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幸せな小話④

前作の続きです。

秋祭り2(小学生編)




夜店の明かりに照らされて、ふんわりとまとめられた金色の髪がキラキラと光を反射する。

耳の少し上に付けられた紅く大きな花飾りがとても可憐だ。

浴衣は赤と白の大きな市松模様をベースに黒猫が色とりどりな毛糸玉で遊ぶ、古典とモダンが融合した少しトボけた意匠だったが、ほんわりとした少女の雰囲気によく似合っていた。

キュッと締めた辛子色の帯とキラキラと光る少し大人びた帯締めが全体をほどよく引き締め、少女と大人の間にある微妙な魅力を絶妙に引き出していた。


つまり、何が言いたいかというと。


「「うちの子天使だ(ですわ)」」

「そこをあえて否定する気は無いけど、お前らのリアクションにオレはドン引きだわ」


りんご飴の屋台を覗き込み、テキ屋のおじちゃんと楽しそうに話している結愛をうっとりと眺めながらつぶやく美花と愛梨に優は呆れたような視線を向けた。


なぜなら。

黙っていれば充分美少女な2人の会話ときたら、視線の先の少女の行動に対しての賛美合戦とかしていたのだから。


「いや、どっちかといえば親バカ発言なのか?これ?」

デレデレと脂下がっていてはせっかくの整った顔立ちも残念の一言に尽きる。


他人のふりをするかどうか悩むレベルだが、知らない他人から見れば充分に魅力的な少女達を放っておけば面倒ごとを引き寄せるのは確実だ。

それは、本意ではない。


「……何でオレ、あんなやつ好きになったかな……」

つぶやきは虚しく祭りの喧騒に紛れていく。

と、りんご飴を無事にゲットした結愛がこちらに戻ってきた。


「なんかね!イチゴとかブドウとかもあったから買っちゃった。3本買ったらおじちゃんおまけしてくれるっていうから!」

「え〜〜、もらってイイの?」

「じゃあさ、ちょっとずつ味見しよ!」

笑顔で差し出す結愛にキャアキャアと2人が答える姿は可愛かった。

通りすがりの人達が無意識に目を向けるくらいに。


「何黄昏てるの?お腹すいた?」

不意にコッチに視線を流した結愛がキョトンと首を傾げた。

「あ〜〜、ご飯食べてなかったの?焼きそばでも食べる?」

ブドウ飴を嚙りながら美花も首を傾げた。

高い位置に結んだポニーテールがサラリと流れる。


「……そだな。莉央さん達が席確保したみたいだし、移動すっぞ〜〜」

なんだか疲れた気がするのは腹が減ったせい、と無理やり自分を納得させ、遠くで手を挙げている年長組2人の方へと少女達を誘導する。

さりげなく押した背中は思ったよりも華奢な感触で、少しどきりとした。






「なんか、青春?」

何やら賑やかに騒ぎながらコッチに近づいてくる集団を眺めながら、ポツリと夏樹がつぶやいた。

あまりにもしみじみした口調に思わず莉央は吹き出した。


「一般的にはむしろ僕たちが真っ只中って言われる年なんだけど?」

心の底から楽しそうに笑う莉央に、夏樹は肩をすくめた。


「いや、まぁ、そうなんだけどな……」

目の前で笑うやたら容姿の整った友人を筆頭に、なぜだか自分の周囲は常に騒がしい。

次々と巻き起こる問題をモグラ叩きのように潰しているうちに、どうにも周囲を第三者視点で眺めるのが癖になってしまった。


どう考えても苦労人なポディションではあるが、案外性に合っていたようでそれなりに楽しくやっていたりする。

周囲からひっそりと「オカン」呼ばわりされていることを、幸か不幸か本人だけが気づいていなかった。


「夏樹さん、おみやげですよ〜〜」

ニコニコと両手いっぱいの戦利品を掲げる結愛に、なんだかほっこりとして頭を撫でる。

「色々買ったな」

席取りのために結愛達と別れる時、無理やり莉央をひっぱってきて良かったなぁ、と思う。


元々、友人達と出かける予定だったのだから、あまりピッタリと保護者(あにき)が張り付いているのも興ざめだろう。

一応、目視確認できる位置だったのだから、心配しすぎも良くない。

子供には、子供だけでしか出来ない経験というものが必要なのだ。


オヤジ臭いと言われそうなことを考えながら、夏樹は椅子に座ってたこ焼きだの焼きそばだのつまみだした結愛達をニコニコと眺めた。

長い付き合いから、なんとなく夏樹の考えている事に気付いて、顔を横に向けてクックっと笑いをこらえている莉央の足をコッソリと蹴りながら。






「ちょっと飲み物を買ってくる」

ようやく治ってきた笑いの余韻を残しつつ、莉央はスルリと立ち上がった。

「コーラよろしく」

財布ごと投げてよこす夏樹に軽く手を挙げて答えてから、光の眩しい夜店へと足を向ける。


祭りの夜独特の喧騒と熱気はそんなに嫌いじゃない。

ただ、其処彼処から飛んでくる秋波が少し面倒だとは思うけど。


この辺りでは滅多に見かけることもなくなった純粋な闇を切り取った様な自分の真っ黒い髪も瞳も、莉央はあんまり好きじゃなかった。

整った容姿と相まって、ひどく冷たい印象を与えるからだ。

ぽかぽかとした春の日差しを思わせる結愛(いもうと)の色彩の方がよほど好ましい。


だけど、結愛が綺麗だと笑って、羨ましいと褒めてくれたから、少しだけ好きになれた。


それに、使う術を覚えれば、自分の顔はなかなかに使い勝手がいい。

ほんの少し顔を綻ばせるだけで周囲の目を引き、ほんの少し眉を下げて見せれば、大抵の願い事は叶うのだから。


それでいて、一切の表情を消して仕舞えば、その冷たい美貌に人は視線を投げかけても、近づいて来ることはほとんどない。

一部の空気を読めない猛者(バカ)以外は。


「ねぇ〜、君1人なの?一緒に遊ばない?」

「うちら暇してて〜〜」

派手な浴衣は、着付けが甘いのか動きが乱雑すぎるのかすでに着崩れして、やたら開いた襟元が見苦しい。

厚く施された化粧と香水の香りに、微かに眉が寄った。


「友人と来てるから」

言葉少なに断りをいれ、ペットボトルの飲み物を適当に手に取る。


「え〜〜、じゃあさ、友達も一緒に遊ぼうよ」

多分に媚を含んだ声とともにキラキラと装飾された指先が伸びてくる。

拒否される事など微塵も考えていないのであろう少女達は、確かに一般的に「可愛い」と称される作りをしていた。


けれど、日常的に「本物」を見慣れている莉央の目には丁寧に作り込まれたその顔がなんだかひどく奇妙に見える。

明かりに光る爪も、綺麗というより魔女の爪の様だな……と、思いながら冷めた視線を向けた。


「あの「お兄ちゃん!飲み物まだですか?」

見知らぬ人間に取り繕うのも面倒で、視線とともに言葉の刃を向けようとした時、軽い衝撃とともに腕に温かい体が絡みついて来た。


「ゆあ」

驚きとともに思わず名前を呼べば、まあるい琥珀の瞳が見上げてくる。

「はい、結愛ですよ?」

にこりと微笑みを向けられると、冷えた胸の奥にほわりと温かいなにかが灯るのを感じた。


「夏樹さんが待ってます。行きましょう?」

そうして突然の乱入者に少女達が驚いている間にグイグイと腕を引く。


「ちょっと!」

ハッと我に返った少女達が声をかけるも、結愛はひるむ事なくニッコリと笑顔を向けた。

「お友達で遊んでるんです。遠慮してくださいな」

そうしてチラリと視線を向けた先のテーブルに、やたらときらびやかな男女(・・)の集団を見つければ、少女達の勢いは一気にしぼんでいった。


明らかに、そこに自分たちの入り込む余地はない。


言葉をなくした少女達を尻目に、結愛は速やかに莉央を回収して去っていくのであった。






あせりました。


ふと気づけば、姿の見えなくなった兄を探して辺りを見渡せば、少し先の夜店の前でナンパされている真っ最中でした。

どんどん凍りついていく表情に気付いてないのか離れない女の子達。


「ありゃ、機嫌悪いな」

夏樹さんのつぶやきが耳に入る時にはすでに立ち上がって行動開始した私、ナイスプレーです。

お陰で、罪のない少女達の心がバキバキに折られる危機をどうにか回避することに成功しました。


なんか悔しそうにコッチを睨みつけてるのが横目で見えましたが、気にしません。

退避!退避一択です。

兄が魔王に変化する前に、一刻も早くあの場を離脱せねば。


ちょっと、若さゆえに周りが見えてないだけで、多分善良なお嬢さん達が凍りつく(もしくは泣き出す)場面など見たくないです。

と、いうか祭り会場が凍りつくのは勘弁です。

私はまだお祭りの夜を堪能していないのです。


「お兄ちゃん。女の子に意地悪言っちゃダメですよ?」

「まだなにも言ってないよ?」

一応、注意すればほんわか笑顔で返されました。

えぇ、まだ(・・)ですよね。

私が阻止しましたからね?


じっと見つめれば、無言で肩を竦められました。

ちゃんと言いたいことは伝わったみたいで何よりです。


分かっていたことではありますが、どうにも兄は他人に対して排他的です。

特に、初対面で馴れ馴れしく近寄ってくる人は、男女共に苦手なようで。そこにケバかったりチャラかったりが重なるともう最悪です。


周辺から全力排除にかかります。

何度心をバキバキに折られて崩れ落ちる人を見たことが。


「もう。お兄ちゃんは私の側から離れるの禁止です!」

「………わかった」

ピシリと言い渡したのに、なぜか嬉しそうに頷かれちゃいました。

私と2人行動なんですよ?

自分の好きなものを勝手にフラフラ見に行けないんですよ?

なんで行動制限されて、喜んでるんですか?


「行きたいところには、結愛が付いてきてくれるでしょ?」

疑問が顔に出てたのか、ニコニコ笑顔付きで返事が返ってきました。


「………私の行きたいところにも、一緒ですよ?」

「うん」

コクリとどこか幼い仕草で頷く兄に弱いのは仕様です。

あきらめましょう。


「じゃぁ、さっさと食べてお祭り楽しみましょう!今年こそ射的で景品自力ゲットです!」

ぎゅっと繋いだ手に力を込めれば、同じ以上の力で握り返されました。





もう少しだけ。

この手を離さなくても、良いですか?














読んでくださり、ありがとうございました。


祭りの様子いらないかな〜と、チラリと思ってみたりもしたのですが、ご要望があったので(ありがたやありがたや)。


そして、なんでか突然三人称だわ視点ガラガラ変わるわで、読みにくくてすみません。


優くんの思いの先だったり(だ〜れだ(笑))、苦労性世話好きオカンな夏樹くんだったり、若干兄の黒さやトラウマが透けてみたり、と、盛りだくさんでお送りしました。


この後、引き続き受験対策で美花ちゃんが泣きをみてから中学生編へと続きます。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。 最初は不穏展開なのかとドキドキしてましたがゆあちゃんはスクスクと健全に育ってくれましたね [一言] 作者さんコメで初恋と書かれてたシュウくんとの関係はどうなったんでしょう…
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