桜咲く幼稚園は……③
「にゃんにゃんにゃにゃ〜ん♪」
しょっぱなから失礼しました。
ご機嫌に歌いつつ登園中のゆあです。
ご機嫌の理由は繋がれた両手にあります。
幼稚園。
近くにこだわった結果、見事に徒歩圏内なんです。
で、何時もはお母さんかお婆ちゃんが送ってくれるのですが、本日はお母さん担当みたいです。そして、なんと兄まで居るのですよ。
昨日の事で心配した兄がお母さんに頼んで、一緒に付いてきてくれたのです。
幼稚園の登園時間だと小学校に遅刻になってしまうのですが、事情が事情だし、という事で許可がおりました。
小学校には連絡済みで、1時間目の授業には間に合う様に行かせます、って事で話がついてるみたいです。
心配かけて申し訳ない、とは思うのですが、大好きな兄が一緒となればやっぱり気分は浮きたつわけで……。
で、冒頭に戻ります。
「わんわんわわ〜ん♪」
「ゆあはお歌が上手だねぇ」
繋いだ手を振りながらご機嫌で歌う私に、兄も楽しそうに笑いながら褒めてくれました。
「ゆあは呑気ねぇ。いい?何かあったらちゃんと先生に言うのよ?」
反対側から心配顏のお母さん。
とりあえず「はぁ〜い」と良い子のお返事をしておきます。
でもね、現在なんだか無敵な気分なのですよ。兄につけてもらったお花の効果ですかね。
跳ねる様に歩く私の動きに合わせて、束ねた髪がピョンピョン揺れて、なんだか心がウキウキします。
幼稚園に着けば、靴箱で先生が朝の挨拶をしていました。
兄の小学校の関係から、いつもの時間より早めなので、周りにはまだ人はあまりいないみたいです。
「センセ〜、おはようごじゃいます」
「はい。おはようございます。ゆあちゃん、元気ですか?」
元気よく頭を下げれば、優しい笑顔とともに挨拶が返ってきました。
「はい。元気です。センセ〜、こっちはお兄ちゃんです」
片手を上げて返事をしてから、まだつないだままの手を引いて兄を紹介してみました。
「おはようございます。妹がいつもお世話になってます」
笑顔の兄に先生が見とれてます。
ですよね。兄、綺麗だし初対面だと見とれちゃいますよね。その気持ち、分かります!
我に帰った先生がお母さんに何やら話しかけています。
どうも、昨日の事とこれからの対応について話があるみたいです。
これ、私も参加ですか?
「ゆあちゃん、お母さん園長先生とお話があるから、朝の会までみんなと園庭で遊んでていいですよ」
笑顔で先生に背中を押されます。
あ、やっばり。お呼びじゃないですよね〜。
動かずにいると、兄に手を引かれました。
「園庭まで一緒に行くよ。いこう?」
その場で母さんと別れ、園庭に向かいます。
まだ早い時間ですが、結構人が居ますね〜。
あ、同じクラスの女の子、発見。
目が合ったのは、昨日泣きじゃくる私の代わりに先生とお話ししていた女の子でした。
真っ直ぐの黒髪を肩につかないくらいの長さで切りそろえ、少しつり目ガチの目も真っ黒で、まるで黒曜石の様な美しさです。
「ゆあちゃん、おはよう。昨日は大丈夫だった?」
パタパタと駆け寄って来ると、心配そうに覗き込まれました。
サラリと黒髪が揺れます。
「うん。昨日はありがとう」
ペコリと頭をさげると首を横に振られます。
「ううん。コッチこそ、もっと早くにかばってあげられなくてごめんね」
謝られちゃいました。
慌てて私も、手と首を横に振ります。
大丈夫ですよ〜。下手に口や手を出してきたらターゲット移っちゃうかもですし。
「でもね、昨日みんなと話してゆあちゃんのこと守ろうってなったから、安心してね?」
ニッコリ笑顔で爆弾発言。
え?私、守られるんですか?何から??
「頼もしいな。妹のこと、よろしくね?」
びっくりして固まってると、横から兄が口を挟んできました。
それでようやく私が1人じゃないことに気付いたみたいで、顔を上げた少女が兄の笑顔にのまれて、固まってます。
口が微かに「王子様だぁ」と、動いていました。
ほっぺがみるみる赤くなっていきます。
幼児にも兄の美貌は有効みたいですよ。
流石、我が兄!信者ゲットですね。
ニコニコとその光景を眺めていたら、突然背後からドンっと突き飛ばされました。
危うく転びそうになって、どうにか堪えました。
グッジョブ私の運動神経!
「おい、泣き虫!お前のせいできのうは大変だったんだぞ!」
振り向けば仁王立の男の子。
あ、今日は単独行動なんですね。
突然の攻撃に驚きすぎて固まった私をスッと兄が背後に隠しました。
「いきなり乱暴だね?君は誰だい?」
いじめっ子vsお兄ちゃん。
さて、男の子の運命やいかに!
と次に引っ張ってみます。
読んでくださり、ありがとうございました。