あれから。④
夏樹くん視点です。
俺の親友は変わっている。
そう言うのは、子供では俺くらいかもしれないけど。
いじめっ子といじめられっ子という関係から始まった俺達は、色々あって現在自他共に認める『親友』ていうポディションに収まった。
最も、殴り合った後2人とも倒れこんで「お前やるじゃん」的な爽やかな展開があったわけでもなく(てか、これ現実にあったら結構サムくないか?)、出来過ぎな親友の外面と打算による結果だ。
俺の小ちゃなプライドを傷つけられた反感から始まり、大事な妹を怪我させられあいつが切れたことで終わった『イジメ』。
曲がった事が大嫌いな現役刑事である父さんに特大のゲンコツをくらい、速攻で妹が入院している病院へと謝りにいった。
頭に包帯をぐるぐるに巻かれた妹は、まるで母さんが大切にしているフランス人形みたいに可愛い女の子だった。
クリクリの大きな目が、頭を下げて謝る俺を驚いたように見つめていた。
頭の骨を骨折し、脳にも傷がついた。
女の子の身体に、傷跡を残すような怪我だった。
お前が直接怪我させたわけでは無いけれど、原因を作ったのは自分だとしっかり覚えておきなさい。
病院に連れてこられる前に父さんに言われた言葉が頭の中をぐるぐると回り、ベッドに座る小さな女の子の頭の包帯が目に焼き付いた。
改めて自分の引き起こした事の大きさに怖さと自責の念が湧いてくる。
下げた頭を上げられないまま、閉じた目に涙が滲むのがわかった。
泣くな!
痛かったのも怖かったのもこの子で、俺に泣く資格なんて無い。
拳を握って耐えようとした俺の涙は、だけど、その小さな女の子によって決壊した。
「ゆあ、大丈夫なのよ?お兄ちゃん、泣かないで?」
いつの間にかベッドの上でにじり寄っていたらしい女の子の小さな手が俺の頭をよしよしと撫でてくる。
その手の感触は子供の俺からしても本当に小さくて、そんな子を傷つけた事。なのに、それを許し慰められている現状に、胸の奥からとても複雑な気持ちが湧き上がってきて、涙という形になりこぼれ落ちた。
「………うん。前言撤回。泣いていいよ〜。お兄ちゃんも怖かったね。ゆあが飛び出したせいでごめんね」
少し困ったような声でそう言って何度も何度も頭を撫でられる。
「ににと仲良くしてあげてね?にに、本当は寂しがりやさんなのよ?」
慰めるようにささやく声に俺はなんども頷いた。
その後。
なぜか母親同士が意気投合して、家族ぐるみの付き合いが始まった。
最初は戸惑いも遠慮もあったけど、そのうち、そんなものどこかに飛んで行ってしまった。
遠慮なんてしてたら、莉央のやつに容赦なく使われてしまうからだ。
ニッコリ笑顔で繰り出される『お願い』は、なかなかにシビアでエゲツないものが多かった。
あれ以来、キャラ変更を決めたらしい莉央は、表向きキラキラ王子を装っている。
文武両道で、男女問わず親切。だけど、たまに天然なところを見せる文句なしの美少年。
人気者にならないわけが無い。
最も、すべては計算され演出しているキャラクターであり、実際の莉央はかなり腹黒く、そして末期のシスコンだ。
可愛い妹に近づく男は徹底排除しようとする。
たとえそれが、妹と同じ歳の幼児でもだ。
はっきり言って大人気ない。
まぁ、確かに莉央の冷たいくらいに整った美形とは違い、まるで砂糖菓子でできたかのように、ふわふわと甘い雰囲気を持つ妹は、放っておくと危ない輩に目をつけられそうで怖いのも事実。
実際、危ない目をした大人が近づこうとしているのをコッソリ阻止したことだってあったんだ。
だけど、本格的に計画・実行する誘拐犯が本当にいるなんて思いもしなかった。
遊びに行った公園で、目を離したほんの数分の間にゆあちゃんは居なくなった。
その時、一瞬だけ取り乱した莉央の顔を俺は忘れる事は出来ないと思う。
直ぐにいつもの顔に戻って冷静にみんなに指示を出していたけれど。
移動の車中で難しい顔をして黙り込む莉央の肩をそっとたたく。
「絶対に取り返そうな」
「………うん」
小さく頷いた横顔は、少し泣きそうに歪んでいた。
どうにか無事に戻ってきたけど、あの事件はゆあちゃんにも莉央にも手酷いトラウマを残していった。
……ゆあちゃん、彼氏どころか男友達を作るのも難しいんじゃ無いかな?
まぁ、俺としても妹のつもりで可愛がってるゆあちゃんに、変な男を近づけたく無いのも事実だし。
適度に莉央を宥めつつ、見守るスタンスで行かせてもらおう。
最後に。声を大にして叫びたい。
見た目に騙されてんなよ!こいつの正体は腹黒シスコンだぞ!!
他人のことなんて都合よく動く駒としか思ってないからな!
まぁ、そうと分かってて側にいる俺が1番変わってるのかもしれないけどさ!
読んでくださりありがとうございます。
猫かぶり莉央くんが素を出す数少ない1人。
信頼されてるんです。
決して都合がいいからでは無いんです(笑)
同じ年頃の子達では充分に優秀なのに、莉央くんのおかげであまり日の目を見ないブビンな子。だけど、莉央くんに振り回されるのを最近では楽しんでたり。
このままいけば、すごく懐の広いい男になりそうな予感が……。