幸せな小話③
秋祭り(小学生編)
「お兄ちゃん、変じゃない?」
くるりと回れば優しい手が伸びてきて、髪につけられた大きな花飾りを直してくれます。それからフワリと微笑みました。
「うん。かわいい」
秋です。祭りです。
ちなみに豊穣祭の一種だったみたいです。
近所の秋祭り。
毎年家族で行くのが恒例だったんですけど、今年はついにお友達と行くのです!
初!友達と秋祭り。
夕方6時に、神社の入り口で待ち合わせなのですよ。
で、浴衣を毎年おばあちゃんが作ってくれてるんですって話したら、「みんなで浴衣着よう!」って流れになったのです。
「じゃあ、そろそろ出ようか?」
柔らかな手に背中を押されて玄関へと誘導されます。
そう。「お友達と」と言いましたが、正確には兄や兄友人の夏樹さんも一緒なのです。
最初に許可を取ろうとした時に、「近所の祭とはいえ女の子だけで行くのは……」と難色を示したお爺ちゃん達に、兄が保護者代わりを買って出てくれたのです。
ありがたやありがたや。
ので。
メンバー的には美花ちゃん、愛理ちゃん、私に兄達2人の5人構成です。
あ、美花ちゃんと愛理ちゃんは最近引き合わせました。
美花ちゃんの受験対策の協力をお願いして、共に夏合宿をした仲です。
どうも私1人だと熱くなりすぎて美花ちゃんが逃げ腰だったので、緩衝材として来てもらったんです。
なんと、美花ちゃんが「中学は同じ学校を受ける」と言ってくれまして。
ただ、夏休み入った頃だったので受験対策を練るにも結構ギリギリだったのです。
美花ちゃんは、全国レベルの空手少女でして、どうしてもお勉強よりはそちらに力を入れていたので、正直学力的に危なかったんですよね。
でも、本人のやる気はある事ですし、私も美花ちゃんが一緒に行けるのは嬉しいし、という事でビシバシいかせていただきました。
で、泣きが入ったというわけです。
隣で夏休みの宿題をしてた優くんがドン引きしてましたが、そんなに厳しかったですかね〜?
合宿中も、半笑いの愛理ちゃんから度々白タオルが投げ入れられてましたがなんででしょうか?
まぁ、そんな苦労を乗り越えて、試しに受けてみた模試でギリギリ合格ラインに食い込んでたので、ご褒美&息抜き、なのです。
夏はちっとも遊べませんでしたからね。
ちなみにお付き合いで自分の勉強もしながらだったので、私も愛理ちゃんも夏休み明けの試験では絶好調でした。
愛理ちゃんが陸斗くんに対して高笑いしてて面白かったです。
やっぱり普段の積み重ねって大事ですよね!
女の子を待たせるわけにはいかないので、兄と少し早めに待ち合わせ場所に到着したのですが、既に夏樹さんがいました。
手持ち無沙汰に鳥居のすぐ横に立っているんですが、遠巻きに女の子達に囲まれてますね。
いや、お嬢さん達の気持ちは分かります。
中学に入ってぐんぐん伸びた身長にずっと続けていた剣道で程よくついた筋肉。
なんてことはない白シャツにブラックジーンズなんですが、武道をやっている人特有のスッと伸びた背筋のお陰で、元々イケメンなのに二割り増しでかっこいいです。
まとう雰囲気はまさに侍。
なんで洋服なんですか!
着物!着物着てほしいです!せめて浴衣を〜〜。
「夏樹、浴衣着るように言ったのに裏切ったな」
ポツリと兄がつぶやいてますが、なんだか笑顔が黒いですよ?
あ、ちなみに兄は黒の絣に格子柄を浮き出させている大人っぽい浴衣姿です。
こちらも夏樹さんほどではないですがスクスク平均以上に育った長身によく似合っております。
我が兄ながら見惚れるほどのイケメンっぷりで周囲の耳目を集めておりますよ?
チョット隣が居心地悪いですが、他に譲る気はありません。
どうだ!うちの兄はカッコよかろう!
特別に見るだけならタダですよ〜〜。
と、こちらの視線に気づいた夏樹さんが足早に此方へとやってきました。
そして開口一番。
「浴衣じゃないのは不可抗力だ。出がけにアイス持った母親にダイブされてダメになった」
流石、付き合い長いだけあって、兄の冷風の察知が早いですね。
まぁ、変な言い訳をする方ではないので真実でしょうし、兄もスッと冷気をひっこめました。
「春香さんじゃあ、しょうがない。罰ゲームはやめておこう」
「何か奢れとかじゃないのがタチ悪いな。何をさせる気だったんだ」
肩をすくめる兄に苦笑いを浮かべる夏樹さん。
う〜〜ん、仲良し。
「結愛ちゃんも久しぶり。浴衣、よく似合ってるな」
フワリと目を細めて、優しい笑顔でご挨拶。
見た目はクールな侍ですが、こういうところはソツがないんですよね。
普通の中学生男子がこんな自然に女の子に褒め言葉向けたりできないと思うんですけど。
「夏樹さんもお元気そうで。今日はお付き合いくださり、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げれば、優しく頭を撫でられました。
ちゃんと髪型を気にして乱さない絶妙の力加減です。
素晴らしい!
「結愛〜。お待たせ〜〜」
と、カランコロンと下駄を鳴らして美花ちゃんが登場……したのです、が。
「ごめん。出がけに捕まっちゃって」
「お〜〜っす!仲間はずれはいかんと思うんだよ」
背後に優くんが付いてきてました。
腕組み仁王立ちしてます。が。
今日の美花ちゃんは紫に藤の花が染め抜かれた少し大人っぽいデザイン。藤の花の縦ラインをが、すらりとした長身の美花ちゃんにとても似合ってます。
その背後に立つ優くんは紺地に昇り龍の甚平姿。
なかなか派手で着る人を選ぶデザインですが、彫りが深くはっきりとした顔立ちの優くんにはよく似合っています。
目立ちますね。
どこぞの雑誌から出てきたモデルさんのようです。
すれ違う人達が「何かの撮影?」とコソコソこっちを見てますよ。
あ、そういえば、優くんは本職さんでしたか。
「賑やかなのは大歓迎です。大丈夫ですよ?」
とりあえず、来てしまったものを追い返すのも大人気ないのでウェルカム体制です。
そもそも地元の小さなお祭りですし、別々に来ても会っちゃう事だってあるんですから。
と、そこにススっと近づいてくる影。
「お待たせいたしました。私が最後ですか?」
「今揃ったところですよ〜〜」
愛梨ちゃんの声に振り返り、思わずフリーズ、です。
愛梨ちゃんは、紺と白の浴衣にワインレッドの帯を締めていました。一見地味ですが、それ総絞りですよね?帯も金糸織りになってますよね?浴衣とはいえ、総額いくらになるんですか?!
て、所まではある意味想定内(いえ、驚きましたけどね?)だったのですが、楚々と立つ愛梨ちゃんの背後に控える影が。
そこには、白髪の執事服をピシリと身にまとい、白手袋も眩しい壮年の男性の姿がありました。
まるで物語の中に出てくるような、「これぞ執事!」を体現したかのようなお姿ですよ。
「すみません。両親が心配性で。最悪皆様と合流するまではと泣きつかれまして……」
みんなの視線に、愛梨ちゃんが少し恥ずかしそうに肩をすくめました。
そういえば、愛梨ちゃんはとてもいいお家の娘さんでしたね。
それは、色々と心配ですよね……。
「小柳。皆様と合流した事ですし、後は大丈夫だから」
「かしこまりました。お帰りの際には御連絡下されば、すぐに参りますので」
スッと一礼した後、小柳さんはくるりと踵を返して戻って行きました。
「良いんですか?」
振り返りもせず消えていく背中を見送りながら首を傾げれば、愛梨ちゃんが肩をすくめました。
「どうせこっちにバレないように護衛を配置してるはずだから。大方車にでも戻ってモニタリングしてると思うわよ?」
おお。私の知らないお金持ちの世界が垣間見えましたよ。
「大丈夫。見つかって雰囲気壊すような迂闊ものはいないはずだから。気にせず楽しみましょう?」
そして、愛梨ちゃんの笑顔が何やら黒いです。
これ、万が一見つかるようなドジを踏んだ方はどうなってしまうのでしょう?
視界の端に不自然にピクリと肩を震わせたカップルの方がいらっしゃったのですが、気づかないふりをしてあげる方が良いですかね?
「え〜〜っと、とりあえず。事前に行ってましたが、こっちは兄と兄の友人の夏樹さんです。今日はお目付け役その2を買って出てくださいました」
「買って出たというか、巻き込まれただけなんだけどね。まぁ、友人として見てくれると嬉しい、かな?」
仕切り直し、と、とりあえず夏樹さんのご紹介です。
兄はみんな顔見知りなので省略。
優くんも実はみんなと面識あったりするのでこれまた省略。
「中等部の有名人に、友人だなんておっしゃって頂いて光栄ですわ。こちらこそ、よろしくおねがいします」
と、愛梨ちゃんがニッコリ笑顔。
「あれ?夏樹さんの事知ってるんですか?」
「お姿だけ、一方的に。中等部では結愛ちゃんのお兄様と肩を並べる人気者なんですよ?」
ほほう。そうだったんですか。
まぁ、客観的に見てもモテる要素しかないような人ですからね。納得です。
なんとなく尊敬の眼差しで見つめれば、額を小突かれました。なぜだ。
「じゃあ、みんな揃った事だし、こんな所に立ち止まってると迷惑にもなりそうだから、そろそろ動こうか?」
「めいわく?」
兄の言葉に何気なく周りを見渡せば、そういえば、ずいぶん周囲が混み合っています。
時間的にも待ち合わせの人が多いのでしょうね。
「そうですね。いつまでも場所をとってたらダメですね」
ウンウンと頷く私の耳にかすかに「多分違う」「シッ!突っ込んじゃダメ」とのやり取りが聞こえた気がしましたが、なんのことでしょう?
まぁ、そんな些細なことよりも。
綿菓子にりんご飴。射的にヨーヨー釣り。
数々の屋台が私を待ち受けていますよ!
「では、いざ出陣!です」
読んで下さり、ありがとうございました。
長くなったので切ります。
人物登場までしか行かなかった………。あれ?