転生聖女の願望
ーーその日、待ち焦がれた。
けれど永遠に来て欲しくなかった旅立ちの日
聖女は勇者と旅に同行する仲間たちに、旅の無事の祈りと祝福を授けるその日
祝福の場でユーニスは初めて勇者を見た
いくら撫でつけても落ち着かないクセ毛に少し吊り気味の目。記憶にある姿よりも大人になっていたけれどそこに確かに面影があった
ーーああ、彼だ。
間違いなく私の知っている由鶴だ
ユーニスの知っている橘由鶴が今、目の前にいた。
由鶴を見たその時、思っていたよりも衝撃はなかった。心のどこかでそうなのではないかと、考えていたのだろう。
慣れている儀式なのに手が震える
けれど、私の身の内で震える感情はきっと全てこの分厚いヴェールに隠されている
声が震えないように努めて平静に唱える形式ばった祝詞をやめて、今すぐに私は幼馴染みの琴葉だと!叫んで
厳粛なこの儀式の空間を破り捨てたい、衝動に駆られた
ああ、この儀式が終わったら由鶴は困難な旅に行ってしまう。大怪我はしないだろうか、命を落とさないだろうか。
けれど私はあることに気づいて冷水を浴びせられたかのように急激に心が冷えていく、
彼の瞳がどこまでも冷めきっていて、まるで何もかもに何の期待も感情も抱いていないかのようなその目に恐怖した
何故?どうしてそんな目をしているの?
だって、由鶴はそんな冷たい目をする人じゃないのに!
手を伸ばせば届く距離なのにどうしても遠く感じて、私に何の興味もないと言われてるかのようで。
それが私の勝手な勘違いでなく、本当だったとしても……。
それでもどうか
「貴方の旅の無事をお祈りします。勇者由鶴と旅に同行する皆様に神の御加護がありますように」
勇者の名を正しく発音する些細な意を込めて、発する。ユーニスのほんの少しの希望
「……聖女ユーニス様のお言葉と祝福に感謝致します。私、由鶴=橘は魔王を再び封印することを神と我が名に誓います」
僅かな間の後に決められた通りの言葉を冷めた口調で言う由鶴を見て、そうして儀式の終わりを告げる言葉を口にする
「……では、勇者よ。旅立ちなさい、そなたが務めを無事終えることをお待ち申し上げております」
そうして勇者とその仲間たちは立ち上がりユーニスに背を向けて旅立っていった。