秘密基地(?)と警察(憧れ)と・・・
上村に連れられてやってきたのはとある三階建ての塾。の、エレベーター。
そりゃ中学生だから通っててもおかしくないケド、何でこんなところに? と首を傾げていると。上村は僕を見てフッと笑った。
「ここじゃなくても出入口は他にもあるよ。おいおい教えてあげる。今はこれを覚えてね」
出入口? と再び首を傾げる。
上村の指がボタンを押した。が、一つだけじゃなくていくつかのボタンを押して、最後に『開』と『閉』のボタンを同時に押した。するとエレベーターの扉が閉まり、階数表示は上に上がっていくのに、エレベーター自体は下へと降りていくのが感じられた。
何事!? と目を見張っていると、上村にクスクスと笑われた。いや、驚くのは当然の反応だろ。
やがてエレベーターがゆっくりと止まった。
扉が開いた先は、塾はどこ行った? ってな光景。長くて広い廊下が続いているのだが、研究者か? ってな白衣を着た男性や女性がいっぱいいるし、中には警官みたいな制服を着た人達もいる。
制服、カッコいいなぁ。男なら誰だって憧れた事あるんじゃないか? 将来警官になりたいって。
かく言う僕も子供の頃(もっと小さい時な)警官になりたいってずっと思ってたもんだ。
ん? 今? そりゃー、あれだ、うん。子供の頃の思い出は大事にしないとな~。・・・ハイ、今でも憧れてマスが何か?
廊下を行きかう人々をチラチラと見ながら、奥へ進んでいく。左右にドアがたくさん並んでいるが、上村は全部無視して奥へ。
つきあたりを右へ曲がったところで、一際大きなドアがどーん、と目立っていた。
なんじゃこりゃ・・・。まるでテレビで放送されてる戦隊モノの秘密基地みたいな・・・。
分かるかな? 真ん中から左右に開く大きな自動ドアね。これまたカラフルな色彩で、お約束(なのか?)な赤、青、黄、ピンク、緑・・・あれ? 黒ないのか?
上村が「失礼します」と言いながら入っていく。僕も少し怯みながらも「失礼します・・・」と言って中に入った。
中は普通だな・・・。入ってすぐの感想だ。
どこにでもある会社の事務室みたいな感じ、と言えば分かるかな。机がたくさんあって、書類やらファイルやら何やらが色々と散乱しているあれだ。
上村は僕を、部屋の奥で指示を出している男のもとへ連れていった。他の机や椅子より大きくて立派な物に腰掛けている姿は、社長みたいだな、と思った。
「こんにちは、進堂歩夢君」
男が立ち上がって手を差し出してきた。それがあまりにも自然だったから、僕は訝る暇もなくその手を握って握手していた。小さい僕の手(不本意だ~!)より一回りは大きい手は、温かくてちょっと安心できた。
「あの、あなたは・・・?」
ここは何なのか、とか何故ここに連れてきたのか、とか質問したい事は色々あるが、混乱したままでは話も出来ない。ってなワケで、冷静になるためにも目の前の人物を知ろう。
「私は村田源蔵。ここの責任者だな」
そう言ってニッコリ笑う顔は女ならコロリと一発で落ちそうな美形である。名前はもろ日本人だけど、外国の血が混じっているのか鼻が高い。目の色が明るい茶色だった。
「いきなりこんな所へ連れて来られて混乱しているだろう? まずは落ち着くためにお茶を用意しよう。そこにかけてくれ」
村田氏が指し示したのは部屋の隅に設置されている、テーブルを挟んだ向かい合わせのソファだ。とても座り心地が良く、思わず安堵の溜息を吐いたくらいだ。僕の部屋に欲しいな、コレ。
上村がお茶を置いてくれた。僕の好きな玄米茶だ。・・・フツー、玉露とか出すもんじゃないの? まあ、僕は気にしないケド。
「君が好きなお茶だと聞いて用意したんだ。高級な物でなくて悪いね」
「え・・・」
顔に出した覚えはないんだケド・・・。ってか何で僕の好みを知ってるんだ? まさかエスパー?
「ああ、悪い。君の事を少し調べさせてもらったんだ。だけど悪いようにはしないから安心していい。ちなみに私はエスパーじゃないよ」
・・・あれか、読みが早いのか。頭が良いんだな。さすが秘密組織(?)の責任者。
僕は一応お礼を言ってお茶に手を伸ばす。
ズズ・・・と一口飲むと、香ばしい味が口の中に広がる。うん、美味い。
「さて。落ち着いたところでこの組織について説明しようか。名称は特別警察外部組織といって、まあ君が知る警察とほぼ同じ、だな。そうだな・・・国家公認の探偵ってところかな。捜査が主で、基本的には警察と連携している。一応警察官も所属しているから、どうしても信じられないって言うなら警察手帳でも見せてもらえば納得するんじゃないか?」
って事は、さっき廊下で歩いていた制服の人達は本当に警官だったんだな。
うわ~、ちょっとテンション上がるかも。
「ただ表向きは秘密でな。あまり周囲に教えないように頼むよ」
秘密? 何で秘密にするんだ? ってかそれなら何で僕はここに連れて来られたんだ?
首を傾げると、村田氏はフッと笑って続けた。
「何故秘密か、っていうのは、君にも少し関係してくるんだが・・・」
へ? 何故に? 組織自体知ったのは今さっきだというのに。
「超能力という言葉は知っているね?」
当たり前だ。むしろ知らない奴いないんじゃねぇか?
「君は超能力を使える、つまり超能力者なんだ」
・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・はい?
なんか目の前のオッサン(いや若そうだケド)の口から衝撃的発言が。
僕がポカーンと間抜け面を晒していると、村田氏は苦笑を浮かべた。
「いきなりこんな事を言われても戸惑うだろう。上村君、実演頼むよ」
「はい」
なんか矛先が隣に座っていた上村(いつの間に・・・)に向いたのでそちらを見る。すると彼は携帯電話を取り出した。
誰かに連絡でもするのか? と思った次の瞬間。何とそのケータイが宙に浮き上がりましたよ!
つい瞠目したね、うん。
試しに掌をケータイの周りにかざしてみたが、糸でつっているワケではないらしい。
首を傾げていると、上村はケータイを動かして天井近くまで浮き上がらせた後、手元に戻してハイ、とばかりに僕に渡した。
「何の変哲もないケータイだよ。勿論種も仕掛けもない」
確かに矯めつ眇めつ見てもケータイは普通のケータイだった。
教えてくれ、とばかりに無言で返すと、これまた女が一瞬で撃沈しそうな微笑みを浮かべて説明してくれた。
「俺の能力は念力。手を触れずに物を動かす事が出来る。精神遠隔感応・・・テレパシーと言った方が分かりやすいかな? その力も少しだけ持ってるんだ。だから超能力を使った者がいればすぐに感じ取る事が出来るんだよ。人の心を読む事は出来ないけどね」
・・・つまり、僕から力を感じ取ったから声をかけたと。
「彼の他にもう一人超能力者がいるが、今は用事でいないんだ。まあ何が言いたいかというと、この組織は超能力者の協力のもと、捜査を行っている。さすがにそれを公表するわけにもいかないからね」
村田氏はズズ・・・とお茶をすすりながら言う。
その動作も様になっているというか・・・。さすが男前だなぁ。
ん? 僕? 僕はホラ、見た目が美少年・・・ハイ、スイマセン、美少女ですね、に見えるらしいから・・・様になってると良いなぁ。ああ、目から汗が・・・。
「話は変わるけど、殺人事件だけで年間何件起きているか知っているかい?」
・・・唐突だな。ってかそんなん知るワケねーっつの。
「認知件数で約千件くらいだね」
答えてくれたのは上村。っつか多いんだよな? その数。他の犯罪も合わせたら凄い数になるもんな。
「じゃあ、その二%が超能力者の仕業だとしたらどうする?」
「え・・・」
僕は再び間抜け面に。村田氏は先程までの笑みを消して真剣な表情で続けた。
「数で言えば少ないように感じるかもしれない。でも超能力者自体、そう何人もいるワケじゃないんだ。それを考えると、多いと思わないか?」
・・・確かに。どんな能力があるかは知らないケド、殺人なんて能力を使えば簡単なものかもしれない。
「勿論殺人だけじゃない。強盗、傷害、詐欺・・・例を挙げればきりがない。超能力者というのはそれだけ恐ろしい存在なんだ」
「・・・・・・」
恐ろしい存在、確かにそうかもしれない。普通の人間なら怖くて怖くて、関わり合いになりたくないと思うだろう。
僕に超能力者だという自覚なんてない。それでも、とても身につまされる話だと思う。
と、僕が暗い顔になっていると。村田氏はパッと笑みを浮かべて
「だから私達で恐ろしくない存在にしてやろうじゃないか」
「・・・は?」
この人本当に唐突だな・・・。
多分に呆れ交じりの視線を向けても仕方ないよな?
「ここではまず能力が暴走しないようにコントロールする術を身につけてもらうんだ。そして・・・陳腐な言い方だが、『正義の味方』だと周囲にアピールする。そうやって少しずつこの組織を表に出していきたいと思っているんだ。これからも出てくるであろう超能力達の為に」
「・・・・・・」
何と申しましょうか・・・。
いや、素直に凄いと思ってるよ? この人自身は超能力は持っていないのにも拘らず、ここまで超能力者の事を考えてるし。顔もすっごい真剣だし、本心だという事も分かる。
ただね・・・目がすっごいキラッキラしてんですよ・・・。ここまで聞いて、断るわけないよね? って言われてるような気になるぐらい。
そりゃ僕だって正義の味方(ハズい・・・)の方が良いよ、恐れられる存在よりは。でもさ・・・僕が超能力者だって証明されたワケじゃないんだよ。フツーそれが最初でねーか? 持ってるとして、どんな能力なのかもさっぱりだしな。だからまだ返答に困る段階っつー事で。
今述べた最後の方だけを伝えると、村田氏は納得したように頷いた。
「それもそうだ。では上村君、彼をあの部屋へ。まずどんな力なのかを知らないとね」
あの部屋? よー分からんが、悪い事はないだろうと上村の後をついていく。
そしてあの秘密基地の扉から出ようとしたら、村田氏に名を呼ばれた。
ん? と振り返ると彼はとてつもなく良い笑顔で
「ちなみにここに所属すると警視の階級とほぼ同じ権限が与えられるし、給料も出る。そして身分証明として警察手帳も―――」
「協力します!」
あ。
僕の顔が赤くなったのが分かる。
村田氏はクックックと笑ってやがります。傍らの上村も肩を震わせて笑ってやがります。
だって警察手帳だよ!? 誰もが憧れたハズのあの!!(え? 憧れなかった人もいる? それはまあ・・・アレだよ、うん。スルーでお願いします)
ドラマで黒い手帳が出てくるたびにドキドキしたもんだよ(子供かって? そーだよ、僕はまだ子供だよ、悪かったな!)。
勿論それだけじゃない。さらに重要なのは『給料』なんだよ!! 世の中金だろ!? 金!!(そこ! 本当に子供かよ、とか言わない!)
だってウチの両親、デレデレのあまあまのクセにお小遣いに関しては厳しいんだよ・・・。まだ大金を持たせるには早い! って月に千円だぜ、千円! ありえねーよ! マンガ買うだけで終わりだぜ!? まあ昼食代は別だけどな。
他にも服やゲームなんか欲しい物はいっぱいある。どうしても欲しい物だけ、お小遣いを少しずつ貯めて買うようにしてるケド・・・正直不満タラタラです。それでも文句を言わない、出来た子ですヨ。
とにかく、早々と特別警察外部組織に所属が決まった僕でした~。