進級しました。③
「おはようございます」
教室に入るときのお約束。扉の所で元気に挨拶して、自分の机に向かいます。
途端に集まってくる女の子達。
「おはよう、結愛ちゃん」
「結愛ちゃん、今日のリボンもかわいい」
「本当。どこで買ったの?」
楽しそうなおしゃべりはまるで小鳥さんのようで可愛らしいのですけどね。
「朝から騒がしいこと。せっかくの清々しい空気が最悪だわ」
「本当に。自由な時間だといっても、節度は持っていただきたいわね」
少し離れたところから、聞こえよがしな嫌みが飛んできました。
「あら?そんなに騒がしかったかしら?」
「ごめんなさいね。起き抜けの耳には、うるさく感じたかもしれないわね」
それにすかさず応酬が。
無邪気に謝っている風でトゲがありますね。
その心は、こんな時間まで寝ぼけてるなんておかしいんじゃ無い?って所でしょうか。
「どういう意味かしら」
「そちらこそ」
ああ、火花が見えます。
にらみ合う二つのグループのただ中に置かれ、胃がきりきりします。
だから、対人スキル低いんですってば!
この状況から和やかな雰囲気に持って行くなんて、私の手には余ります。
え?前世の知識?
言いたくないですが、人見知り気味で隅っこ族だった私に何を求めてるんですか?
女の子特有のやりとりに馴染めず隅っこで本を読んでた幼少期。そうして二次元にはまっていったんですっけ。ああ、懐かしきおもひで……。
仲良くなればぐいぐいいけるんですけど、そこまでが長いんですよね。
「外では猫十匹ぐらい乗ってる」「典型的内弁慶」とよく幼馴染に笑われてました。
「結愛、こっち」
一触即発な雰囲気に現実逃避していると、ちょんちょんと肩を叩かれ振り抜けば、困惑顔の陸斗君の姿がありました。
「あ、風邪は良くなったんですか?」
始業式の日、洸夜君が「明日には~」と言っていたのですが、結局まるまる一週間お休みしていたのです。春先の風邪はこじらせると厄介ですものね。
「ああ、心配かけてごめんね。体調は割とすぐ良くなったんだけど、若いくせに弛んどる証拠だって、ひいお爺さまが暴走しちゃってね……」
あ、陸斗君が遠い目に。いったい何があったのでしょう。
聞きたいような、聞きたくないような……。
「それより、どうしたのこの状況?」
促され視線を戻せば、口調はあくまで穏やかな嫌みの応酬が。
つかみ合いのけんかや、罵倒にならないのは、育ちの良さってやつでしょうか?
いえ、こっちの方がよっぽど胃に優しくないんですけどね。
「………いろいろありまして」
一年・二年と愛理ちゃん・陸斗君・洸夜君と基本4人で固まっていたためあまり気にならなかったのですが、やっぱり女の子の派閥とはそれなりに形成されていたらしく。
今回それぞれのクラスでトップ張っていた子達がひとつに纏められ、派閥争いが発生。
今まで特別な『4人組』として切り取られていた私を『攻撃する側』と『守る側』に分かれて喧々囂々とするのが日常化しているのです。
ちなみに、中心にいるようで微妙に蚊帳の外な私は居心地の悪さが半端ありません。
だって、どっちも相手を攻撃する理由にしているだけなんですもの。
割って入るにもどうしたら良いのか分かりません。
いっそ、どうしたいのか聞いてくれれば楽なんですけどね。
「なんか大変そうだね」
今度は私が遠い目をしていたらしく、陸斗君に同情たっぷりの顔で見られました。
「もう、いっそそっとしておいて欲しいです」
思わずつぶやいた言葉は考えていたより深刻な響きを持ってしまいました。
ああ、疲れてるんですねえ、私。
昔に比べて対人スキルは上がってたと思ってたんですけどね……。
「結愛……・」
しょんぼりと肩を落とす私の髪を陸斗君が困ったように撫でてくれました。
「お昼休みに購買でプリン買ってあげるから、中庭でみんなで食べよう?」
そして好物で釣ろうとする陸斗君に思わず笑ってしまいました。
購買のプリン。好きですよ?好きですけどね?!
「じゃあ、陸斗君のプリンは私が買いますね?」
「それ、意味ないじゃん」
クスクス笑う私に陸斗君もおかしそうに笑い出しました。
うん。ちょっと元気出てきました。
やっぱりお友達って良いですね!
読んでくださり、ありがとうございました。