きみに巡り会えた幸せ①
ヒロイン(笑)視点のお話、差し替えさせていただきました。
前世メイン。微ヤンデレ警報。苦手な方は回れ右でお願いします。
私には自慢の友人がいた。
出会ったのは、中学時代。
中等部から編入してきた彼女と、初等部から在籍していた私。
幼稚園の頃、男の子達にいじめ一歩手前のからかわれ方をされ続けて、すっかり男の子がダメになり、一時期は同世代の異性を見るだけで硬直してた。
そんな私を心配した親が、小学校からは私立の女子校に入れてくれたけど、その頃には、生来の人見知りも相まって、同性でも他人と会話をするのが苦手になっていた。
良い子の多い学校だったから虐められてはいないけれど、私は、すっかり周りからういていたと思う。
そんな、1人でいることが多い私に彼女が話しかけてきたのは、その時読んでいた本が偶々彼女の愛読書だった為だった。
入学式の次の日。
すでに、仲良しの子達のグループが出来始め、そうでない子も、友人を作ろうと騒つく中、隅っこの席で私は本の陰に隠れるように過ごしていた。
本は、私にとって自分の世界を守るための盾だった。
長い髪を引っ詰めのおさげにして、大袈裟なほどに主張する黒ぶちの眼鏡で俯いていれば、声をかけてくる人は滅多にいない。
が、その、滅多にいないはずの人が、彼女だったのだ。
「ね!その本、好きなの?」
抑えられた、でも、少し弾むような声。
驚いて顔をあげれば、真っ黒な瞳が真っ直ぐに私を見つめていた。
サラリと肩に流れた黒いセミロングの髪が印象的だった。
「うん。主人公の親友が好きで………」
あんまりにも真っ直ぐに見つめてくるものだから、ポロリと考えるよりも先に言葉が溢れてしまった。
その事を後悔するよりも先に、目の前の少女が破顔した。
「私も!少しヒネくれて素直じゃないのがいいよね!」
諸手を挙げて賛同され、パチパチと目を瞬く。
まさか、同意されるとは思わなかった。
たまにこの話が好きって子も主人公の真っ直ぐで正義感があるところとか、ヒロインの健気な所が可愛いって人達ばっかりだったから。
初めての「仲間」に、気がつけば笑ってて、先生が教壇に立っていたのにも気づかずに話し込んでいた。
そんなの、初めて。
「静かに席について、前を向いて!」って、先生に怒られたのも、友達と顔を合わせて「ヤっちゃったね」とこっそり笑い合うのも、初めてだった。
後に、あの日のことを聞けば、通っていた小学校からは唯一の編入者で、知り合いもいない彼女が途方に暮れていた時、愛読書が目に飛び込んできて、これはもう運命だろうと勇気を出したんだと言っていた。
あの日の朝、ただ、何となくその本を読み返そうかと手に取った自分を、コッソリと胸の内で褒め称えたのは秘密だ。
彼女といると、たくさんの初めてに出会えた。
それが、嬉しくて、楽しくて。
時には悔しい思いもして、一緒に泣いたりしたこともあったけど、それすらも、私にとってはかけがえのない経験だった。
少しヒネくれてて、でも、仲間思いで。
太陽のような明るさではなかったけれど、側にひっそりと寄り添ってくれる。
嬉しい事があれば一緒に喜んでくれて、間違った事をした時は、体を張ってでもとめてくれた。いつだって、真っ直ぐな瞳で。
そんな彼女が大好きで、そして、そんな彼女を大好きで集まってきた人達とも、いつの間にか仲良くなってて。
そして、いつの間にか、一人ぼっち教室の隅っこで息を潜めていた私はいなくなっていた。
学校を卒業した後。
内向的な性格はやっぱり変わらなくて、家に閉じこもりがちの私を、彼女はいつだって引っ張り出してくれた。
春は桜、夏はお祭りに花火。秋になれば、紅葉を見に出かけ、冬は雪を眺めながら温泉に浸かった。
そうやって、いつまでも続いて行くんだと思ってた日常は、ある日、プッツリと途切れた。
彼女が、通りすがりの痴話喧嘩に巻き込まれて殺されたのだ。
それを知ったのは、何気なく見ていた夜のニュースで。
信じられなくてかけた電話は繋がらなかった。
「偶々、同姓同名だっただけ」「写真は他人の空似」何度も何度も自分に言い聞かすように呟きながら、
いてもたってもいられず、衝動的に飛び出して彼女のマンションに行けば、同じように集まった人達で溢れていた。
おぼろげな記憶の中の人達のその顔が一様に絶望に彩られるのを見れば、私の儚い希望は叶えられないんだと聞くまでもなく分かった。
ああ。
ああ………。
あぁ!!
もしも、呪いが使えるなら、彼女を殺した犯人を呪い殺していた。
もしも、タイムスリップできるのなら、我が身に代えても助けていた。
もしも、この命と引き換えに彼女が生き返るのなら、喜んで差し出すのに!
こんな死に方をしていい人じゃなかった。
こんな所で死ぬはずの人じゃなかったのに!!
叫びも、涙も、もう、どこにも届かない。
絶望なんて言葉じゃ、到底足りない。
フラフラと家までたどり着いたのは無意識のうちの帰巣本能だった。
お葬式にはでなかった。
親切な誰かがメールで教えてくれたけど、そこに行ったって何の意味もない。
もう、話さない。笑い合うことも出来ない彼女に会って、何の意味があるというのか。
死ななかったのは、ただ、彼女と約束していたから。
何かの映画を観た帰りに「私だったら親友に置いて逝かれたら耐えられなくて、後追いそう」と冗談めかして言った私に、「そんなことしたら死んでも許さないから!」と怒られた事があったんだ。
「もう死んでるじゃん」って笑った私に、「じゃあ、絶対話さないし見ない。無視してやる!」って、ムキになって言い返してきた。
きっと、もう言った彼女自身も忘れているだろう遠い日の思い出、だ。
「無視、されたら困るもん」
私の彼女に対する依存っぷりを知っていた他の友人の1人が心配して尋ねてきたおりに、私は、その話をして「だから、大丈夫」と、笑ってみせた。
そう。
だから、私は自分で死んだりしない。
変わらずに仕事をして、ご飯だって食べる。
春には桜、夏にはお祭りに花火。秋になれば、紅葉を見に出かけ、冬には雪を眺めながら温泉に浸かった。
ただ、その全てに隣に彼女がいないだけ。
ただ、その全てが記憶の中よりも遠く色褪せて見え、食べ物も何の味もしないだけ、で。
春夏秋冬。
季節は巡る。
一年一年、ゆっくりと私は年を取っていく。
増えるシワに、艶をなくしていく肌。
女なら忌むべき変化がこんなにも嬉しい。
だって、ほら。
また、君の側へと近づいた。
目を閉じた最後の瞬間、浮かんだのは懐かしい出会いの時。
『ね!その本、好きなの?』
……………うん。大好き、だよ。
読んでくださり、ありがとうございました。
あまりにもハッチャケ過ぎて、迷走しそうになったので、新たに書き直してみたのですが。
なんでしょう。
お馬鹿→ヤンデレ、に変わっただけな気がしてきました。
ドウシテコウナッタ。
あれ〜〜?
別にね。生前はここまで病んでなかったんですよ?
交友関係狭かっただけで、ちゃんと他にも友達いましたし。引っ張り出されて連れまわされたのも2人きりではなくグループ行動でしたしね。
でも、続くのです。