転生したらネグレクトされてました④
シリアス展開。虐待描写あります。
みなさん、お久しぶりです。
最近2歳になりました、ゆあです。
2歳の誕生日は、ちゃんとケーキ買ってもらえましたよ。やっほぅ!
現在、鼻歌なんぞを歌いつつ洗濯物畳んでます。傍では兄が台を使って干してます。
そう。
兄に掃除洗濯仕込みましたよ。
お風呂だって毎日入るようになりました。
やっぱり人間、清潔は欠かしちゃいかんと思うのです。
彼氏(笑)にご馳走作って後は冷蔵庫の中で萎びていっていた野菜達を、電子レンジでチンして食べる事もできるようになりました。
流石に身体小さすぎて、私ではガスや包丁はまだ厳しいんですよ。
兄は「どこで覚えたの?」ってキョトンとしてましたが、「おんなのこはしってゆのよ?」って言えば納得してました。純粋万歳。
なんか小綺麗にしている私達と部屋を見て、調子に乗った母親の外泊が増えたのは大誤算でしたが。
もう、いっそ帰ってこなくてもイイから生活費だけはしっかり置いていってください。
1回、マジで餓死するかと。
米炊いて塩ご飯で凌いだけど、もうあんなの2度とごめんです。
機嫌がいいとき狙ってしっかりおねだりしましたとも。
米と非常食。
最近のレトルトや冷凍食品は良く出来てます。長持ちする根菜類も買ってもらえました。
さらに!
子供用料理番組、兄に見せて「これ食べたい」コールしたら再現してくれましたよ。
小躍りして喜んだら、その後も真面目に観て作ってくれるようになりました。
というか、この兄、マジで高スペックです。
こうして、日々快適さを改善しつつ、平和に楽しく生きてきたのですが、ここに来て急展開です。
母親が遂に彼氏と同棲始めました。
我が家で。
ある日、男の人連れてきて「パパよ〜」って、チョッ、マジか?!
遂に春?平和な生活GET?脱ネグレクト?!
って、小躍りした日がありました。
現実はそんなに甘く無い。
虐待のバリエーションが広がっただけでした。
最初は良かったんですよ。
しかし、母子手当+αで生活してたであろう家庭に大の大人が1人増え、誰も働か無いで生活できるはずもありません。
しかし、男は働く気0でした。
大方、住んでる場所追い出されて手っ取り早く寄生できる場所探してただけだったんでしょうね。
で、うちの母親に白羽の矢がたった、と。
男の口車に乗せられ、母親が働きに出ました(あ、履歴書書いてるの見て母親の年齢判明。若そうだと思ってたら、22才でした。本当に若かった!)
見事昼のバイトGET。
そして残される彼氏と子供達。
どう考えてもフラグです。
1日家でゴロゴロして暇を持て余した男は、私達で遊ぶことにしたらしいです。
口でからかうのに始まり、ベソをかくのに笑い……。こずかれたり、些細なことで食事を抜かれたり。
どうにか対抗しようとしたんですが、知恵はあっても身体は2歳児。
私を庇って兄が暴力振るわれた時点で、コレはダメだ、と、外に逃げ出しました。
母親がいる時に暴力が振るわれる事は無かったので、母親がいる間にオニギリこっそり握って、男が寝てる間に兄と外に逃亡。
寒い日も、図書館やデパートの階段とかで大人しくしてるぶんには追い出される事もありません。
つかの間の平和は、だけど、男が切れた事で終わりました。
ある朝、母親がバイトに出て、時間差で外に出ようとした時、男が寝室からゆらりと出てきたのです。
不味い。
眼を見た瞬間、悟りました。
男の眼は、捕食者のそれでした。
しかも、どうやって嬲り殺してやろうかという、ネコ科のそれ。
恐怖で固まってしまった瞬間に、腕が捕まれ力任せに引っ張られました。
子供の細い腕が衝撃に耐えられず、変な音がしたのが分かりました。
1拍後、声もでない激痛が走りました。
男も変な音に驚いたのか手を離し、実質放り投げられた身体は床に打ち付けられ、更なる苦痛に襲われました。
意識せず、泣き声があふれ、その声に動揺した男が「うるせぇ」と蹴りつけようと足を上げた所に、兄が私の上に覆いかぶさってきました。
兄の背中に男の足が振り下ろされて、私の上で兄が顔をしかめました。
男が何かを喚いているけれど、痛みのためか上手く聞き取れません。
兄が暴力に耐えるように唇を噛み、ギュッと私を抱き込みました。
私を体の下に庇い、まるで亀のように小さく体を丸め、男の暴力に耐えています。
兄の薄い体越しにも衝撃が伝わってきます。
このままじゃ、兄が殺される!!。
家の鍵は開いてる。誰か!!
声の限りに泣きわめきました。
子供の高い声は朝の静かなこの時間に響くはず。きっと、誰か来るはず!
「何してんのよ!!」
助けは、きました。
響いた声に、男の罵声と暴力が止みます。
兄の肩越しに見えたのは蒼白になった母親の顔。
コレは、ダメだ。
そう、絶望した私を誰か叱ってください。
だって、母親はいつだって彼氏探しに夢中で、いつだって私達は二の次で……。
だから、今度だって。
男もそう思ったのでしょう。
「いや、こいつらが悪さするから、躾けてたんだよ」
ヘラリと笑うと、いまだに私の上から動かない兄の背中を蹴りつけました。
とたん、母親の顔が般若のようになり、玄関に立てかけてあった傘を掴むと男に殴りかかったのです。
「うちの子達に、なにしてんのよ〜!!」
頭にフルスイング。
チャチな百円ショップの傘が曲がる勢いで。
痛みで蹲った男を押しのけ、私達に駆け寄る母親の姿に、痛みとは違う意味で涙が溢れました。
「大丈夫?!生きてる?!りお!ゆあ!!」
この人は、確かに私達の母親だったんだと。
……確かに、少し自覚は足りないし、ネグレクト気味だったけど。1度失敗してからは冷蔵庫の中には食料が切れる事は無かったし、少なくとも、暴力を振るわれる事はありませんでした。
寂しかったけど、辛かったことは無かったんです。
ただ、小さな子供を育てるにはこの人もまた、子供だったんだと思います。
1人ではどうしていいのか分からないくらい。他に助けを求めて、きっとそれが彼氏……「パパ」だったんです。
「このアマ〜!!」
立ち上がった男が、母親の髪を鷲掴み私達から引き離し、殴りつけました。
吹っ飛んだ母親は、それでも直ぐに立ち上がり男に飛びかかっていきます。
「うるさい!でてけ〜!!出てけよ!!この子達に暴力振るう父親なんかいらないんだよ、でてけ〜!!」
体格は違っても死に物狂いになった成人女性はなかなかの攻撃力を持っていました。
殴られても蹴られても決して怯まず、私達と男の間に立ち塞がり噛みつく、引っ掻く……。どうにか外へと押し出そうと戦う母親はボロボロだけど、とても綺麗に見えました。
私は痛みでこわばる体を引きずるように動かし、ベランダに出ると声の限りに叫びました。
「たしゅけて〜〜!!ままころしゃれる〜〜たしゅけて〜〜!!!」
誰かが飛び込んできてくれて、男を取り押さえ、更に飛び込んできた警察官の姿が目に飛び込んできた時、私の意識はフェイドアウトしました。
お兄ちゃん、怪我、酷くないといいなぁ〜。
読んでくださり、ありがとうございました。