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進級しました⑤

ライバルの登場です。

裏庭のベンチに座り込み、大きく背伸びをして深呼吸。

ふう、落ち着いた~。

どうも。最近お疲れ気味の結愛です。


陸斗君が登校するようになって数日。

休み時間とか側についてくれて、女子のグループ争いから遠ざけてくれようと頑張ってくれているので、表面上は落ち着いた感じですが……。


うん、微妙です。

そもそも、この争い。庶民の私が良家の子息の側に居るのが気にくわないって旧家のお嬢さんと、個人の尊重を歌う新興のお家のお嬢さんの争いでもあったわけで、そこに件のご子息である陸斗君が出てくると……。

水面下で激化してる模様です。わあ~い。

もう、これ、私にどうこうできる範囲こえてません?投げちゃだめ、ですか?


ため息をついて空を見上げます。

現在、昼休みなんですが、陸斗君はお休みの間の補習、愛梨ちゃんと洸夜君はクラス委員の集まりのため絶賛お一人様です。

本当は、図書室にでもこもろうと思ってたのですが、クラスの子達が居たため、適当な理由つけて逃げてきちゃいました。


裏庭とは名ばかりの校舎の死角にある空間に、植えっぱなしな感じの木々とベンチがひとつあるだけの小さなそこは、最近見つけた隠れ場で、まだ愛梨ちゃん達も知りません。

誰にも会いたくなくて彷徨っているうちに、偶然見つけた場所でした。


「進歩無いなあ~」

人間関係がうまくいかなくて逃げてしまった前世の幼少期と、行動がほとんど変わっていません。

膝においた詩集に目を落とし、ため息をもう一つ落としたとき。


「何が進歩してないって?」

その声は降ってきました。


「誰?どこ?」

独り言に返事が来るとビックリしますね。

思わず立ち上がってキョロキョロと辺りを見渡すと、ザザッと葉擦れの音と共に頭上から人影が降ってきました。


「脅かして悪かった。初めてここで人に会ったもんで、つい………」

目の前に降り立ったのはスラリと背の高い男の子でした。ズボンが長く、校章の色がオレンジ。という事は四年生ですね。


艶々の黒髪はサッパリと短め。スクエアの黒縁眼鏡が賢そうな印象ですが、その奥の薄茶の瞳がよく見れば楽しそうに笑っています。

まるでイタズラが成功した時の子供のような……と、観察していると、ゆっくりと男の子の目が驚きに見開かれていきました。

そして……。


「………ゆあ?」

小さく名前を呼ばれて、知らず、私の体が驚きに強張りました。誰?知り合い、でしょうか?

緊張した私の様子に気づいた男の子が、困った様に小さく首を傾げました。


それから、少し迷った様にした後、カードケースの中から何かを取り出してコッチにかざして見せました。

「コレ、見覚えないかな?」


それは小さなビーズの花飾りがついたピン留めでした。

キラキラ光る水色のビーズで作られたそれは、数年前に無くしたまま見つからなくなっていた物で………。


驚きに目を見開き、改めて目の前の男の子を見つめます。

すると、かちゃりと眼鏡が外されました。くっきりさらされた瞳は薄茶の中に濃い青の瞳孔がまるでお花の様に見えて。

「………シュウ君?」


そんな瞳の持ち主を私は1人しか知らなくて、そろりと昔のままの呼び名を口にすれば、目の前の男の子はとっても嬉しそうな笑顔で笑いました。

「うん。久し振り、ゆあちゃん。昔とちっとも変わってないから直ぐに分かったよ。こんな所で会うなんて思わなかったから、ビックリした」


記憶の中のままの清々しい笑顔に、つられた様に私も笑っていました。

「シュウ君は変わりすぎです!誰か分かんなくて驚きました!あ、でもやっぱり笑顔は変わんないかも、です」

「うん、その喋り方も、懐かしいな。僕より小さな子がデスマス調で喋るんだもん。驚いたよ」


クスクス笑いながら言われて、そんな風に思われていた事実にビックリです。

そういえば、誰も突っ込まないから気にしませんでしたが、幼児がデスマスで喋ってたらちょっと違和感ですかね?

前世(むかし)からこんな喋り方だったので気づきませんでした。



「あの日、約束破ってすみませんでした。ちょっと色々あって」

再会の興奮が収まってくれば湧き上がるのは後悔の念です。


本当は、月曜日の幼稚園が終わった後にまた会う約束をしていたのです。

日曜に誘拐されて行けなくなって、次に1人で外出できたのは1年以上たった頃でした。

子供の口約束とはいえ、きっとシュウ君は待っていてくれたんじゃないかと思うんです。


「良いんだ。あの後、僕も引っ越しちゃって行けなくなったし、こうしてまた会えたから……大丈夫」

泣きそうな顔で謝る私にシュウ君は驚いた後、にっこり笑って首を振ってくれました。


「コレ、最後に公園に行った時見つけたんだ。やっと返せた」

そっと手に乗せられたピン留めをぎゅっと握りしめます。

美花ちゃんとお揃いで買って貰ったお花のピン留め。無くした時はすごく悲しくて、何度も美花ちゃんと母さんに謝りました。


「嬉しいです。ありがとうございます」

あの後、もう一度別の飾りを買って貰いましたが、やっぱり最初のって特別です。

帰ったら美花ちゃんに報告しましょう。


「で、何が進歩なかったの?」

ウキウキした気持ちは、途端に思い出された現実の前にシュルシュルと萎んでしまいました。

突如萎れてしまった私の顔をシュウ君が覗き込んできます。


「良かったら今度は僕が相談にのるよ?」

青いお花の瞳に覗き込まれ、私は気付けば悩みを口にしていたのでした。

読んでくださり、ありがとうございました。


やってきました初恋(?)の君!

というわけで陸人君のライバルでした。


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