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夏のバカンスは南の島で4

ひとしきり騒いで、用意されていたビーチパラソルの下一休み。

意外なことに日陰に入っていると海からの風で十分涼しくて、快適です。


しかも、リクライニングチェアーまであって、気がつけばうとうとしていたみたいです。

遠い意識で気を遣うように静かに離れていく気配を感じましたが、どうにも起きたくありません。


そのままみんなのはしゃぐ声を子守唄に聞きながらまどろむのは、至福の時間でした。

クルーザー船に乗ったのも、こんなふうに海でみんなではしゃいだのも初めてで、とても楽しいです。


どれくらいそうして微睡んでいたのでしょうか

ふいに、額にひやりとしたものが置かれました。

「?」

目を開けると、レオが私を覗き込んでました。


「悪い、起こしたか?」

「大丈夫です。半分くらいは起きてましたから……」

体を起こすと、額からポロリとぬらされたタオルが落ちました。

ヒヤリとしたものの正体はこれだったのですね。


「顔赤くなってたから、熱いのかと思って」

起こしてしまった事を申し訳なく思っているのか眉を落とすレオに首を横に振ります。


「本当に、大丈夫です。うとうとしてただけなので。楽しみ過ぎて、昨日よく眠れなかったから……」


遠足前の子供のようで恥ずかしいですが、本当の事です。

だって、お友達とプライベートな旅行なんて初めてで、すっごくワクワクしてたんですよね。


「そっか。そういうところ、変わらないな」

小さくつぶやいて、くすくす笑う瞳がなんだかすごく優しくて、胸の中がソワソワします。


何でしょう?顔が熱いですね?


「やっぱり熱いみたいです。海入りましょう」

いつの間にが大きな浮き輪やイルカやバナナ型のフロートで遊んでいる愛梨ちゃん達を指さすと、レオから手を横に振られました。


「いや、俺はちょっと休憩したくてこっちに来たんだ。結愛だけどうぞ」

「はーい。じゃあ、交代ですね」

笑って立ち上がると、代わりに今まで私の使っていたチェアーに座らせます。


「ここのレバーで背もたれとかの角度変えられる……って、さっき一緒に説明聞いていましたね。じゃぁ。ごゆっくり」


飲み物の有無を聞きに来たであろうスタッフの方に額に乗せられていた冷たいタオルを渡して、私はみんなのもとに走り出しました。

少しひと眠りしただけで、もうパワーフルチャージです。


(若いって素晴らしい!)

駆け寄ってくる私に気づいたみんなのもとに勢いよく飛び込んでいけば激しい水しぶきがおきました。

結果、生まれた波にあおられてバランスの悪いバナナがひっくり返り、さらに私に飛びつかれたイルカも横転。


「きゃあ!」

「やったな!結愛!!」

「やだ!水のんだぁ!!」

「アハハハハ!!」


飛び交う悲鳴と歓声はまだまだ終わりそうにありませんでした。







走り去る華奢な背中を見送って、スタッフに適当な飲み物を頼むと、俺はごろりとリクライニングチェアーに横になった。

さっきまで結愛が使っていたそこから微かに甘い香りが立ち上ってきて、何とも言えない気持ちになる。


(なんで他にいくつも椅子があるのに、自分の使ってたところに押し込むかな、あいつは……)


昔から自分に向けられた好意に鈍感で、無意識に恋情クラッシュしていたけど、いまだにその腕は健在と見た。


ため息つきたいけど、飲み込む。

あの鈍感さのおかげで、ある意味誰かに取られる危険度が下がっているのはありがたいからだ。


(まぁ、俺の気持ちにも気づいてもらえないからプラスマイナスゼロか)

こみあげる苦笑いを、今度は抑えることはできなかった。


水しぶきをあげてはしゃぐ結愛の髪がきらきらと光をはじく。

まるで人形のように繊細に整った顔は、今は楽しそうな笑顔を浮かべていた。

日本人にしては白い肌も、まるで内側から光輝いているようだ。


前世とは何もかも違う。


黒い髪と黒い瞳。すぐ日焼けすると肩を落としていたそばかすの散った小麦色の肌に、派手さはないがそこそこに整った容姿。

それが、昔のあいつだった。


(だけど、中身は昔のままだ)

お人好しで、めんどくさがりのくせに、困っている人がいたら労力を惜しまない。

「しょうがないなぁ」と言いながら、何度あの手に救われただろう。


失って、生まれ変わり、そして幸運にもまた出会うことができた。

それなのに、手にいれることはいまだに出来ていない。


「敵が多すぎるんだよ。どんだけ誑し込んでるんだよ」

大富豪の子息子女にはじまり、単純な能力だけなら負けていると思える兄。

さらには前世の因縁の残る女まで。


単純な恋情だけでない分、さらに厄介な面々が立ちふさがるうえに、肝心のお姫様は鉄壁の朴念仁ときたもんだ。


おまけに今の自分の立場を思えば、立ち塞がる障害の多さにくらくらしてくるというものだ。


「……まぁ、諦める気はないけど」


未だに自分を見る目は「前世の腐れ縁の幼馴染」でしかないと思っていたが、先ほどの結愛を見るとまるっきり脈がないわけでもないらしい。


「もう少し、前進できそうかね」

独り言ちると、優しい香りに包まれながら目を閉じる。

遠く聞こえるはしゃいだ声に、結愛もこんな気持ちだったのかと口元がほころんだ。


平和で穏やかな空気が心地良い。


だから、今は少しのまどろみを……。







読んでくださり、ありがとうございました。


拗らせ男子、レオ君の回でした。

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