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人形遊びは卒業です⑦

暗闇に閉じ込められて、最初にした事は『泣く』事でした。

目を開けても何も見えない暗闇の中、本能的な恐怖が忍び寄ってきます。


そう。暗闇を恐れるのは人としての本能。

人間として当然の反応で、決して相手の思惑に負けたわけじゃないんです。

そもそも、4歳児が暗いところにひとりぼっちって………って、このくだりは前にもやったんで省略!


でも、泣くって行為はストレス軽減になるって本当みたいですね。

声を出して泣くうちに、なんだか少し、恐怖が薄らいできました。

最後に深呼吸して……。


うん。大丈夫。


でも、やっぱりチョッピリ怖いので布団に潜り込んだまま、これからを考えます。

さて、どうしましょう。

手の中の髪飾り。

これを手放せば、多分『おしおき』は終了するはずです。

分かってはいるんですけど……。


『早めにあきらめろ』

辰巳と呼ばれていた男の人の声が蘇りました。

ささやかれた言葉とその後の丁寧な言葉遣いのギャップが、彼もまた心を偽って男に支えているのでは無いかと感じました。

多分、この状況に甘んじるのを望んでいるわけではない。けど、何か理由があって従わざる得ない、って所でしょうか?

でも、犯罪を犯してでも従わなければならない状況って何でしょう?

私には、ちっとも検討がつきませんでした。


(あぁ、ダメだ。眠たい……)

泣き疲れた体に温かいお布団、とくれば忍び寄る睡魔に抵抗する術はありませんでした。

そんな場合じゃないのに……と、思いながらも意識はぼやけ、眠りの中に吸い込まれてしまいました。

(お兄……ちゃん……。お……かぁ……さん……)

せめて、夢の中でも会いたいよ……。





で、目が覚めたら真っ暗で……。

一瞬パニックに落ち入りかけ、状況を思い出しました。


だって、目を開けても何も見えないってびっくりしますよ?

夜寝てても小さく明かりをつける派だったので尚の事。

しかも、ふつう夜でも、窓から薄っすら明かりが漏れてたりするじゃないですか。

それすらも無い。真っ暗闇。

中々昨今では経験しない、本当の暗闇。

自分の目が見えなくなったのかと思いましたよ。

あぁ、驚いた。


しかし、何も見えないって、時間感覚が狂います。

10分なのか1時間経ったのか……検討がつきづらいんです。

しかも、この部屋防音でもされているのか外の音が何も聞こえてきません。


こんな所に小さな子供を閉じ込めるなんて、拷問ですよ。恐怖で直ぐにねをあげるでしょう。

まぁ、だからこその『おしおき』なんでしょうけど。


耐えきれずに大事な物を手放させ、罪悪感から心を折る。

………最悪ですね。

陰険な手口に反吐が出そうです。


布団を体に巻きつけて目を閉じ、最近お気に入りのアニメを思い浮かべながら小さな声で歌を歌います。

ジッとして時間を潰すのは慣れてます。

押入れ育ちを舐めんなよ?

まぁ、傍に寄り添っていた、温もりが無いのは辛いところですが。


優しい笑顔を思い出し涙が出てきます。

暗闇の中に震える声の歌が小さく響いていきました。

「………にに」





どれくらいそうしていたのか。

トントンとノックの音がして扉が開きました。

廊下の明かりが眩しくて目が眩みます。


「アンジェちゃん。大丈夫?」

「………サエちゃん」

逆光でよく見えませんが、何か手に持っているみたいです。


「お水持ってきたの。のんで」

渡された小さなマグカップには、半分程の白湯が入っていました。

ありがたく受け取ってゆっくりと飲み干します。

閉じ込められてから、どれくらい時間が経ったかはわかりませんが、散々泣いて、目が覚めてからは恐怖を紛らわすためにずっと歌っていたので喉がカラカラだったのです。


タイミング的にも、見計らって差し入れたんでしょうね。

まぁ、攫って早々壊してしまっうのは、向こうとしても本意ではないのでしょう。

ほんと、反吐が出ますね………。


「ね、宗主様にごめんなさいしよう?一緒に謝ってあげるから」

囁く声にため息がでました。

案の定、コレが第1の懐柔って訳ですね。

暗闇の恐怖に、本当に小さな子供なら、すでに心がボロボロになってる頃でしょう。


コップをサエちゃんに返して髪飾りを握ると、首を横に振りました。

バカな意地を張ってるなぁって自分でも思うけど、どうしても従う気になれません。

だって、なんだか嫌なんです。

相手の意図が透けて見える分、その思惑に乗るのが、癪に触ってしょうがありません。理屈じゃないんです。


「………そう。また、来るね」

サエちゃんはそう言うとアッサリと踵を返しました。

もしかしたら、サエちゃんもこのやりとりに慣れているのでしょうか?なんの躊躇いもなく、サッサと部屋を出ていきます。じっとその背中を見つめながら、私は、ぎゅっと唇を噛み締めました。

そうしないと、反射的にその背中を追いかけてしまいそうな気がしたのです。


パタン、と扉が閉じ、部屋が再び暗闇に支配されました。


目を閉じて、光の余韻を追いかけながら、ゆっくりと心に絶望が忍び寄ってくるのを感じました。


本当は分かっているんです。

無駄な抵抗をしてるって。

どんな攫われ方をしたかよく分からないけれど、窓の無い防音の部屋や諦めた瞳の女の子達を見るに、きっと手がかりなんて残されていないだろうって。


つまり、きっと助けは来ない。

非力なこの体では隙をついて逃げる事もむずかしい。

八方塞りです。


「にに……」

諦めてコレを渡し、とりあえずこの現状を打開すべきでしょうか?

でも、次の目標が見えない中でコレを手放してしまうと、幼い『ゆあ』の心は護れない気がしてなりません。

うぅん、違うや。

『私』が耐えられない。


「どうしよう」

すっかり指が形を覚えてしまった髪飾りを、縋るように指でなぞります。


柔らかな布で作られた花弁には厚みを持たせるためか薄っすらと綿が入れられ、1枚1枚作られたそれを重ねるようにしてバラの花の様に立体的に作られた可愛い花。


今は見えないけれど、ハートの模様を思い浮かべながら花弁の1つ1つをなぞる様に辿っていると、ふと、指先に違和感を覚えました。


柔らかな布と綿だけで作られたはずの花弁に、何か固い感触を感じたのです。

もう一度、丁寧に探ると重なる花弁の1つに確かに硬い何かが入っているのを見つけました。

ボタン電池ほどのなにか。


「お守りだよ」


ふと、脳裏に兄の笑顔が浮かびました。


そういえば、兄はお出かけの前日は、髪飾りにおまじないをかけるから貸して、といつも持って行ってました。

そして、次の日の朝、私の髪に結んでくれるのです。


もしかして………もしかすると。


止まりかかっていた思考回路が、急速に活動始めました。

もし、コレが私の思っている通りのものなら、どうにかしてコレを外に出さなきゃいけません。

だって、まだ助けが来ないってことは、ここではダメなんだという事ですから。


あぁ、だけど。

こんな小さな機械の電池ってどれくらい持つんでしょう。

私が攫われて、どれくらいの時間が過ぎたんでしょうか?

急がなくては!


ただ、渡すだけではダメです。

もし、燃やされでもしたら壊れてしまいます。

どうすれば………。


考えをまとめた私は、シクシクと泣きながら扉と思われる方に歩き、ドアノブを見つけました。。

ガチャガチャとノブを回し、大声で「開けて!」と「ごめんなさい」を繰り返しますを


闇の怖さを、1人の辛さを訴えながら。

できるだけ、悲痛に響くように。

今もどこかで聞いているであろうあの男に聞こえるように。





そこは、コの字型の建物と険しい山に囲まれた、中庭のようでした。

徹底的に人目を遮られたそこは、美しい中庭として整えられていて、こんな時でなければ、とても居心地の良い空間だったんでしょう。



あの後、やってきた男に泣き顔のままごめんなさいを繰り返しました。

満足そうに私を抱きしめる男に、嫌悪感を堪えながらシッカリと首に抱きつき、甘えてさえ見せました。

この暗闇から助けてくれた王子様だとでも言うように。


そうして、男が悦に入ったところでお願いをしたのです。

「お葬式をしたい」と。

「今までにちゃんとお別れするのに、お花を土に埋めてお墓を作りたいの」と、幼い子供の言葉で訴えたのです。

女の子の服装や置かれている家具などから、男が様式美を好んでいそうな事を読み取っての、一か八かの勝負でした。


はたして。

男は少し考えた後、私を抱き上げてここに連れてきてくれました。

階段を上ったので、部屋はやっぱり地下にあったみたいですが、外から見た建物は意外と普通でした。

まぁ、おじいちゃんのお家とかに比べたら充分に大きいんですけどね。

もっと、いかにも豪邸のようなものを想像していたので、ビックリしました。



そんな中庭の片隅。

山際に立っていた桜の根元を小さな手で掘っています。

ようやく髪飾りが入るほどの穴を掘ると、そっとそこに花を置きました。


土を被せ平らにすると、少しずらした場所に、木を結んで十字架にした物をさしました。穴の上には、さっき花壇でつませてもらったお花を置きます。


さて、出来上がり。


ワザと堅そうな土の場所を選んで、自分でしたいからと手助けを断り、極力浅く埋めたのは少しでも電波を遮る物を無くしたかったから。

今にも見えそうな浅さは上にはお花を置く事でごまかして。


後ろで眺めている視線を感じながら、膝まづくと両手を組んで祈ります。

(お願いします。どうか兄が気付きますように。電波が届きますように)


「もう、いいかな?」

後ろからかけられた声に小さく頷くと、私はしおらしく立ち上がりました。

男に手を引かれ、来た道を戻ります。

チラリと見上げた空は暁に染まろうとしていました。


私が攫われたのは昼前でした。

コレが最初の夜とは思えないので、多分、3日目の朝が明けようとしているんでしょう。

さぁ、後は時間稼ぎです。

心が折れないように。

男の機嫌を損ねないように。




きっと兄が迎えに来てくれるから。




読んでくださり、ありがとうございました。

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