お受験です!〜おまけ〜
「かわいい子だったな〜」
無事に終わったかえりみち。
車の中で洸夜が話しかけてきた。
「そ、だね」
手にしたあわいぴんくのハンカチを見つめながら、上の空で僕は返事する。
淡い茶色の長い髪を同じ色のリボンで結んだ女の子を思い出す。
あの時。
恥ずかしながらイレギュラーに弱い僕は、自分の名前を見つける事が出来ずにパニックに陥っていた。
混乱した頭では対応も思いつかず、あいつ字も読めないの?という視線に、必死で我慢していたけどついに涙がこぼれ落ちそうになった時、声をかけてくれた女の子。
現状を冷静に把握すると、彼女はアッサリと解決して見せた。
冷静になってみれば、なんで思いつかなかったんだろうと愕然とするくらい。
同じ教室だった洸夜に説明すれば案の定呆れられたけど、「賢い子だな」と興味を持ったみたいだった。
運動の試験で、同じ時間になったのはラッキーだった。
話しかける隙を見ていた僕としては、転ばせた少年に怒りは湧いたけど、同じ位感謝したい気持ちだった。
おかげで、自然に一緒にいる事が出来たのだから。
まぁ、洸夜まで興味を惹かれてついてきたのは余計だったけどしょうがない。
その後も、ゆあと名乗った女の子は次々と僕たちを驚かせてくれた。
まるで砂糖菓子のように甘くてかわいい外見を裏切った冷静な頭脳と受験の為に四面四角に整えられた僕達では思いつかない行動力。
ブロック積みでは、外から見てたら指示を出していた僕と洸夜が目立っていただろうけど、実は全てを動かしていたのはゆあちゃんだった。
だけど、僕はともかく、プライドの高い洸夜まで素直に動いてたのは驚いたし、目立ちたがりのあいつが最後のブロックを彼女に譲ったのにはもっと驚いた。
「もっと、話してみたいな」
ハンカチを握り締めながらポツリと呟くと向かいに座っていた洸夜が笑った。
「また会えるだろ。絶対ゆあも合格するだろうし、万が一そうじゃなくても居場所はわかってるし、な」
ヒラヒラと洸夜が振ってみせるうさぎのイラストのついたメモ紙には少し丸まったかわいい文字。
「………そう、だね。ハンカチも返さなきゃだし」
ゆあちゃんの元には、僕のハンカチがある。
次に会う理由になれば、と渡したものだ。
「そうそう。あんな面白そうな相手、逃す手は無いでしょ」
ニヤリと笑う顔はどう見ても獲物を狙う肉食獣なソレだったけど、突っ込まないでおこう。多分、僕も似たような表情をしている自覚はあるから。
「………早く、また会いたいな」
そっと口づけたハンカチはなんだか甘い香りがした。
「愛梨様、なんだか楽しそうですね」
「そう?」
運転手に話しかけられ、素っ気なく返したけど本当は自覚があったわ。
だって、とっても面白そうな子と友達になれたんだもの。
私の名前は皇愛梨
今日はお爺様の学校の初等部の受験があって、私はお爺様にお願いされて試験会場に入り込んでいたのよ。
もちろん、試験はちゃんと受けたけど、孫である私があの学校に通うことは決まっていたから、どっちかといえば試験そのものよりお爺様のお願いの為に参加していたの。
それは、みんなについていけないトロイ女の子がいたら周りの子はどう反応するかって事。
ワザと隅っこでウロウロして1人取り残された私を颯爽と助けに来てくれた女の子。
それがゆあちゃんだったわ。
その後も、ワンテンポ遅れがちな私を(もちろんワザとよ!)気遣って、みんなの輪に入れるように誘導してくれたの。
とっても賢くて優しい子だわ!
しかも、まるでお人形の様にかわいいの!
絶対に同じクラスにしてもらって、1番の仲良しになるのよ!
あぁ、春が楽しみだわ!!
読んでくださり、ありがとうございました。
そして、ゆあちゃん逃げて〜、と、言いたくなるのは作者だけでしょうか?
なぜ、彼女の周りには囲い込もうとする(しそう)な人物が増えるのか……?
可愛い初恋チックなものを描きたかった筈なのにそこはかとなく黒い影が見えるのは……気のせいですね!うん。