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撃退と影と・・・

う~ん・・・暴力、に入るのかな・・・?

 そんなこんなで昼休み。


 噂が広まり、変な目で見られ続けた変人が屋上の隅で落ち込んでいるがスルーして、僕は購買で買ったパンと牛乳を摂っていた。いつもなら食堂に向かうのだが、さすがにこれ以上ジロジロ見られ続けるのは可哀想だ、と思って屋上にやってきたのだ。優しいだろ? 僕って。


「おーい。早くご飯食べないと昼休み終わっちゃうぞ~」


 今朝の僕のようにどんよりしている変人に声をかける。僕? 普段の僕の気持ちが多少なりとも理解できたであろう変人を見ていたらまた少しストレスが緩和されてね。それはもう良い笑顔を浮かべているさ、うん。変人にジロリと睨まれてしまったケドも。


「わざと抱き付いてきやがってぇ。変な噂がたっちまったじゃねーか・・・」

「今更。変人が僕の母さんを追っかけてるのは周知の事実だからね。でも母さんは父さん一筋、だったらそっくりの息子の方を、なんて噂は女の子の間で流行ってるんだよ?」

「マジかっ!?」

「大マジ。今回の事で信憑性が増しただろうね」

「ぐあ~・・・なんてこったい・・・。ってか何でお前がその噂とやらを知ってるんだ? 女の子の間だけなんだろ?」

「・・・お前がそれを訊くか? 学校一の美女なんて言い出した奴が」

「あ~、何となく言っただけだったんだが、一気に広まったなぁ。それはつまり周りの奴らもそう思ってたワケだ。おかげで女の子と仲良くなったんだから良い事じゃないか」

「おかげで友達どまりだけどネ? それ以上には発展しそうにないんですケド?」

「恋人が出来ないのを他人のせいにしちゃいかんよ。これでも歩夢の事を思ってだなぁ・・・」

「だったら変人に恋人が出来ないのも他人のせいにしちゃ駄目だね」

「ぐはっ・・・」


 変人は母さんの追っかけ、つまりこの顔が好みと言うワケだ。そして僕の近くにいる事で女の子達の趣味的欲求を満たしているワケで。つまり変人にも女の子が寄ってこないという、あら不思議。


 ケケケ、中学校の入学式で『学校一の美女』なんてレッテルを貼りやがった罰だ。


 なんて嘲笑っていると、階段の方から物音がした。視線を向けると、昨日の兄友が。


 すっごい息切らして、顔が真っ赤。いかにも全力で走ってきました! 的な感じです、ハイ。


「え~と・・・昨日はどーも・・・」


 何とも言いようがなく、僕はニヘラ、と笑った。すると兄友は凄い勢いで僕の前まで来て、肩をがっしりと掴んで・・・ってか怖っ! ブルドーザー並みにこえーよ! 何気に肩掴んだ手がでか過ぎるんだよ!


「あの話は本当か!?」


 僕の力じゃこの手を剥がすのは無理かなぁ、なんて考えてたら、大声で叫ばれた。耳がいてぇ。


「あの話って・・・?」

「君があそこの男と付き合ってるという話だ!!」


 兄友が指差したのは変人。変人は思わずといった感で自分の顔を指差している。ってかもうそこまで広まってるんだな・・・。


「昨日君は男とは付き合わないと言ったじゃないか!! そんな嘘を吐かれるくらいなら、本当の事を言ってほしかった!!」


 いや男と付き合わないのはホントだよ、変人なんかと恋人にされた事の方がショックだよ。


 あまりにも疲れ過ぎて声に出す事すらできない。それを嘘を吐いた気まずさからだと思ったらしい兄友は、僕を引き寄せて無理矢理キスしようと・・・ちょっと待てえぇぇぇ!!


 反射的に腕を突き出したが、相手は柔道部員、力で敵うわけがない。


 はっ、そういえば鞄に警棒が! 剣の練習をした僕ならこんな奴・・・! って鞄は教室でしたぁぁぁ!!


 来るな来るな! いくらちょっとハンサムでも男になんてえぇぇぇぇ!!


「ギャー!!」


 人間的にもどうか、と思わないでもない悲鳴を上げ、顔を思いっきり逸らす。すると兄友がピタリと動きを止めた。


 怖がっているのに気付いて止めてくれたのか・・・? と恐る恐る目を向けると。


「変人?」


 兄友の腕を掴んで止めている変人の姿が。と言っても変人だって力が強いワケではない。なので兄友がちょいと押しただけでワーッとばかりに飛ばされてしまった。尻餅つくだけでなく、頭を床に打って気絶までした。


「篤郎!!」


 さすがに頭が真っ白になって、思わず変人の名前を呼んでしまったぜ。まあ本人は聞こえてないだろうケド。


 兄友も一瞬戸惑ったように目を泳がせるが、すぐに僕に向き直って・・・。


「あんた何してくれてんだよ!!」


 僕の頭突きが相手の顎辺りにクリーンヒットした。まさかそう来るとは思っていなかったらしく、兄友は一歩後退った。


「年上でもあんたみたいな奴は敬えねーよ!!」


 こんな奴に敬語は必要ない。こんな奴、僕に力があればぶっ飛ばしてやるのに!


 昨日夢の中で練習しまくった背負い投げが思い出された。あれならいけるか?


 顎を押さえてまだ立ち直っていない兄友の胸倉を掴んで引き寄せる。相手の方が身体がでかいのでもう少し腕力が欲しい、と思って息を吐くように気合の声を上げると。


 ブンッ ドーンッ!!


 ・・・できました、背負い投げ。そりゃ見事な技でした。でも・・・何であんなに飛んでんの? 普通は足下に落ちるもんじゃないの?


 信じられない事に、兄友は僕から五mほど離れたところでひっくり返っていた。どうやらこっちも気絶したようだ。


 僕、そんなに腕力ないよ? ってか腕力の問題か、これ?


 呆然としていると、変人が頭をさすりながら起き上ってきた。たんこぶでも出来たか。


「これ、お前がやったのか?」


 変人も呆然と倒れたままの兄友を見る。


「・・・一応」


 肯定はしたものの、一部始終を見ていなければ信じられないと思う。が、さすがは変人と言うか、すぐに信じてくれた。オイオイ。


「さっさとズラかろうぜ。目を覚ますと厄介だ」


 どこの盗人のセリフだよ。


 僕はそんな事を考えたが、反論する気はない。僕と変人は慌てて屋上を逃げ出した。


 ホント今日は厄日だ・・・。



 その姿を見送る影が一つ。だが僕達は全くそれに気付かなかった。

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