幸せな小話②
何気なく投稿したら、思った以上の方に続きを待って頂いていたようで、嬉しくなって投稿、です。
※翌朝追記しました。
①秋祭り(幼児編)
9月某日。
だいぶ残暑が和らいで、過ごしやすくなりました。
今日は近所の神社でお祭りがあるのです。
夏はチョット色々あって行きそびれたので、今年最初のお祭りなのです!
お婆ちゃんが、兄と私、そしてお母さんにまで浴衣を縫ってくれたので、本日お披露目、なのですよ。
ちなみに私は白地に赤い金魚と水草。偶に黒い出目金がいて可愛いのです。
お兄ちゃんは紺地にトンボが飛んでて、お母さんは濃い紫に色とりどりの花が大きく咲いてます。
「おばぁちゃん、にあいましゅか?」
着付けしてもらって、嬉しくてクルクルまわれば、ちょうちょ結びに結ばれた赤い兵児帯がフワフワと揺れます。お婆ちゃんはニコニコ笑顔で写真を撮りまくってました。
おばぁちゃん、カメラにはまっているようで、事あるごとにレンズを向けられます。
最初は緊張したけど、今では慣れました。なんなら、ノリノリでポーズまでつけちゃいますよ?
最初は携帯から始まり、コンパクトなデジカメ……遂には先日一眼レフカメラまでゲットしてました。
お婆ちゃんの凄いところは、それまで触ったこともなかったのに、編集作業のためにパソコンの操作まで覚えちゃったところですね。
どうやら凝り性みたいです。
「ゆあ、準備できた?」
先に着付けの終わっていた兄がヒョコッと顔を出しました。
「はい。かわいいです!」
飛びつくように駆け寄れば、笑顔で抱きとめられました。
「うん、かわいいね」
飛びついた拍子に少し歪んでしまった髪飾りをなおしながら、兄がニッコリと笑いました。
「に〜にも、かっこいいです」
兄は兵児帯ではなく、普通の帯のせいか、いつもより大人っぽく見えます。
なんか、どこかのモデルさんみたいです。
「ふふ。ありがとう。行こうか?」
手を引かれて玄関に向かえば、お母さんとお爺ちゃんが待っていました。
どうも、お婆ちゃんの撮影会が思ったより時間を取ってたみたいですね。
「あらあら、お待たせしました」
最後にお婆ちゃんが戸締り確認をして出てくれば、準備万端です。
倉敷一家、いざ、秋祭りに出陣!!です。
お祭りは、思っていたより盛大でした。
神社の参道の両側をいろいろな屋台が埋め尽くしています。
わたあめ、チョコバナナ、たこ焼きに焼きそば……。
「しゅごーい!」
思わず歓声をあげれば、両隣からくすくす笑いが降ってきます。
「にーに、しゅごいね!お店いっぱい!」
それにもめげずに繋いだ手を引いて主張すれば、「そうだね」と優しい笑顔が向けられました。
なんでしょう。なんか照れますね。
良いんです。今、私は幼児ですから!
「とりあえず、席確保しましょう!早い時間だから、まだ空いてるテーブルがあるはず!」
お母さんが慣れた足取りでさっさと先に進みます。
え?お店、見ないんですか?
あぁ〜、綿菓子〜〜たこ焼き〜〜。
なんて、半べその時がありました。
屋台の並んだ参道を抜けた先に広場があって、そこに舞台があり、その前にはテーブル席がありました。
もちろん、広場周辺を囲むようにここにも出店がいっぱいです。
「さぁ、結愛!何が食べたい?」
端の方の空いてるテーブル席を無事にゲットした母さんが、ニッコリと笑いました。
「今日は特別になんでも買ってあげるわよ〜〜」
巾着を振り上げ高らかに宣言するお母さんに、本日2度目の歓声をあげたのは………まぁ、当然のこと、ですよね?
テーブルの上にはいろんな食べ物が並んでいます。
いちごサイダーと銘打たれた真っ赤な飲み物をお供に、イロイロとつまませて貰えば、お腹はあっという間に満たされました。
なんで、出店で食べるジャンクフードってあんなに美味しいんですかね?
ねじり鉢巻のおじちゃんの呼び声につられて、ついつい買い過ぎちゃいましたよ。
そして、お腹が満たされれば、次に疼くのは好奇心です。
ヨーヨーに射的、亀釣りもありましたよ?
食べ物系を漁るついでにちゃんとチェック済みです。
ニヤリ。
「お母さん、ヨーヨー釣りしてみたいの〜〜」
早速、大蔵大臣様の袖を引いてみます……が。
ビールに焼き鳥を両手に持ってご満悦のお母さんは動きそうにありません。
お爺ちゃん、も、同様ですね。
「よ〜〜し、莉央君、お小遣いあげるから、行っといで〜〜。あ、でも広場からはでちゃダメよ?」
酔っ払いと化したお母さんは笑顔で兄に巾着を手渡してますが、それ、財布丸ごとに携帯も入ってますよね?
マルッと渡していいですか?
「母さん、イイから。家出るときに、貰ってるから」
と、兄がそっと手を押し返しました。
どうやら、こうなることを見越したお爺ちゃんが兄に先にお小遣いを渡してたみたいです。
「行こう、ゆあ。ヨーヨーだっけ?」
手を引かれれば、当然のようにお婆ちゃんも付いてきました。
ですよね。
小学生と幼児2人で野放しとか、無いですよね〜。
そうして、屋台を冷やかしてまわればすぐに浮き出る兄のチートっぷり。
ヨーヨーはスイスイとゲットし、射的では高額商品を撃ち落とす。
亀釣り等の生き物系は買えないからとさせてもらえませんでしたが、代わりにクマのぬいぐるみをゲットしてくれました。
フワフワで可愛いです。
ご満悦で抱きしめて歩けば、道行く人に微笑ましい顔で振り返られました。
幼女とぬいぐるみは鉄板ですよね。
うん、知ってた。
お婆ちゃんのカメラのフラッシュが明るいです。
「お嬢ちゃん、くじ引いてかないかい?」
不意にかけられた声に、首をひねれば、ハッピにねじり鉢巻のおじさんがニコニコ笑って手招いてます。
たくさんのオモチャが飾られた中に、幼稚園で流行っているアニメの変身グッズがあって、思わず吸い寄せられました。
美花ちゃんが熱く語ってたヤツですよね。
おもちゃにつられて、足を踏み出したときに固く繋がれていたはずの手がスルリとほどけてしまっていたことに、私は気がつきませんでした。
暗くなって増えてきた人混みに流されて、一緒にいたはずのお婆ちゃんとも離れてしまっていた事も。
「おじちゃん、コレ、いくらですか?」
「シッカリしてるね〜。本当は5百円だけど、お嬢ちゃん可愛いから3百円でイイよ〜」
ふらふらと近づいて尋ねれば愛想のいい笑顔とともに調子良い言葉が返ってきます。
それに笑って、運だめしと兄におねだりしようと振り返り、そうして、ようやく私は気がついたのです。
隣に兄がいないことに。
見守ってくれていたお婆ちゃんがいないことに。
ひとりぼっちになっている事に………。
今まで出店の灯りが明るくて気がついてなかったけど、いつのまにかすっかり空が暗くなっている事にも、今更ながらに気づいてしまえば、スッと血の気がひいていくのがわかります。
お祭りの空気に浮かれて忘れていたアレコレが一気に押し寄せてきました。
「あれ?お嬢ちゃんどうしたんだい?1人かい?」
出店のおじさんが心配そうに声をかけ、身を乗り出してきた事に、体が勝手にビクリと震えて、一歩、後ろに下がります。
脳裏に、自分の方に伸びて来る大きな手の影が浮かび、沸き起こる恐怖に気がつけば走り出していました。
「お嬢ちゃん?!」
視界の端に驚いた顔が掠めますが、今はそんな事に気遣える余裕はありません。
キーンと耳鳴りがして周囲の音が遠ざかる中、必死で息を吸い込みます。
(落ち着いて。大丈夫。広場からは出てないし、お母さんたちのいるテーブルまで帰ればイイんだから)
1人になった事でパニックを起こし混乱する自分に必死に言い聞かせて、固まりそうになる足を無理に動かして進みます。
帰る。帰る。お母さんのところに。お爺ちゃんのところに……お婆ちゃん………にーに……。
ナニカが追いかけて来る気がして、怖くて、怖くて……。
早く帰りたいのに、周りの人影は大きくて、お爺ちゃんたちのいるテーブルがどこにあるのか見えません。
「に〜に、どこぉ〜〜」
息が苦しくて、もう、倒れそう。
呼吸ってどうするんだったっけ?
苦しさと絶望で視界が霞んできたその時。
「見つけた!ゆあ!!」
不意に背後からギュッと抱きしめられました。
いつもより高い体温と荒い息が、慌てて探し回ってくれていたことを教えてくれて、堪えていた涙と嗚咽があふれました。
「に〜に、に〜〜に〜〜!」
クルンと振り返り、正面から抱きついて泣きじゃくる私を兄がしっかりと抱きしめてくれました。
怖さが、スゥッと消えていきます。
この腕の中は安心。
「ごめん。手を離して、ごめんね。こわかったね」
泣きじゃくる私を抱き上げると、兄は危なげない足取りで歩き出しました。
「うえ……かえりゅ……おうち、かえりゅ……」
「うん。帰ろうね」
グスグスと泣きながら訴えれば、慰めるように軽く揺すられました。
そうして、テーブルまで戻れば、お爺ちゃんたちに驚かれ慰れられているうちに、お婆ちゃんもすぐに合流。
そうして、あやされているうちに泣き寝入りして、私の初めてのお祭りは終わったのでした。
教訓。
迷子にならないように、繋いだ手は離さず、気になったものがあればツレに声をかけましょう。
それでも迷子になったなら、動かないで見つけてもらえるのを待ちましょう。
チャンチャン♪
読んでくださり、ありがとうございました。
時系列的には、人形遊びの後くらいのイメージです。
頑張ってトラウマ克服中なのです。
14日朝。
トラウマ構築後にしてはゆあちゃんの反応に違和感が、って事で追記してます。これで少しは大丈夫、でしょうか?
あとは、家族にしっかり囲まれてた事とお兄ちゃんが一緒にいたからって事で、よろしくお願いします(汗
深夜テンションで書くと色々抜けていかんですね。
ツッコミ感謝です。