつきました。

夏八木なつやぎ秀一郎です。どうぞよろしく」

両手をとられ、上目遣いで自己紹介。そうして、手の甲に軽く唇を落とされて・・・・・・。

「ひゃあっ!!」

驚きすぎて奇声をあげて万歳をしながら立ち上がる私に、シュウ君ははじかれたように笑いだしました。

からかわれた!ひどい!!

動揺しすぎて言葉も出ず、抗議の意味も込めてにらんでみても、涙目で真っ赤な顔じゃ迫力なんてゼロでしょう。


「ごめん、ごめん。もう、忘れないでね?」

くすくすと笑いながら謝られたって誠意のかけらも感じられません。けど、名前を忘れていた負い目もあるし、痛み分け、です。

「・・・・・・・女の子にそんな事簡単にしたら、勘違いされて大変な目に合うんですからね」

それでも思わず恨み言のように呟けば、「ほかの子にはしないから大丈夫」とさわやかな笑顔が返ってきました。

もうっ!シュウ君、プレイボーイ確定です!!






「と言うわけで夏八木秀一郎君ってお名前でした。

去年までドイツにいて、おうちの都合で今年から編入してきたそうです。ずっとピアノを習ってて、今度聞かせてもらう約束をしました」

ニコニコ笑顔で報告してくれる結愛の話を聞きながら、僕は顔色が変わらないように気を付けながら相槌を打つのが精いっぱいだった。

知識としては知っていた異母弟の名前が突然出てきたら、動揺するなという方が無理だ。


祖父母との同居が落ち着いた頃、僕は好奇心の元、離婚した父親の存在を調べた事がある。

離婚しても父親の名前は戸籍に残る。

珍しい名字と名前の組み合わせは、ネットの検索にかけてみるとあっさりと判明した。

その後も、相手を知らなければ対策は立てられない、と、少しづつ情報を集めた。


実父と相反し決裂。権力を奪った後外国へと渡り、会社の方も軌道に乗せていた。

体調の方も精力的に動き回っているところを見ると、もう、問題ないのだろう。


生活が落ち着いた様子でもこちらにコンタクトを取ってこないから、すでにないものとして扱われているのだろうと安心してたのに、まさかゆあの方から繋がってくるとは予想外だ。


ゆあが夕食の手伝いへと降りた後、僕はパソコンを立ち上げ、厳重にカギをかけたファイルを開いて中を確認していた。

相手が何をしたいのかわからない以上、情報はしっかりと集めていた方が良い。

日本に戻ってきていたのは知っていたが、何のために帰ってきたのか、もう一度きちんと調べなおした方がいいだろう。

ため息を押し殺し、僕は電脳世界へと飛び込んでいった。





藪蛇になるかも知れない。

だけど、いくら情報を集めたとしても、結局最後に頼れるのは自分の目だというのが僕の持論だ。

今更、実父の存在がこちらに絡んできても面倒なだけだ。


家名を後ろ盾にしなければ問題を乗り越えられない程愚図では無いつもりだし、実際、自分の積み上げてきたものでいろいろな問題を解決して来た実績もある。


だったら、実物と会っても大した問題では無いだろう。

調べた限り、「シュウ君」は実に優秀で聡明な子らしいし。


最もらしい言い訳を付けたけど、好奇心が抑えられなかったのも理由の半分。

ゆあと同じ、半分だけ血の繋がった「弟」。


集めた文字の情報だけでは得られなかった何かを感じるのか、どうか。

好奇心は猫をも殺すっていうけど、僕は今度「裏庭」へ行ってみようと、パソコンの画面を見ながら心に決めた。


読んでくださり、ありがとうございました。


お兄ちゃん、興味津々。

テリトリー内に入ってこなければ、通り一遍調べるだけでスルーする気満々だったんですけどねぇ。

あ、現時点でゆあちゃんに異母弟だって情報を与える気は更々ありません。

それで変に意識されても嫌ですし、ね。

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