魔術師の婚約
「…おい、どうした?」
「い、いや変なガキが来たんだ」
ガキが来たとな?そいつは一体どこの命知らずだと思うと、年齢にそぐわない殺気を放っていた。
「おい、てめぇら後ろに下がってろ。死ぬぞ」
そう言うともうすでに死んでいた奴ら以外はバッタのように後ろへ走って行った。
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おお、よかった。上の立場のやつがやっと来てくれた。雑魚を殺すのはつまんなかったしね。
「お前、何が目的だ」
ふむふむ、威圧にも動じないと。
「…目的?黙れよ密猟者達が」
そう言うとピクリと反応した。どうやら知っているようだった。
「…何故それを知っている?」
「カマかけただけだったけど引っかかったな」
チッと男は舌打ちをすると、剣を構え襲ってきた。
だけどね、意味がないんだ。近距離の武器は。
「:ガーデン:完全防御:自動反撃:発動」
自分を中心に下に魔法陣が現れ、そこから薔薇の蔓が出てきて俺を護る。視界は塞がれていないのでそこから見る事が出来た。相手はしなり、追いかけてくる薔薇の蔓に苦戦をしていた。そして、とうとう捕まった。
「…はっ、くそったれ…」
それが最後の言葉だった。反撃を命じられている:ガーデン:は首に巻きつき、捻った。ゴキっと音がして、その男は絶命した。解除して、男達に言った。
「ここで死ぬか、警備隊に素直に投降し、この街から出られなくなる…どちらがいいですかねぇ?」
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男達にガーデンの《死の刻印》をつけた後、部屋に戻ると母様が居た。
「…どこに行ってたの?」
「ちょっと魔術を試していただけですよ」
あながち嘘も言っていない。
「そう、ならいいわ」
と言うと、近寄ってきて、
パァーーーーン!
とビンタされた。
「どれだけ心配したか分かってるの!!」
「………ごめんなさい」
心配する気持ちもわかる気がする。死にかけた息子がいなくなり、帰ってこないのだ。そりゃ心配するだろう、と。
「…もう、心配かけないでね。あなたが好きだから言ってるの、分かってる?」
「はい、本当にごめ…」
そこまで言うと何故かぽろぽろと涙が出てきた。前世では、自分の親はいなかった。ここまで愛情を受けていなかった。今は愛されている、その事実を理解した途端、何故か、涙が出てきた。
「うわぁぁぁぁぁん!」
久しぶりに泣いて、涙で前が見えなくても母様の体温だけは感じていた。
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チュンチュンと鳥の鳴き声がして起きた。
「ふぁ…ふぅ、大泣きしたなぁ昨日は」
なぜだろう、スッキリした感じだった。
「よし、下に行こう」
着替えて下に降りると、父様が走ってきた。おい、貴族のルールはどうした。
「アルヴッ!久しぶりだなぁ!」
久々に会い、興奮しているようだ。でも、怒っている気配はない。言ってないのかな?
「はい、久しぶりです。父様」
「相変わらず可愛いなぁ」
そうして父様と話していると小さい女の子がテテテ、と走ってきた。その顔は覚えていた。助けた子だ。
「あ、あの」
自制心をゴリゴリ削っていくその可愛いい声に、
「どうしたの、」
名前を呼ぼうとしたけどそういや聞いてない。聞こう。
「ねえ、名前教えて欲しいな」
「え、えと『ティルナム=フォルスティーナ』です」
んんー?その名前どっかで見たような。ま、いいか。
「じゃあ、ティナ。僕と一緒に母様のところに行こう」
「え、え、え、」
動揺している彼女を連れて行き、母様の部屋に行く。
「母様、伝えたい事があります」
「ええ、なんでしょう」
母様は微笑して言った。
「僕はティナと婚約します」
「いいでしょう」
あ、あれれ?反対されるかと思ったんだけどなぁ?ボッと顔に火がついたティナ可愛いです。
「実は【白狼族】族長のカイラード様が来ています」
ま、まさか、
「娘を助けてくれてありがとう」
やっぱりかぁぁぁぁぁぁ!
「え、父様!」
「ティナ、お前が無事でよかった」
あー、そういや新聞で見たな。魔物のスタンピードが発生して獣人達が被害を受けた。その最も被害を受けた白狼族の族長の名前と家族の名前が書かれてたなぁ。
「そのお礼と言うとあれだが、娘をもらってくれ…と言う前に」
「え」
「私と闘ぇ!」
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…とまあ、そんなわけで闘う事になった。
「娘を貧弱で気弱な者に任せるわけにはいかんからな」
「あっはい、ところでそんな簡単にいいんですか?」
「白狼族の掟だ」
へー、なんだその掟。
用意が済み両者構える。
「始め!」
俺は間違っても殺さないように魔術ではなく魔法を使う事にした。
「"ファイア"コールド"ウインド"、《インフェルノ》」
インフェルノとは言っても初級のものなので死ぬ事はない。せいぜい火傷と凍傷を負う程度だ……と思っていました。魔法を切ると無傷の人がそこに。
「どうした、弱いな。児戯ではないぞ!」
ビリビリと伝わってくる闘気に意識を変えた。つまり、本気で戦おう、と。
「…………お願いですが」
「なんだ」
「死なないでください」
そう言った後、
「:ガーデン:発動」
今までは自動でやってきたが、今回は自分で操る。速さも増し、自分の手や足のように動かせる。
「ほう…それは独自のものか?」
「イエス」
ビゥン!ヒィン!という残像が見える攻撃を剣を使い受け流し、避けていく。
「なかなかにっ、重い攻撃だっ!」
そんな中を突っ切り、接近してきた。しかし、
「防御、反撃のプロセス。峰打を実行」
剣を振るが俺には当たらない。そして別の蔓が迫り、攻撃が決まった。ちょうど鳩尾辺りだった。
「……:ガーデン:解除」
「カフッ…見事だ……娘を渡そう」
「…どういう掟なんですか?」
「挑み、負けたら渡さん。それだけだ」
それだけ言うと、満足したように気絶した。辛いだろうな鳩尾への一撃。
「アルヴ…あなたはいつからそんな魔法を使えるようになったの?」
母様から疑問がくるが、
「秘密です。いつか…教えますよ」
そう言って、ティナの手を掴んだ。
「よろしくね、ティナ」
「…………」
ティナは顔を真っ赤にして俯いていた…。