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ある日の一コマ①

①ゆあ+りお「お見送り」




「にーに、いってらっしゃ〜い」

「………ん」


玄関で手を振ると、少し寂しそうに兄がランドセルを背負い靴を履いています。


祖父母の家に引き取られてしばらくすると、兄が小学校に通いだしたんです。

幼稚園も行ったことがない兄は、どうも集団生活に戸惑い気味で、あまり小学校に行きたくなさそうなんですよね。


「………ゆあ、お家にいる?」

…………そんな顔しても、一緒になんて行けませんよ?

私はしがない3歳児、です。


「にーに、ランドシェル、カッコいいねぇ。がっこのはにゃし、かえってきちゃら、いっぱいしてね?」

靴を履き終わっても立ち上がろうとしない兄の隣に座り込み、パンパンと真新しいランドセルを叩きました。頑張れ兄。いつまでも引きこもってはいられないんですよ!


もちろん、その際は笑顔を忘れません。

スマイル0円。伝われこの思い!



「莉央、お母さんもお仕事行くから、一緒に行こう?」

そうこうしていると、母がカバン片手にやってきました。

兄の入学を機に母もアルバイト始めたんですよね。


「ゆあちゃんはばぁ〜ばとお留守番してようね」

さらに、祖母まで登場です。

兄の隣に座り込んだ私をヒョイっと抱き上げるとヒラヒラと手を持ってふられました。

操り人形ですか?

あ、サイズ的には腹話術のアレみたいですね〜。


家にいた家族全員が勢ぞろいしてしまうと、さすがに玄関はギュウギュウです(あ、祖父はもう仕事に出かけたのでいません)


兄が、諦めたように立ち上がりました。

「ゆあちゃんとおやつ作って待ってるから、早く帰っておいでね」

「おいでね〜」

ニコニコ笑顔のおばあちゃんの真似っこをすると、ようやく、兄の顔が少し綻びました。


「カップケーキがいいな」

「「は〜〜い」」

お婆ちゃんと手をあげて元気よく返事を返します。

母さんが兄の手をとり、玄関を開けました。



「「いってきます」」

「「いってらっしゃい」」




それは、とても幸せななんでもない1日の一幕。








②結愛+莉央「リボン」




「お兄ちゃん、髪結んでください」

コンコンと部屋をノックすれば、了承の声。

ドアを開けて開口一番そう言えば、何やらパソコンに向かっていた兄が振り向いて笑いました。


「いいよ。今日はどうする?」

小学校まではずっとツインテールだったんですが、中学に入ってちょっと恥ずかしいような気がして、最近は色々な髪型を試してたんですよね。


だからこその兄の質問だったのですが。


「今日は久しぶりに2つに結んでください!」

笑顔で兄に差し出したのは少し色褪せたピンクのリボン。ウサギの絵が織り込まれたそれは兄が初めてプレゼントしてくれたものでした。


「これ、懐かしいな」

「昨日、引き出し整理してたら出てきたんです」

ちゃんと覚えてて、嬉しそうに目を細める兄に笑顔を返します。


幼稚園で片方なくしたと思ってたんですけど、数年後に返してもらったんですよね。

でも、その頃には残っていた方のリボンがどこにいったのか分からなくなって、結局使われることなくしまいこまれていたんです。

リボンだから髪型によっては一本でも使えたんですけど、なんだか寂しくて。


「引き出しの外に落ちてたみたいで。整理するのに全部引っ張り出したら奥の方から出てきました」

隙間に綺麗にはまり込んでいたみたいで気づかなかったんです。

見つけた時、嬉しくて叫びそうになりましたから。

辛うじて飲み込みましたけど、ね。


ピンクにウサギの柄は、本当は少し子供っぽいんでしょうけど、中学生ですもん。まだ、子供、ですよね?

ちょっとヨレッとなっていたので丁寧にアイロンをかけて、もう1つのリボンも、しまいこんでいた箱から引っ張り出して。



「はい。出来たよ」

あっという間に綺麗なツインテールを作ってくれた兄に、座っていた椅子からピョンっと飛び上がるみたいにして立ち上がりました。


「似合いますか?」

「うん。久しぶりだと、新鮮でいいね」

くるりと回れば、少し遅れて髪の毛もクルリとついてきます。見えないけど、ピンクのリボンもきっと一緒に揺れているんだと思います。


「久しぶりに一緒になれて、リボンさんもきっと喜んでますね!」

「そうだね」

上機嫌の私に、少しおかしそうに兄が笑っていますが、気にしません。


だって、大切な宝物がやっと揃ったのですから。


あれから、兄はたくさんのリボンや髪飾りをくれましたけど、やっぱり、1番最初ってなんだか特別なんですよ。

1つになってしまったリボンを見るたび、いつも少し切なかったんです。


再度、鏡で確認。

キレイな蝶々に結ばれているリボンにニヤニヤが止まりません。


「ゆあ?出かける時間じゃない?」

いつまでも鏡の前から離れようとしない私に兄が、時計を指差して声をかけてくれました。


「きゃあ!こんな時間!遅刻です!!」

今日は美香ちゃんたちと遊ぶ約束があるんです。

私は慌ててお家を飛び出しました。


「車に気をつけるんだよ!」

「はぁ〜〜い。いってきま〜〜す!!」


追いかけてきた声に元気よく答えると、私は走り出しました。

視界の隅で揺れる髪が光を振りまくのを感じながら。






読んでくださり、ありがとうございました。


内容的には①が『イジメいくない!』の前。

自分と同じくらいの子供に囲まれることがなかった莉央君はどうして良いのかやや混乱してた模様。学校イヤ!というより、なんか面倒だから妹とお家で遊んでる方がいいなぁ〜、って感じでした。


②がゆあちゃん中学に入学直後くらいですね。

ちなみにリボンは『お人形遊び〜』の後くらいにようやく返せました。返そうと思ってるうちにズルズルと機会をなくして………って感じ。

子供ってそういうの、ありますよね。


なんとなくほのぼのな2人の日常感が伝わりましたでしょうか?

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