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お人形遊びは卒業です⑤

こんにちは。異常者に誘拐されて、ただいま絶賛監禁中のゆあです。

……人生悲観したくなりましたが、泣いてばかりもいられません。


あの後、どうもぐっすり眠り込んでいたみたいで、起きたら誰も居ませんでした。

部屋の明かりは小さく絞られ薄暗いです。

窓も無いし、当然時計も無いので、今が何時なのか、どれ位眠っていたのかすら分かりません。


(兄は心配してるでしょうね)

突然消えた私に、半狂乱になっている家族の姿が目に浮かびます。


(しかし、次から次へと……。私の運のなさってなんなんでしょうね……。神様に嫌われるようなこと、したでしょうか?)


思えば、前世の死因からして運がなかったとしか言いようがありません。

花の金曜日に一人寂しく残業を終え、コンビニでゲットしたビールで乾杯しようと家路を辿る中、突如始まった男女の喧嘩。

どうも、彼氏が浮気して他の女の子と待ち合わせ中に乱入してきた様子でした。刃物持って。


声が聞こえて何気なく覗いた路地から飛び出してきた女の子達にまきこまれ、まるで木の周りを回る虎よろしく私の周りをぐるぐる回る様子に動くこともできず。

傍観者よろしく遠くでこちらを窺う男に「どうにかしろやゴラァ」とアイコンタクトを送ってるところを見咎めた女性にザックリ刺されました。


なんで女って浮気した男じゃなくて相手の女の方を目の敵にするんですかね?

「あんたもそうなの!?」って血走った目で突撃され、逃げようにも背中にしがみついた女に阻まれ………。


本当に、あれはとんだとばっちりでした。

今更言ってもしょうがないですが、あの後、どうなったんですかね……。

3人とも倒れた私に見向きもせずに逃亡していきましたけど。

私がここにいるってことは死んじゃったのには間違い無いんでしょうけど。


そうして生まれ変わっても、ネグレクトから始まる不幸の嵐ですからね。

あ、でも、記憶あるおかげで今迄生き延びてこれたわけだし、そこだけはラッキーでした。


じゃないと、ネグレクトの段階で詰んでた気もしますし。

……まぁ、現在の状況がすでに詰んでますけどね。





現実逃避に昔を思い出して嘆いている場合じゃありませんでした。

時間は無限では無いんです。


ベッドの中で身じろぎしてないし、薄暗いからまだしばらくは時間は稼げるでしょうから、今後の対策を考えないといけません。


現在、ここにいる子は私含めて3人。

もう1人は分かりませんが、サヤちゃんの何か諦めた様な感じから、結構長い間ココに閉じ込められているんじゃ無いかと思います。


つまり、犯人は長期で監禁可能な環境を整えている。しかも、この部屋は1人部屋っぽいので、最低後2部屋は監禁部屋が存在するって事ですよね。


それだけの女の子の衣食住を整えている事、更に水仕事とは無縁そうな綺麗な手から考えるに、敵は労働から解放された富裕層と考えるのが妥当でしょう。

若しくは、自宅で出来る仕事、ってところですかね?


どちらにしろ、時間とお金に余裕がなければ、こんな生活そうそう破綻してるはずです。

お金持ちなのは確実でしょう。


しかも、もう1つ怖い事に気付いたんですが、あの人、家事労働を自分でしている様には見えなかったんですよね。

つまり、最低1人は協力者がいるって事ですか?

じゃないと、ここの生活、成り立ちませんよね?

それとも、掃除等は攫われた子達が、自分でしてるんでしょうか?

ここら辺は後でサエちゃんに確認です。


しかし、異常者でお金持ち、ですか。

……更に、平均以上の知能を持っていた場合、私では太刀打ちできる気がしませんね。

最後の条件を満たしてない事を切に願います。



て、所で。

こうしていても埒があかないので、そろそろ行動してみますか。


何をするかって?

とりあえず、泣いてみようと思います。


禁止事項に入ってましたが、私は現在4歳児。

訳も分からず連れさられ、目が覚めたらひとりぼっちで辺りは薄暗い。

この状況で泣かないなんて、逆に不自然だと思いませんか?


それに、何処までがアウトなのかの見極めは大事だと思うんですよね。

初日だし、そう、ひどいことにはならないでしょう。


て、事で。





むくりと起き上がります。

キョロキョロと辺りを見回し、シクシクと泣き始めます。

徐々に声を大きく、悲壮感はたっぷりと。

こういう時、子供の体って便利。

嘘泣きしてるうちに感情が昂ぶってきて、マジ泣きになりますからね。


で、15分くらいでカチャリと扉が開く音がしました。

以外と時間、かかりましたね。


開いた扉から眩しい光が差し込み、暗闇に慣れた目がくらみます。

逆光になって、そこに立つ人の顔はよく見えませんが、雰囲気からして『宗主様』でしょう。


「また、泣いているのかい?アンジェは泣き虫だね」

そう言うとツカツカとベッドに歩み寄り腰を下ろしました。


なんのきしみもなくベッドが男の体を受け止め、指先がのばされてきました。

無意識にビクッと体がすくみましたが、男は気にすることなく私の頬に触れてきました。


そうっと頬の丸みをたどる指先に、嫌悪感で後ろに逃げそうになる体を、意志の力でどうにか踏みとどまります。


「誰も居なかったから……怖かったの」

震える小さな声は、自分で聞いても憐れを誘いました。まぁ、男の存在が不気味で本気で声が震えてるんで、リアルですよね。


「そうか。よく寝てたみたいだから電気を消したんだけど、アンジェはまだ小さいからひとりぼっちは怖かったんだね。……サエを残しておけばよかったな」


はたして、男は上手い具合に引っかかってくれたみたいです。

優しい声でそう言うと、おもむろに私を抱き上げました。

男の突然の行動に驚きで体が固まります。


「みんなに紹介しよう。そうすれば、寂しくないだろう?」

しかし、私の様子を気にかける事もなく、楽しそうにそう言うと男はそのまま部屋を出て歩き出しました。


暴れて、自分を抱っこする手を振り払いたくなる衝動をどうにか押さえ込み、男の動きや周りの様子に耳を澄まします。

眩しさに目が開けられないので得られる情報はあまり多くは無いけど、ちょっとずつでも努力は大事です。


もう1人の女の子。

この場所から逃げ出す協力者になってもらえるか、すでに諦めてしまっているのか。

どうか、まだ諦めてませんように。










読んでくださり、ありがとうございました。

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