転生聖女の葛藤
初めまして、桜葉悠月です。
今まで読み専していましたが、この度書いてみることにしました。
小説を初めて書いたので至らぬところが多くあると思いますが、どうかよろしくお願い致します。
突然ではありますがひとつ自己紹介を
私の名はユーニス。ここアルマンテ皇国当代聖女にございます。
アルマンテ皇国に数十年に一度現れるとされる神の代弁者とも言うべき者。それが私です。
なーんて、わざとらしい挨拶なんてするもんじゃない。
私、ユーニスは聖女となるべくして生まれた、まぁ、言わば生まれながらの聖女、らしい
らしいってのは事故で死んだはずなのに気づいたら聖女になってて、神殿で聖女のための教育を受け、その傍らそんなうんちくをよく聞かされていたからだ
私が前世の記憶を思い出してからは、あー、そうなんだ。としか思わず、ただ流されるままに聖女となった。
そんな惰性のままに生きるユーニスだが、どうやらそうも行かない事態が起こったらしい
どうやら100年ほど前に勇者によって封印された魔王が復活したようだ
いや、そんなん知らねーよ!なんて思ってた時代が私にもあった。……ほんの少しだけ
それまで野生の動物と同じような分類だった、魔物が凶暴化。村や街に集団で襲いかかり田畑を踏み荒らし、家を破壊し、人々を食い荒らすようになった。
それに対抗しようと、私財を投げ打ち街を囲う壁を補強し、私兵や傭兵で街を警護した領主がいた。だが魔物達はそんな万全を期した街をも尽く蹂躙し尽くした。
その情報はあっという間に広がり、人々は魔物を恐れ村や町を放棄し王都は避難してきた者達で溢れかえった。領民を守るべき領主貴族たちも領地を捨て命からがら逃げてきた。
そんなことが起こると例えアルマンテ皇国一番の王都といえど、民の全てを王都に迎え入れることは大変困難となり、すぐに食糧、寝る場所さえも足りない状態となっていった。
王都はパニックとなり、王都の治安は一気に悪くなった。
そんな時、昔から寝物語として伝えられてきた古い伝承が人々の中で思い起こされた。
魔王が復活した時、災いがおこる。
魔王を再び封印せよ。
魔王を封印する力を持つ勇者を召喚せよ。と
この伝承が本物であると知っていた王は、この事態から脱却すべく、伝説の魔王を再び封印する勇者を召喚するべく、勇者召喚の儀を取り計らうよう神殿に勅命した。
そこからは聖女であるユーニスは忙しかった。それはもう忙しかった。ただえさえ、避難民への対処やら慰安があるというのに、その上、そんな誰もやったことないような儀式をやれ、と言われたのだ。確かに全く想定されていなかった訳では無いが、いつ起こるか分からないものを常に準備しているわけもなく。神殿に残る古い文献をひっくり返す勢いの大掛かりな準備で本当に大変だった……神官が。
とにかく、勇者召喚の陣を布き、勇者召喚の儀の形式を頭に叩き込み、ようやくそれが形になったのが勅命を受けて一ヶ月が経った頃だ。
ついに勇者を召喚する日が来た。
静謐な神殿の奥
この日、王や大臣、名だたる貴族、護衛のための騎士、魔導師、神殿関係者……そして私
この顔ぶれが揃う日などなかなかないだろうと、どうでもいい感想を抱く。……失敗が怖いから現実逃避したわけではない決して。
張り詰めた緊張の中、ユーニスは聖女の力を奮い召喚の儀式を執り行った。
神へと祈りと願いを届けるために舞を披露する。指先にまで力をしっかりと力を入れる。
激しい動きではないのに次々と汗が出てきては滴り落ちる。聖女の力を発動しながら祈りと願いを込めて神へと届ける
どうか、魔王を封印する勇者を…
ユーニスも決して他人事ではないのだ。失敗したら聖女の地位を剥奪されるかもしれない、もしくはそれ相応の罰が与えられるだろう。それも確かに恐ろしいが、ユーニスが生きているのこの世界が滅びるのを是としない。
――だからお願い!応えて!
召喚の陣が願いに応え、神々しく光り輝く。神が人類に応えてくれたのだ。周りがその光景に息を呑む気配がする。
そうして、眩いばかりに光る勇者召喚の陣の中央に人影が見えた。
そこでユーニスは力を使い果たしたのか
私の記憶はそこでプツリと途切れた
気づくといつも寝ているベットに横たわっていた。倒れたのだと気づいたのはベッドの上で目を覚ました時だった。
起き上がってすぐに、勇者召喚は成功したと、側に仕えている者達から聞いた。勇者の力を持つ異世界の少年を呼び出せたらしい。
異世界から来た割には言葉に不自由なく、勇者にしか持ちえないという伝承の力が少年にはあったらしい。まだ年若い子である故に少し不安を覚える者もいた。
それよりもユーニスは異世界という言葉にふと、遠い昔を思い出した。そうして勇者を思い出す、勇者はどんな世界から来たのだろう、と。そして同時に思う、勇者を無理矢理こちらに連れてきたのではないだろうか、と。
ユーニスはあちらの世界から無理矢理こちらの世界に呼び寄せた誘拐犯ではないだろうか、と。ユーニスがこちらに生まれる前にそんなネット小説があったことを思い出した。
生まれる前だとか、可笑しな話だと思うかもしれないが、ユーニスにとっては本当のことだ。ユーニスの元の名前は森下琴葉日本という国で学生をしていた。本が大好きで漫画や小説を読むのが趣味だった。ユーニスには所謂前世があったのだ。
ユーニスがこの世界に転生したのは死んだからだ。トラックに轢かれたとか、どこからか落っこちた。とかそういう死因は覚えていないけれど、不思議にも確かに死んだということはおぼえている。
厳しいけど優しかった両親も、喧嘩もするけど、よく遊びに連れていってくれた姉も、意地悪なのに肝心な時には優しくて……好きだった幼馴染みも、全て向こうに置いて、死んだのだ。
だから頭では理解できた。どうしてこんな記憶を残していたのかと、琴葉と全く似ていないユーニスの姿を鏡で見ながら問いかけて、そうしていつの日か諦めた
けれど、少年は違うだろう
彼にはつい昨日まで当たり前の生活があって、当たり前にその日々が続いていくと信じて疑わなかったことを。
……なんて、会ったこともない人間に自分の後悔を押し付けて、勝手に憐れむだなんて自分の性格の悪さに嫌悪した。
勇者と一度会って、こんな気持ちを払拭したいと思った。けど、勇者召喚の儀の片付けと後回しにしていた仕事でユーニスは神殿から仕事以外出ることは出来なかった。
それでも勇者の話は人伝に聞いていた
サラサラの黒髪でこれまた黒い瞳の勇者、ユーニスの元同郷と同じ色を持つ、この世界には珍しい色。
そうして、公式に発表された勇者の名前は
ユヅル=タチバナ
これを聞いた時の衝撃は言葉で表せられない程だ。正直言って今も尚、間違いであって欲しいと思っている。
だって、その名前は、かつて私の幼馴染みだった人と同じ名前だったから……
家が隣同士で小さいときは当たり前のように一緒に砂遊びや鬼ごっこをして、中学校に上がると少し疎遠になったけれど、母親同士が仲良かったから、それでよく話したりして、よく学校の成績の悪さをバカにされて、でも最後には助けてくれた。
いつのまにか好きになっていた私の幼馴染み
もしかしたら、もう一度会えるかもしれない。なんて淡い期待があった。
けれど、魔王を封印するなんて危険なことをやって欲しくないから間違いであって欲しいと心底思う。
きっと、同姓同名の誰かだと願って、期待して、どうにも上手く感情を制御出来なかった。
一度勇者に会いたい。会ってはっきりさせたい。そんな思いと
勇者に会いたくない。会って失望も恐怖も味わいたくない。会ったら二度と取り返しがつかない気がした。
そんなユーニスは今日も祈りの時間と公務の予定で一杯だ。勇者である少年も忙しいだろう。とてもじゃないが簡単に会えるものではない。
勇者に何の苦労もなく会えるのは、否必ず会わなければならないのは、旅立つ時の祈りと祝福の時だ。
勇者召喚の儀から感情が乱されすぎている。以前は人の上に立つ者として、ある程度のことには動じない胆力を身につけていたはずなのに。
せめて、勇者召喚の儀で倒れずに勇者を一目見ていれば今の状況は変わっていたのではないか、何故、あの時気を失ってしまったのかと、自分自身を責めたくなった
そこまで考えてふと我に返る
状況が違っていたら、どうだというのか。
もしもの過程なんて考えても仕方のないことだ、と。理性が囁く
それに過去のことなどとうの昔に割り切っているはずだ。ユーニスも誰も過去になんて戻れないのだから。
それで、わざわざ勇者に会いにいってどうするのか
どうせ旅立つ時にはろくに会話が出来ずとも会えるのだ
急く必要も何もないのだ
ユーニスはいろんな考えが浮かんでは沈み、沈んでは浮かびを繰り返す日々を送っていた
その中でもユーニスは日々の聖女の職務に追われ、時は過ぎていった。
毎日神に祈りを捧げ
人々の懺悔を聞き、祝福を与え
王の相談役となり
神の言葉を伝える
そうした忙しさの中でも勇者の噂を人伝で聞いていた。
曰く、剣の腕がよくなった
曰く、魔法もたくさん覚えた
曰く、勇者の旅についていくと自ら志願する者が増えた
勇者の話題はどれもいいものだった。
誰もが勇者の話題を持ち切りで誰もが勇者のことを知りたがる。
それは勇者は人類の救世主だから
それは当然のこと
誰もが勇者に期待し、誰もが勇者に望む。
魔王を封印することを
年端のいかない少年には酷であるはずなのに、誰もが望むのだ。それはもちろん勇者だから。
……ユヅル=タチバナでなく、違う名であったらユーニスも民と同じくそう思うことが出来たのに。
そうして、ユーニスの元に王の命が届く
曰く、勇者が旅立つ時が来た、と。
ユーニスが煮え切らないまま勇者が旅立つ時が来てしまったのだ