プロローグ 宣託
大理石の柱が左右に並ぶ、小さな造りの神殿の真ん中に俺は佇んでいる。奥に設置された祭壇で香でも焚いているのか、まるで花を踏み潰したような、甘い、それでいて妖しい匂いが神殿内を支配していた。
俺の目の前には、頭の毛が完全に死滅している小柄な爺さんが、難しい顔をして水晶玉と睨めっこをしている。爺さんがこの状態になってから、おそらく二百秒以上は経過しているだろう。その間、俺は動くこともままならず、綺麗な爺さんの頭をひたすら眺めることしかできなかった。
くそ。もっとパパッと終わるかと思っていたのに。何もせずにじっとしているだけというのは、思いのほかつらい。
早く終わってくれ……。
俺が心の中で強く願ったまさにその時、ようやく爺さんは水晶玉から視線を外した。そして双眸を細めながら俺を見つめ、厳かに告げた。
「そなたの職業は、『神獣使い』じゃ」
「…………はい?」
爺さんの口から出てきた単語を受け、俺の頭の中で何かが割れた。それは、夢と希望が詰め込まれた風船だったのかもしれない。
「ん? 聞いていなかったのか? 宣託を聞き逃すとは難儀な坊主じゃの」
金の刺繍が施された白いローブを着たその爺さんは、ここ『宣託の神殿』の神官だ。爺さんは小さく溜め息を吐き、持っていた水晶玉を再び上へと掲げた。
しんと静まり返った狭い神殿内に、衣擦れの音が響く。爺さんは軽く息を吸うと、俺の目を見据えながら、再度口を開いた。
「そなたの職業は、『神獣使い』じゃ」
先ほどよりも含みをもたせつつ、爺さんは全く同じセリフを繰り返した。どうやら、聞き違いではなかったらしい。掲げていた水晶玉を静かに下げる爺さんを、俺はぽかんと口を開けて、ただ眺めることしかできなかった。
神獣使い……神獣使い……神獣使い……。
頭の中で何度かその単語がリフレインしたところで、ようやく俺は我に返った。
「神獣使いだって!? な、何かの間違いじゃないのか? 何で!? どうして!?」
気付いたら俺は爺さんに掴みかかり、ゆさゆさと激しく揺らしていた。
「や、やめい、やめんか! わしも嘘だと言いたいところじゃが、ハッキリとそう出ておるんじゃ!」
そう言って爺さんは水晶玉を俺に見せてくるが、小さな光がふよふよしているだけで俺にはサッパリわからない。くそっ。来てくれ! 解読班ー!
「いやいやいやいや。だって神獣使いって、清き乙女しか選ばれたことがないんだろ!? 俺男だし! 乙女じゃないし!」
「そうは言っても、こんな宣託はわしも初めてじゃし! というより、いい加減揺らすのをやめい! 年寄りを苛めるな!」
「じゃあもう一回やってくれよ!? 爺さんのミスだろ絶対!」
「ふぅむ……。仕方がないのう」
俺から解放された爺さんは、渋々と再度水晶玉を上に掲げた。ほどなくして水晶玉が淡白く発光を始める。
結果――。
二回目の『宣託』も同じだった。