裸で異世界行きました。
お風呂の引き戸を開けたら、そこは3Dダンジョンでした。
夢だと思う。
良い気分で辺りを見回す。
洞窟風の壁自体が柔らかく光っている。
洞窟の中なのに、暗闇ということもない。
「あるあるある、ないし」
私は笑顔で先を踏み出す。
いつもやってる3DダンジョンRPGにそっくりだ。
私の好きな雰囲気や壁の感じが同じだ。
そのキャラクターも大好きだ。
ダンジョンとキャラクターで総合満点のゲームだった。
「好きだー! ダンジョン!」
どうせ夢の中だ。遠慮なく叫んだ。
一本道が続く。
ゲームの中と同じように、壁の方を見ながら蟹歩きをする。
ゴツゴツした洞窟の感じ。茶色の土がボンヤリ光る感じ。
私は息を荒くしながら壁を撫で回した。
パラパラと表面の土が少し落ちるけど、中は石?なのかな。固い。
蟹歩きで移動しながら壁を丹念に撫で回す。
こんなリアルな夢は二度と見られない。
天井を見上げると私の身長の2倍くらいの高さの天井がある。
ひとつなぎだから天井も同じだけど、天井も触りたかった。
蟹歩きを続けていると、最初の店に着いたみたいだ。
横を見ると壁を半円に大きく切り抜いたみたいな所があった。
カウンターがあって、真っ赤なターバンを巻いた人が立っている。
ということは、
「ここ、初心者の洞窟だぁっー!! うわーい」
手をバタつかせながらカウンターに飛びつく。
「ぎぇあー!! 裸ー!」
カウンターに立っていた雑貨屋のお兄さんはピョーンと飛び上がった。
「薬草くっださーい」
可愛く手を差しだす。
ここ、初心者の洞窟の雑貨屋はお試しで薬草くれるはず。
「まず装備買おうよ」
雑貨屋のお兄さんは目をまん丸にして、ゲームとは違う事を言った。
「えっ、薬草くれないで装備売りつけるの?」
首をかしげる。
「いや、君ね。裸だから丸裸だから。いわゆるスッポンポンだから」
カウンター越しにお兄さんが私の体を指差した。
「まあ、ここへ来るときお風呂入ろうと思ったし。服着てるわけないじゃん」
「ここは初心者の洞窟だよ?!」
私の言葉にお兄さんが喰い気味で身を乗り出す。
「知ってますー」
フグのように頬をふくらませる。
お兄さんがカウンター越しに身を乗り出して、私の頬をつついた。
「女の子なんだから、服を着なさい」
お兄さんがカウンターの棚から革のワンピースを出して、レジ横に置いた。
100ウマー。薬草10個分の値段だ。
「いや。お金持ってないし」
私は腕を組んでそっぽを向く。
ここは譲れない。
ここは私の夢の中だから私の好きなようにする。
「ね、お兄さん。私、雑貨屋のお兄さんが好きなの。ここにサインして」
私は頬っぺたを指差した。
この優しげな雑貨屋のお兄さんは私の好みのキャラクターの一人だった。
真っ赤なターバンと垂れ目がちの優しい顔。
ちょっと長めのウェーブの黒髪。
日に焼けた肌がアラビアンチックだ。
「っと、ときめきそうになった危ない。君はまず服を着なさい」
少し顔を赤くしてお兄さんは咳払いする。
カウンターから出てきて素早く私に服を着せよう、と!
私は素早く避けた。
「100ウマーとるんでしょ?」
「おごりだから着てくれー。この革のワンピースは防御的にもバッチリなんだぞ」
「よっしゃ、おごり」
おごりと聞いて素早くワンピースを被った。
こしの革紐をキュッと締める。
雑貨屋のお兄さんはアイテムポーチも腰につけてくれる。
「このアイテムポーチも?」
「おごりだよ。もう! 君は本当にお金も持ってないし、アイテムポーチも持ってないし、服も着てないし」
ぶつぶつ言いつつ私の身支度を整えてくれる。ゲームをただプレイしてたのでは、こんな優しさわからなかった。
優しい顔がちょっとキリッとなっていてカッコイイ。
「君みたいな子供が洞窟で一人なんて危ない遊びダメだよ」
「私、大学二年生で20歳。ここは私の夢の中だから自由」
「嘘はダメ」
お兄さんはどうやら頭が固いようだ。
ガンとして私の子供扱いを崩さない。
まあ、だから色々くれるかもだし、ラッキー? かな。
「じゃあ、16歳くらいでいいや。永遠のね。あっ、この夢を満喫するから魔法の杖を一番安いやつちょうだい?」
「16歳か。じゃあまあ洞窟探検もいいのかな? 魔法の杖500ウマーです」
お兄さんは笑顔でレジを打つ。
「恋人だし、出世払いで!」
私がとびっきりのスマイルをすると、
「俺と君が? 名前もお互い知らないのに?」
またまたお兄さんが目を丸くする。
「知ってるよ。カイエンでしょ? 私は勇子。本名なんだよ。勇者みたいでしょ」
私の言葉にお兄さんはガクッとうなだれた。
「そうだった。俺の名前くらい皆知ってるか」
私に色々と振り回されるお兄さんは面白かった。だけど、ちょっと可哀想になってくる。
「困らせてごめんね。服とポーチありがとう。素手で魔法唱えるからいいや」
お兄さんの頭を背伸びして撫で撫でしてあげる。
「素手の詠唱なんて上手くいくわけが………」
「スーパーファイヤーストーム!」
ちょうど良いところに現れた魔コウモリに火を放つ。
夢の中だから何でもできる。
私は良い気分でお兄さんを振り返った。
お兄さんは唖然としている。
「何でもできるわ。私の夢の中だもの」
両親死んで頼れる親戚もいなくて。でもお金だけはあって。
そう、お風呂場で消え去ろうと思っていたの。こんな良い夢見られるなんて。はしゃいでしまうのも許してほしい。
笑う私を見て、お兄さんは何故か痛みを堪えるような顔をした。
「ねえ、勇子ちゃん。恋人の俺の為にもダンジョンで死なないで」
「もちろんよ」
私を必要としてくれる人、夢の中に見つけた。
お兄さんが私を抱きしめる。
「店じまいするから、むしろ俺も連れてって」
「もちろんよ。商人と勇者のパーティーね」
私の雰囲気から、お兄さんは何かを感じとったんだろう。
悲しみと愛はとても相性がいい、現実世界の誰かがそう言っていたのを頭の隅で思い出していた。




