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お人形遊びは卒業です⑩

本日2話目です。

あるオフィスビルの一角。

高層階にあるその応接室は大きな窓から光が一杯に入り、随所に置かれた観葉植物がくつろげる空間を演出していた。


中央に置かれた高級そうなソファーセットには老年にさしかかろうとする白髪の紳士然とした男と、ややくたびれたスーツ姿の壮年の男。


静かな空間に、白髪の紳士がファイリングされた紙をめくる音だけが静かに響いている。

やがて、全てに目を通し終えた彼が机の上にファイルを置く。

その横にはビニールでパッキングされた泥に汚れた花の髪飾りがあった。可愛らしいハートの柄が見て取れる。


「で、何を望まれているのかな?」

ポツリと落とされた言葉は低く、威圧感に満ちていた。

「あの家で起こった事に対する全てに、手出しをせずにいただきたい」

それに負けること無く、壮年の男は淡々と返した。


「あそこにいるのは、あなた方には関係のない赤の他人であり、犯罪者だ。罪を犯したものには正当な裁きが必要だと、そう、思いませんか?」

しばし、2人の男が見つめ合う。


思い沈黙を破ったのは、白髪の紳士だった。

「勿論、罪を犯した者は償わなければならない。彼がどんな人物かは知らないが、それは法国家に置いて、当然の結論だ」


微かに口元を笑みの形に歪めてそういった白髪の紳士に、男は知らず入っていた肩の力を抜いた。

「同意がいただけて幸いです。貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。失礼致します」


立ち上がる仕草には、緊張後の脱力感とこれからに対する焦りが見て取れた。

礼をしてその場を退出しようとする背中に声がかけられる。


「昨今の警察は優秀とは聞いていたが、素晴らしい情報収集だね。コレを作った人物にお会いしてみたいものだ」

どこか、面白がる声に足を止めた男は、扉の前でクルリと振り返ると、どこか疲れたような笑みを返した。


「おすすめは出来ません。藪を突いてもろくなことにならないのは、昔から言われていることですから。では、本当に失礼致します」


キッチリと折り目正しい45度の礼を見せた後、男は扉から出て行った。

「ますます興味がわくじゃないか」

閉じた扉を見ながらつぶやいた白髪の紳士の言葉を聞くものは誰もいなかった。

その口元にはっきりと浮かんだ笑みを見た者も。




「どうでした?上手くいきました?」

運転手をかって出た若槻は、戻ってきた上司に運転席から振り返るようにして尋ねた。

「………ああ。無事、了承を得てきたよ。あの家と財閥は無関係で、何が起ころうと関与する事は無い、とね」

グッタリと後部座席の背もたれに身体を預けながら疲れた様子で答える上司に、若槻は機嫌よく笑うと滑らかな動作で車を発進させた。


「まぁ、あんだけ言い逃れのできない証拠を提示されれば、かばう気にもなれないでしょ。しかも、表向きには戸籍にも入っていない無関係の庶子だし、ねぇ。多少は優秀だったみたいだけど、最近ではそれも鼻についてきてたみたいだし」

楽しそうな声に、後部座席から深いため息が帰ってくる。


「それも、あの子からの情報か?」

「いやぁ、天才って本当にいるんですね〜。俺が集めた情報から瞬く間に掘り下げて、いろいろ見つけてくる事。見てて面白いったら」

遂にはケラケラと声を出して笑い出した若槻に、上司が背後で頭を抱えた気配がした。


「俺はアレがウチの息子と同じ歳だというのが信じられないよ。8歳ってもっと可愛いもんじゃないのか?」

「普通の子供と比べる方が間違いってもんでしょ。言ってるじゃないですか。あれば『麒麟児』だって」

自分が言い出したあだ名を口にして若槻はニッコリと笑う。


麒麟児。古くは中国から派生した言葉で、幼い頃から天才的な才知、技芸を発揮し将来大成間違いないという子供を指す。要するに神童の事である。


「さぁて、やきもきして待ってるだろう莉央様に連絡入れますか。あ、家宅捜査の令状の手配はよろしくお願いしますね〜」

信号で止まった途端いそいそと手元操作で電話をかける若槻にもう1つため息を落とし、自分も仕事するか、と電話を手に取る。


「もしも〜し。うん。OKでたみたいよ?今、後ろで手続きしてる」

イヤホンジャックをちゃんと使ってる以上咎める気は無いが、どうにも気の抜けるその喋り方はやめて欲しい。


相手が子供だから、あまり硬い言葉は萎縮するからあの方が良いのか?

いや、萎縮なんぞせんだろう。

何やら先程大財閥のトップと対峙した以上の気疲れを感じながら、男は本日何度目かのため息をこぼした。








ズルズルと長く裾を引く純白のドレスに長いレースのベール。背中にはこれまた真っ白な羽根を付けられ、歩きにくいことこの上無い。


あ、どうも。

ただいま、おそらく天使のコスプレ中のゆあです。

4歳児にズルズルのドレスとか、やめてくれませんかね。背中の羽は重いし、ダブルで動きにくいことこの上ありません。

せめてもの救いは、前の方は膝丈で後ろに行くほど長くなってるデザインって所ですかね。

前まで長かったら、間違いなく裾踏んで転んでる自信ありますよ。


見てるぶんには可愛いのかもしれませんけどね。やる方にはけっこう……。

コレだったらさっきまで着せられてたアイドルばりのマイクロミニのピラピラドレスの方がまだ動きやすくて良かったなぁ。


宗主様(笑)は新しく手に入れたお人形に夢中みたいで、さっきからひっきりなしに着せ替えさせられてますよ。


お葬式ごっこの後、しばらくベタベタに甘やかされて(嫌悪対象に甘やかされるのって苦痛しか伴わないんですね。新発見)、ようやく解放されたと思ったら、今度は山のような洋服や小物持参で現れました。


それからは、着せ替えごっこの始まりです。

幸い目の前で着替えを強要される事なく、別室で無表情のメイドさん(マジでメイドの格好ですよ)に着せ付けられてます。


待ってる間はサエちゃん達と遊んでるみたい。

もう1つ予想外だったのは、性的な意味での触られ方は無かった事。少なくとも、私にはありませんでした。抱っこされたり、ホッペやデコにキスはされたけど、本当に軽く触れるだけ。イヤ、それでも充分に気持ち悪いんですけどね。

『遊び』は、本当にトランプやボードゲームなんかでした。


『イエス、ロリータ。ノー、タッチ』

ってやつですか?

まぁ、攫って監禁してる時点で犯罪者なので感謝なんてしませんけどね。

デコチューは着替えで部屋に戻った時、トイレの中で念入りに拭きましたとも。後で見たら赤くなってて、チョット焦りましたけどね。


機嫌を損ねるのだけはダメです。

激昂させて命の危機とか、マジで勘弁です。

その為なら、笑顔を見せるし媚だって売って見せます。

目指せ大女優!

あぁ、でも、私の目もサエちゃん達みたいになってるんだろうなぁ……。


一頻りロングドレス姿を愛でられた後、次の衣装に着替えるよう指示が出されました。

無表情メイドさんに連れられ、部屋を移動している時、それは起こりました。


突然、廊下の灯りが落ちたのです。


窓の無い地下空間は、灯りが消えた途端に自分の鼻先も見えないくらいの真っ暗闇になります。

思わず、本能的に固まったその時。

背後から強い力で引き寄せられました。


咄嗟に悲鳴を上げようとして、その前に口を塞がれ一言「ゆあ」と小さな声。

その途端、私は全身から力が抜けてズルズルと座り込んでしまいました。


だって、私を抱きしめる腕も伝わる体温もどこまでも身体に馴染んだもので……。

「怖かったよぅ、に〜にぃ……」

「うん。遅くなってごめんね、ゆあ」


ぎゅっと力を込められ、私はその腕にしがみつくと大声で泣いてしまいました。


クルリと身体が反転させられ顔を胸に押し付けられたその横を、たくさんの気配が通り過ぎて行きました。

塞がれた視界の中、耳に知らない人たちの声とばたばたと暴れるような音。サエちゃん達の泣き声も聞こえました。

だけど、それはどこか遠い意識の外の事。


私の耳がしっかりと拾っていたのは、兄の声で何度も繰り返される自分の名前と慰めの言葉で。


ああ、助かったんだ、と安心した途端、私の意識はブラックアウトしたのでした。


読んでくださり、ありがとうございました。


犯人がヌルいと思われそうですが、取り敢えず性的虐待だけは避けたくて。

まぁ、身体が汚されなかったから良いかと言われれば違うんでしょうけど、ね。


どうか『お人形遊び』だったって事で、納得してください。




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