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あれから。③

私には2人の子供がいるの。

莉央(りお)結愛(ゆあ)。男の子と女の子の兄妹で2人はとっても仲良しなのよ。


私は、高校受験の家庭教師の先生と恋に落ちて家出をした。


子供ができて、結婚したいって言ったらお父さん達に反対されて。

先生も親に反対されて、2人で駆け落ちしたの。

一緒にいるためには、もうこれしか無いって。


今では、なんてバカなことをしたんだろうって思うけど、あの頃は、先生しか見えてなかったんだよね。


その時生まれたのが莉央。

最初のうちはとても幸せだった。

先生も一生懸命働いてくれたし、私も慣れない家事や育児しながらお花作ったりしてた。

先生と莉央がいればそれで幸せだったの。


だけど、先生が病気になって働けなくなっちゃって、生活は途端に大変になった。

もともと、私も先生も貯金とか得意じゃなかったから。


明日食べるご飯もなくなって、どうしようって困っていた時、先生の家族がやって来た。

先生の病気を見てもらった病院のお医者さんが知り合いで連絡がいったみたい。


このままじゃ先生が死んじゃうこと。

私と離婚してもう2度と会わないと約束したら、先生を助けてあげれること。

弁護士さんがやって来て、いろいろ説明してたけど私には難しくて、分かったのはその2つだけだった。


先生と別れるのはイヤ。

だけど、先生が死んじゃうのはもっとイヤだった。

泣いて泣いて。涙が無くなっちゃうんじゃ無いかってくらいたくさん泣いて、私は先生とお別れした。


先生は納得してくれなくて、他に好きな人ができた。先生のことなんてもう好きじゃ無いって嘘ついた。

心が痛かったけど、先生が死んじゃう方がもっと辛いって分かってたから。


先生はとても悲しい顔をして、お家の人と帰って行った。

先生の家はとてもお金持ちだから、きっと先生の病気を治してくれる。だから大丈夫。




それからのことは、実はあまり覚えてない。

寂しくて悲しくて。

莉央を抱きしめるだけじゃ足りなくて、私はいっぱいバカなことをした。


お金は、弁護士さんが沢山くれたから、働く必要は無くて。

だからこそ、寂しいって気持ちが抑えられなかったんだと思う。


昔、友達だった女の子と再会して誘われるままに遊びに出かけるようになった。

たくさんの人と一緒に遊んでいる間だけ、寂しさを忘れられたから、私は夢中になった。


中身の無い言葉遊び。

戯れに行う恋愛ゲーム。

家に帰るのが億劫になって、小さな莉央を1人で留守番させたりした。

莉央にお父さんを見つけるためだって言い訳して。


甘い言葉を吐く男の子達は楽しく遊びたいだけで、私とずっと一緒にいてくれることも莉央の父親になってくれる事も無かったけど。


そんな生活をしているうちに私のお腹に新しい命が宿った。

その子が結愛。

一緒に暮らして、今度こそ幸せになれると思ったのに、その人には他に家族がいたんだ。


また、裏切られた。

私は、幸せの欠片である子供達を見るのが辛くてますます遊び歩く様になった。




それからもいろいろあって、お家に帰れることになった。

お父さんに叱られて、お母さんに抱きしめられて、私はやっと落ち着くことが出来た。ザワザワと波立っていた心の中が静かになった気がしたの。


そうして、2人の子供達をもうずっと抱きしめていないことに気づいた。


自分の寂しさに一生懸命で、もっと寂しい思いをしていた子供達に気づいてあげられなかった私は、お母さん失格だと思う。

2人は、2人きりで過ごしたたくさんの時間のなかで、私の入り込むことの出来ない絆を作り上げているみたいだった。


もう、遅いかな?

落ち込む私に、お母さんが教えてくれた。

入り込めないって思うなら、無理に間に入り込まなくて良い。2人を丸ごと抱え込めるようなお母さんになりなさいって。


それは、とても難しい事に思えたけど、諦めたく無いって思った。

だって、やっと気づいたんだ。


2人が傷つけられてるのを見て、何してんだ!って、目の前が真っ赤になるくらい頭にきた。

私の子供達に何してるんだって。

それまで、何よりも大好きだと思ってた男が、汚いゴミくずに思えた。


だから、頑張ろう。

今度こそ間違えない。

子供達を守れる、大きなお母さんになるんだ。


私はズルくて弱虫だけど、もう遅いかもしれないけど。

今度こそ。今度こそ……。





そうして、少しずつ子供達と寄り添って『お母さん』を頑張った。

頑張るってのはちょっと違うかな。

私はそうなりたくて、そうしてるんだから。


最初はお互いに恐る恐るだったけど、今では無邪気に笑ってくれる2人がとても可愛くて嬉しい。


2人は私の子供とは思えないくらい、賢くって可愛いんだよ!

お母さんに「トンビがタカを産んだね〜」ってからかわれるけど、本当にそうだと思う。

たまに、私が甘やかされてる気持ちになったりするしね。


なんでか、落ち着いたと思ったら次々に問題が起こって大変だけど、私の気持ちは、あの日から変わらない。



そうして私は今日も2人の子供達(たからもの)を抱きしめる。




お母さん視点。


ちょっとだけ、莉央君のお父さんのネタばらし。

家庭教師はバイトだったので、かけおち時お父さんもまだ大学生でした。

お金持ちの坊ちゃんだったので現実はあまり見えてなかったと思われます。


それでも、優秀な人だったのでなんとか生活は成り立ってたんです。まぁ、頑固だったので正攻法は無理だろうと向こうのお家に隙を狙われていたとも言いますが。


そして、『昔の友達』も仕込みです。

遊んでいる様子を見せ、お父さんを諦めさせようっていう。

ゆあちゃんが出来た時点で、監視の目がようやく外れました。

以上、蛇足的情報でした。



読んでくださりありがとうございました。



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