イジメイクナイ!①
サブタイトルまんまです。
よろしくお願いします。
皆さん、こんにちは。ゆあです。ついに3才になりました。
なんだか3才ってできる事の幅がグンっと広がる気がしてワクワクしますよね。
そろそろ初めてのお使いとか、どうでしょうか?
そんなワクワクの私なんですが、じつは最近心配事が1つ、あるんですよね。
………兄、小学校で虐められてませんか?
もともと、私と2人で引きこもりな生活だったため、集団生活どころか、同じ年頃の子と触れ合ったこと無かったんですよね。
幼稚園も保育園も行ってなかったし。
兄、基本あんまり喋らないし、感情が顔に出にくいし。
私とは別な意味で異質な感じ。
子供って敏感で残酷な生き物なんです。
出る杭は叩きます。
そりゃぁ、もう。精魂込めて叩きまくります。
で、兄はですね。
悲しいけれど、排除される事に慣れきってるんですよね。
それが普通の生活を長く送ってきてたから、そんな物だと認識しちゃってて、子供の虐めくらいじゃ堪えない。
表情1つ変えずにスルーしてるんだと容易に想像つきます。
で、じょじょにエスカレート。
多分、最初は仲間はずれとか足かけて転ばすくらいだったんだと思うんですよね。
そこで、嘘でも泣いとけば、場は収まったはずなんですけど……。
あの兄にそんなスキルは無いわけで。
現在。
やけに服を汚して帰ってきたり、鉛筆が不自然に折れてたり……。
教科書破れてたってのもありました。
基本、同じ部屋にいるので兄の状態は筒抜けです。
おばあちゃん達には隠そうとしてるみたいだけど、私には隠す気も無いみたいですしね。
「にー、痛い?」
「大した事はないよ」
膝の擦り傷はともかく、背中のアザとか……。そろそろ止め無いと、やばい水準に達してませんかね?
さて、どうしたものでしょ?
で、現在。
私は兄の通う小学校に来ています。
初めてのお使いならぬ、初めてのおむかえ。
ちゃんと兄の帰る予定時間に合わせてやって来て、現在、校門のところで待ってます。
あ、ちゃんとおばあちゃんに許可は取ってますよ?
実は家から小学校まで500メートルくらいしか離れてないうえに、道を横断する事なくたどり着けちゃうという、3歳児にもやさしい道のりなんですね。
角も二回しか曲がらないうえ、校門横にたどり着くまでこっそりおばあちゃんが付いてきていました。隠れてるつもりでしょうが、しっかりばれてました。
で、ぞくぞくと子供達が出てくるんですが、兄の姿が見当たりませんね〜。まだかなぁ〜?
「どうしたの?誰か待ってるの?」
門から玄関の方を眺めてたら女の子の3人組が声をかけてきました。
体の大きさから4年生くらいでしょうか?
ホットパンツにチェニック。足元はニーハイソックス。最近の子はお洒落ですよね。
うちらの小学校時代なんて、基本ジャージとかでしたよ?
いかん、思考がそれました。
覗きこんでるお姉様ずを見上げて、にっこり笑顔でご挨拶しましょう。
「くらしきゆあ、3さいでしゅ。に〜にを迎えにきたのでしゅ」
ぺこりと頭を下げれば、「かわいい〜」と受けていますよ。
そう。今世の私は客観的に見ても可愛らしい容姿をしているんです。
ふわふわの天然茶髪に同色の大きな瞳。色は白くてほっぺはぷくぷくでほんのりピンク。唇は小さめで、初めて鏡を見たとき、我ながらお人形のようだと感心しましたもの。
母親の徹底した面食いには感謝ですね。
しかも、この色素の薄さはどうも父親はよその国の人だったんじゃ無いかと思われます。
見た目だけなら、とりあえず人生勝ち組になれそうな予感たっぷりですよ。
「お兄ちゃんの学年と名前、分かる?」
「いちねんせいでしゅ。なまえはくらしきりおでしゅ」
どうも探してくれようとしているみたいです。親切な子達みたいで、ラッキーです。
元気に手を上げて答えると「知ってる?」と3人で相談が始まりました。
「2組の子じゃない?なんか、きれいな顔の子がいるって優子達が騒いでたよ」
「あ〜、この子のお兄ちゃんならそうかもね〜」
なんと、兄はすでにその美貌で有名みたいですよ。もしかして、そのせいもあって悪目立ちしちゃったんでしょうか。
「聞いてきてあげるよ。チョット待っててね〜」
ショートカットの子が軽い足取りで校舎に戻って行きました。お手数おかけします。
待ってる間、残った2人にいろいろ聞かれたり、髪をいじられたり、お人形扱いされましたが、気にしません。
適当に受け答えしつつ校舎の方を見ていると、建物の端の方に兄を発見しました。
複数の男子に囲まれてチラッとしか見えなかったけど、あの顔は間違いありません。
しかし、遠目ながらもなんだか不穏な空気でしたよ。
「に〜に、見つけた!あっち!」
「あ、ちょっと待って」
嫌な予感に叫ぶと、少女達の手をすり抜け走り出しました。
ちょこちょこと足を精一杯動かして兄の消えた方を目指すと、少女達が付いてきました。
私の全力疾走も少女達には早足程度みたいですよ。なんか悔しいけど、体格差はどうしようもないのでスルーしましょう。
校舎の角を曲がっても、そこには誰も居ません。
どこに行ったんでしょう?
「お兄ちゃん、こっちに居たの?」
「あい。にに、たくしゃんのおっきなお兄ちゃんに連れられてましゅた」
なんだか不安で涙が滲んできました。
ベソをかく私に少女達が困った顔を見合わせています。
「こっちなら、裏庭の方じゃない?」
「マジ?ヤバいんじゃない?誰か呼んでくる?」
「とりあえず、行ってみよ?遊んでるだけカモだしさ」
私の手を両側から繋ぎ、歩き出したふたりに導かれるまま進んだ先は裏庭というか、校舎と体育館の隙間の見事な死角でした。
悪さするならもってこいですね。
はたして、そこで繰り広げられていたのは、一方的な暴力でした。
輪の中心に兄がいて、皆んなに突き飛ばされるまま右に左によろめいています。
「げ、最悪。原田達がいるじゃん。下級生に何やってんのあいつ」
「ナッチにメールで先生呼んでくるようにたのも」
少女達が私の手を握ったまま、とっさに建物の陰に身を潜め相談しています。
が、目の前の光景に何も耳に入りません。
兄が、暴力を振るわれてる。
体が動いたのはもはや反射の域だったと思います。
少女達の手からすり抜け、たまたま壁に立てかけられていた箒を握りしめ、集団の中に駆け込みました。
「ににをいじめんにゃ〜!!」
手近な少年の背中を箒で殴りかかります。
しかし、悲しいかな。
自分の身長よりも大きな箒を早々振り回せるはずもなく、奇襲のため1回は当たったものの、すぐに箒の柄を掴まれてしまいました。
「なんだぁ〜、こいつ」
そのままの勢いでぶんっと横に振られ、小さな体は勢いに負け転がりました。
手が離れてしまい、コロコロ転がった体は、校舎の壁にぶつかって止まりました。
「きゃぁぁ〜〜!」
「ゆあ!!」
少女の悲鳴と、兄の呼ぶ声。
だけど、強く体を打ち付けた衝撃で動く事が出来ません。てか、いったいっ!
ジッと固まって痛みに耐えていると、駆け寄ってきた誰かに抱き起こされました。
「ゆあ!大丈夫?!」
あぁ、これは兄の声ですね。
すみません、イメージでは颯爽と助けるはずだったんですが、自分の体の小ささ舐めてました。失敗です。
「こんなちっさな子にまで、何してんのよ、あんた!」
「ばっかじゃない!死んじゃったらどうすんのよ!!」
同じく駆け寄ってきた少女達が庇ってくれてるみたいですが、興奮状態の少年達は止まれないみたいですね。
「うっせ〜!そいつが先に殴りかかってきたんだから、正当防衛だろうが!俺らは悪くねぇ〜よ!」
「きゃっ!」
開き直った発言とともに、少女の悲鳴。
よく見えないけど、突き飛ばされたんじゃないでしょうか?
と、私を抱きしめていた兄の手にぐっと力が込められ、次いでそっと下におろされました。
「僕だけだったら、我慢したのに……。お前ら、許さない」
小さなつぶやきはゾッとする程冷たくて、兄の怒りがコッチまで伝わってきました。
その声に少年が一瞬怯んだ後、そんな自分が許せなかったらしく、怒りで顔が歪みました。
「あぁ?何言ってんだ。弱虫のお前に何ができるってんだよ!」
私から取り上げた箒が、今度は兄に向けられます。
思わず目を閉じ、だけど、次いで上がった悲鳴は兄の声ではありませんでした。目を開ければ箒を持っていた少年が腹を抑えて呻いています。
……なんで?
呆然と眺める中、兄はまるで流れるような自然な動きで向かってくる少年達を倒していきます。
いつの間に、空手なんて身につけたんですか?コッチに引っ越してからとしても、そんな短期間で実用に耐えれるほどの技術って身につくものなんでしょうか?
やっぱり兄はチートだったんですね。
先生が駆けつけた時には、兄以外のすべての少年が地に伏し泣きじゃくっている状態でした。
「に〜、しゅごい」
クラクラする視界の中コッチに向かってくる兄を見つめつぶやくと、そのまま意識を失いました。
う〜ん、真っ白。
読んでくださりありがとうございました。