進級しました。⑧
羞恥心に転げ回った次の日。
重い足取りで登校した私を待っていたのは、2人の女の子でした。
対立していたグループのリーダーさん達です。
黒髪ショートのボーイッシュな子が高原咲ちゃん。
茶髪ロングで毛先だけをクルクルと巻いているのが古屋敷さらさちゃん。
2人は教室に入ってきた私に駆け寄ると深々と頭を下げました。
「「ごめんなさい、ゆあちゃん!」」
大きな声にビックリして固まると、2人が泣きそうな顔で顔を上げました。
「あんなに悲しませているなんて、思わなかったんです。愚かな私を許してくださる?」
「最初は本当に庇ってるつもりだったんだ。だけど、途中からおかしくなってた。本当にごめん」
それぞれに謝罪されているうちに、どうにか頭が動き出しました。
つまり、なんだか悔しいですがシュウ君の言うとおり、いい方向に動いたんですね。
「………私こそ、泣いて逃げてしまってすみませんでした。ちゃんと、最後まで頑張らなくてはいけなかったのに」
顔色の悪い2人に申し訳なさが募ります。
私が昨日逃げてしまったことで、2人は昨日から心を痛めたままだったのでは無いでしょうか?
ぺこりと頭を下げれば、2人が慌てたように顔を上げさせようとしてきます。
それに逆らわず顔を上げると、にっこりと笑ってみました。
「では、お互い様、ということで。改めて挨拶から始めさせてください。倉敷結愛です。仲良くしてください」
間違えたなら、最初からやり直せばいいんです。
仲良くしたいなら、ご挨拶、ですよね。
そんな気持ちが通じたのか、2人が顔を見合わせると、挨拶を返してくれました。
「高原咲。よろしく。昼休みとか、一緒に遊びたいな」
「古屋敷さらさです。さらさとお呼びくださると嬉しいわ」
「はい。よろしくお願いします」
差し出された手をしっかり握ってブンブンと振ると、その周りを様子を伺っていた他のクラスメイトがどっと囲んできました。
次々とかけられる謝罪の声に首を振ったりうなずいたりしながら、なんだか嬉しくなって、私は笑ってしまいました。
このクラスになって、初めての心からの笑顔だった気がします。
入り口のところで立ち止まったままその騒ぎを嬉しそうな、呆れたような顔で眺めている陸斗君達を見つけて手を振っておきました。
うん。楽しい3年生生活、改めてスタート、です!!
「で、ですね。今はみんなでとっても仲良しなんです!」
「そう。良かったね。頑張ったね」
優しい笑顔の兄に頭を撫でてもらいました。
未だに、あの日を思い出せば頭抱えて転げ回りたい気持ちになりますが、この笑顔を見れるのならば、少し報われた気になりますね。
現在、自宅で兄とお茶会中なのです。
お茶受けはおばあちゃんのシュークリーム。絶品です。
で、ここ最近心配をかけていたであろう兄にご報告をしていたんです。
きっと内心ヤキモキしながらも、きちんと見守ってくれていた兄に感謝しながら、生クリームとカスタードがたっぷり詰まったお菓子に噛り付きました。
うん、美味しい。
「でも、そのシュウ君はどこの子なんだい?そんな子、前からいたかな?」
不思議そうな兄の声に、そういえば、と首を傾げました。
「私、他の学年の人あまり知らないのですが、たぶん、いなかったと思いますよ?居たらきっと目に止まってると思いますし。転入生なんじゃ無いでしょうか?」
考えてみれば、シュウ君のこと、ほとんど知りませんね。
というか、フルネーム、なんでしたっけ?
昔聞いたっきりで、今更確認もできない為、知らないんですよね。
まぁ、知らなくても困ってなかったってのが最大の原因とは思いますが。
「今度、聞いときます」
「そうして」
のんきな私に呆れたような笑顔で兄が頷きました。
シュークリームは美味しいし、ここ最近の悩み事は解消したし、兄には褒めてもらえたし、言うことなし!です。
明日改めてシュウ君にお礼を言っておきましょう。
読んでくださり、ありがとうございました。