お受験です!③
受験内容はほぼ作者の妄想となっております
みなさんこんにちは。
ただいま試験真っ最中のゆあです。
名前を書きましょう、から始まったペーパーは、数を数えたり図形を作ったり、あと、簡単な計算問題。
先生が見せた絵を記憶して、その後の質問に答えるなど、結構多岐に渡りましたが、大人な知識とまだまだ柔らかい子供の記憶力を持つ私には楽勝です。
その後に続くお絵描きは、「大好きな人(物)」だったので、家族の顔を描きました。
のびのびとした絵を描くあまり、勢い余ってクレヨンを折ってしまいべそをかく隣の席の子に貸してあげるなどのハプニングはありましたが、おおむね穏やかに終了です。
で、次は運動なのですが……。
スカートとボレロという、ちょっとよそ行きの服から、長袖シャツと短パンという運動できる服に着替えつつ、ため息を飲み込みます。
この体、相変わらず小柄で、運動神経イマイチなんですよね……。
早朝ジョギングは続けていたので、体力はそこそこついたんですが、スピードはイマイチ。跳んだり投げたりも微妙、というポンコツぶり。
良いんです。結果ではなく、姿勢を見るはず、なんで、一生懸命頑張るんです。
丁寧に脱いだ服を畳みつつも、自分を鼓舞するのですが、やっぱりため息は出てしまうのでした。うぅ……。
そうして、体育館に移動して整列したところでりくと君を見つけました。
どうやら2クラス分合同で行うみたいです。
あっちも気付いたみたいで、にっこりと笑顔で小さく手を振られました。
こっそり振り返し、先生の指示に従って並びます。
準備体操の後は、マットや跳び箱、平均台が並べられたコースをみんなでグルグル回ります。
中にはボールをカゴに投げて入れましょう、とか、縄跳び10回跳びましょう、なんて場所もあり、なんだか障害物競争な感じです。
障害物の間もただ走るだけでは無く、スキップしたり後ろ向きに走ったりといろいろ指定がありました。
跳び箱は低い段と高い段2種類あるので助かります。もちろん、低い方に行きましたとも。
マットのでんぐり返しもどうにかクリアー。
中には綺麗な側転や後転を披露している子もいました。すごいですね。
ぽてぽて走ってると、速い子が隣を追い越していきます。
と、後ろからドンッと突き飛ばされてしまい、思いっきり転んじゃいました。
「トロトロ走ってんなよ!邪魔なんだよ!」
小声で悪態をつかれましたが、べちゃんと転んだままの身では相手の顔を確認することも出来ませんでした。
くっ、悔しい!
「だいじょうぶ?」
起き上がろうとしていると、誰かが手を引いて起こしてくれました。
「ありがとう」
ずいぶんと背の高い男の子が心配そうに目の前に立っています。
「ひざ、すりむいてるよ」
「あ、りくと君」
その横から声をかけてくれたのは、さっき顔を合わせたりくと君でした。
「先生のところ、行く?」
「大丈夫です。走ります」
治療しにいくかと聞かれ、首を横に振りました。
あまり止まっていても、何事かとなりますからね。心配そうな2人を促し、走り出します。ひざが少しヒリヒリしますが血も出てないし、大丈夫でしょう。
心配したのか、私の鈍足に合わせて2人もゆっくりと走ってくれました。
優しさが身にしみます。
ピーッと笛が鳴り、先生が一時休憩の合図をしました。
跳び箱等を片付け、次の準備の間は自由にして良いみたいです。
なんとなく、りくと君達と3人でその場に座り込みます。
私1人だけ息が乱れてるのが、なんとなく悔しいですね。
「さっきは、ありがとうございました」
どうにか息が治まって、改めてぺこりと頭を下げます。
「ううん、僕こそ、最初にお世話になったんだし、お互い様だよ」
ニコニコ笑顔でりくと君が、これありがとう、とハンカチを返してきました。
そういえば、さっき渡したままでしたね。
受け取って、自分の物じゃない事に気付き首を傾げます。
「ゆあちゃんのハンカチ、使っちゃったし洗って返すよ。ハンカチ持ってないと減点対象になるかもしれないから、そっち持ってて」
まさかの気遣いにビックリです。
あなたは本当に幼児ですか?
兄と同じ香りがほんのりとしますよ。
「てか、その前に自分で気づけよな。ベソかいて女の子に手を引かれてきた時はどうしようかと思ったよ」
少しからかうように背の高い男の子が口を挟んできました。
「オレ、深町洸夜。りくとが世話かけたみたいでありがとうな」
爽やかな笑顔で自己紹介されました。
りくと君のお友達みたいですね。
「倉敷結愛です。こうや君もありがとう」
慌てて名乗れば、首を横に振られました。
「乱暴な奴が居るよな〜。しかも、あいつ、先生達の死角狙ってたぜ。やな感じ!」
さりげなく指し示された男の子の集団にどうも私を突き飛ばした子が居るみたいですね。
残念ながら顔は分かりませんが、あそこにいる子達は一応警戒してたほうが無難でしょうね。
「ちょっと痛かっただけで大丈夫です。わたし、よく転ぶから」
場を和ませようとしただけなのに、なんでそこで残念なものを見る目を向けられるんでしょう。
納得したように頷かれるのも微妙なんですが、りくと君…。
ちょっと理不尽な気持ちになっていると、再び笛が鳴り集合の合図です。
駆け足で集まると、台の上に乗った先生が大きな声で注目を集めました。
「今からみんなで10人のグループを作って下さい。グループができたら、手をつないで輪になってその場に座ってください」
ざわざわとみんな周囲を見回しています。
グループ行動ってやつですかね?
再び合図の笛が鳴り、みんな近くの子同士で手をつなぎ始めました。
すかさず、わたしの両手もりくと君とこうや君に繋がれます。
そのまま、2人が近場の子達に声をかけ、あっという間に10人グループ出来上がりです。
私の出番は全くありません。
うーん、素早い。
あぁ、でも、要領悪い子が隅でオロオロしてますね。大丈夫でしょうか?
おとなしい子なのか、他の子達に声をかけれないみたいです。
心配して眺めていると、なぜかその子が余ってしまいました。
どうして良いのか、泣きそうになっています。
りくと君の時も思いましたが、こういう時、大人がなかなか介入しないのはなぜですかね?
子供って、10人って言われちゃうと、それで完結してしまうので、気づいている子も我関せずだし、気づかない子の方が多数なんですけど………。
あの子の自主性を潰しちゃうかな?でも、もう泣きそうだし、動けなさそうだし……。
うぅ……。目立つのヤなんだけどなぁ。
でも、(中身)大人だし、見ないふりできない性分だし……。
「先生、あの子も誘って良いですか?」
近くにいた大人にこそっと聞くとどうぞ、と目で促されました。
「あの子、連れてきて良い?」
一緒のグループになった他の子達にも一応確認をとって、隅でベソをかいている子をサッサと迎えに行きます。
近寄ってみると、私と同じサイズの小柄な女の子でした。
「先生良いって。一緒に行こう」
戸惑っている女の子の手を引いて、問答無用でグループに戻ります。
「………ゆあちゃんってすごいねぇ」
「ルールにとらわれないってか、この場で自由に動くって度胸あるよな」
なぜかりくと君達にしみじみ言われましたが、なんでしょう。ソレって、褒めてませんよね?
だって、10人グループ作って余ったんなら、しょうがないじゃないですか。
てか、先生達も余らない人数で確認してくださいよ!1人残るってなんのイジメですか。
コミュ障気味だった過去を思い出すのでやめて下さい。
「………ありがとう」
涙目なまま、小さな声でお礼を言われました。
ちょっと考えて、今度は貸さずに涙を拭いてあげます。
コレは借り物なので、渡せないですからね。
クリクリの大きな目をした女の子はまるでリスさんを思い出す愛らしさでした。
「ゆあだよ」
小声でささやくと
「愛梨よ」
とささやき声で返ってきました。うん。笑顔がかわいい。
呆れたようなりくと君達は無視です。
女の子のコミュニケーションはコレで充分なんです。
かわいいは正義。そして、笑顔の女の子はかわいいので正義なんです。
イレギュラー11人グループ、良いじゃないですか。
さぁ、次のお題も張り切っていきましょう。
読んでくださり、ありがとうございました。
ゆあちゃんの運動能力は残念ながら上がりませんでした……。
ちなみに身長もチビのまま。
1つ下の学年に混じっても違和感無いサイズです。