表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

過去編 ~小林命音~

命音編です。

なぜか最初に考えていた話とまるっきり違う話に・・・。暗い話になるはずだったのに・・・orz

ま、いーや(おい)

 アタシが超能力に目覚めたのは六歳の時。目の前で花瓶がカタカタと震えた後、パリーン、とどこか心地いい音がなって砕けたのが最初だ。モチロン当時のアタシに超能力なんて知識はなく、何故花瓶が壊れたの? などと首を傾げる始末。


「ヤダ、ちょっと何で? いきなり花瓶が砕けたわよ!?」


 隣でアタシにオカリナを教えてくれていたお姉ちゃんが叫んだ。


「命音、怪我ない?」


 そうしてアタシを心配してくれるお姉ちゃん。でも本当のお姉ちゃんじゃない。

 アタシが子供時代に過ごしたここは親がいない子供を引き取る施設。アタシはまだ赤ちゃんの時に公園の植え込みに捨てられているところを発見され、ここに引き取られたのだ。そしてこのお姉ちゃんは幼い頃に両親を事故で亡くし、親戚もおらずここへ来た。アタシより八つも年上のお姉ちゃんはアタシを可愛がってくれて、得意なオカリナを良く聞かせてくれた。今は吹き方を教わっていたところで、初めて吹くオカリナに興奮して勢いよく吹いてしまったところだった。


「大丈夫だよ。お姉ちゃんは?」

「私も大丈夫。でも何で花瓶が壊れたんだろ?」

「分かんない・・・」


 二人して首を傾げていると、音を聞きつけてお母さんがやってきた。


「何? 今の音?」


 そう言いながら部屋を見回し、砕けている花瓶を見て目を見開いた。


「どうしたの!? 何があったの!?」


 焦った声を出しながらアタシ達の身体に怪我がないか確認するお母さん。モチロンこの人も本当のお母さんではない。この施設の職員、先生だ。ここでは女の職員の事をお母さん、男の職員の事をお父さんと呼んでいる。何故そう呼ばせているのかは院長の方針らしい。何でもみんな家族だから、とか。


「怪我はないみたいね。先に片付けるから、後で話を聞かせてちょうだいね?」


 安堵の息を吐き、そう言ってパパッと片付けてしまう。やんちゃな子供が多いからこういう事には慣れっこなのだ。

 その後お母さんに色々と訊かれたけど、何も分からないアタシ達に答えられるはずもなかった。



 それから一年が経った。モチロンその間も花瓶だけでなく、コップだったりお皿だったり、一度は小さな置時計まで壊れた。しかもその傍にはいつもアタシがいた。そうなればさすがにアタシは疑われるわけで。


「命音、アンタ何かしたの?」


 お姉ちゃんがジッとアタシの目を見ながら訊いてくる。真剣な顔をしているけど、その目には恐怖の色が見えた。


「分かんないよ・・・」


 それがとても悲しくて、アタシは泣きそうになるのを堪えながら首を横に振った。だって、認めたくなかったから。

 確かにいつもアタシの感情が昂った時に起こった。最近はアタシが原因なんじゃ、って思ってた。でもいつも頭を撫でてくれていたお父さん達が近寄らなくなって。優しい笑顔を向けてくれていたお母さん達が強張った表情をするようになって。更には可愛がってくれたお姉ちゃんにこんな目で見られて。どうしても認めたくなかったんだ。

 結局アタシは独りぼっちになった。施設の兄弟姉妹達もアタシに近寄らなくなったから。

でもアタシはずっとバカみたいに笑ってた。泣くのを堪えて、明るく楽しそうに、声を上げて。

 だって、そうするしかできなかったんだ。もっと小さい頃にお姉ちゃんに教えてもらった、悲しみを笑いで吹き飛ばす方法しか、知らなかったから。アタシはバカだから、他にどうすればいいか思い付かない。

 そしてまた一年が経った。相変わらず独りぼっちだったけど、周りはアタシに暴力や暴言なんて事はしなかったし、他所にやるなんて事もなかったからその点は安心してた。

 アタシが一番傷ついていたのは、自分が周りを怖がらせているって事。だってアタシがいるからお姉ちゃんもお母さんもお父さんも、心から笑えない。アタシはみんなが大好きだったから、みんなに笑ってほしかった。



 そんなある日、背の高い外国人が施設にやってきた。外国人は名前を村田源蔵と名乗った。とても違和感バリバリな名前だとは思ったけど、口には出さずにジッと見上げていた。何とアタシを引き取りたい、と言いだしたからだ。

 正直、ここから出たいと思っていたからちょうど良かった。アタシが出て行けばみんなはまた笑ってくれるって思ったから。

 そうして話はトントン拍子に進み、アタシが施設を出る日。迎えに来てくれた村田に手を引かれ、アタシは外に出た。施設のみんなの顔はきっと忘れない。だって、遠巻きではあるけどワザワザ見送りに来てくれたし、恐怖と悲しみと申し訳なさが混ざったような変な表情をしていたから。

 その時、アタシは本当の独りぼっちじゃないって気付いた。その中にお姉ちゃんの姿がなかったのが悲しかったけど。


「大丈夫かい?」

「ダイジョーブ」


 いつも明るくバカみたいに笑っていた表情が一瞬だけ歪んだのに気付いたらしく、村田が声をかけてきた。でもアタシはすぐに笑顔に戻して、逆にアタシから手を引いて歩き出した。

本当に大丈夫。だってみんなはアタシを嫌っているワケじゃないから。みんなの顔を見たらそれが良く分かった。だから大丈夫。

 多分村田から見たらアタシの顔は必死だったんだと思う。必死に大丈夫だと言い聞かせ、思い込もうとしてたから。

 村田はもう何も言わずに一緒に歩く。もう少し先に行ったら車が停めてあるらしい。

 アタシは着替えやら私物などが入ったリュックを背負い直し、足を速めようとした。その時。


 カツーン


 澄んだ音が足下から響いた。そちらに視線を向けると、見覚えのあるオカリナ。少し開いていたらしく、リュックから落ちたようだ。でもアタシはオカリナを入れた覚えはなかった。だってこれは・・・。


「お姉ちゃんの・・・」


 拾い上げると少しだけついた砂を払い、ジッと見る。やっぱりこれはお姉ちゃんがよく吹いていたオカリナだ。


「何でリュックに・・・」


 そしてヒョイと裏返した時、そこには小さな字で


『ごめんね』


 と書かれていた。


「・・・お姉ちゃん」


 とうとう我慢できなくなって、アタシは涙を零した。村田が頭を撫でるから、余計に涙が出てきて、声まで上げて泣いてしまった。子供を泣かせた大人、と周りから変な目で見られているのにもかかわらず、村田はアタシに好きなようにさせてくれた。

 一頻り泣いた後、アタシは泣き疲れて眠ってしまった。次に気がついた時はふかふかのベッドの上。お日さまの匂いがしてとても気持ち良かった。それを堪能していると、部屋に村田ともう一人、アタシと同じぐらいの歳の男の子が入ってきた。


「おはよう。すっきりしたようだね」


 そう言って村田がまた頭を撫でてくる。それも気持ち良くて、思わずふにゃあ、と猫みたいな声を出してしまった。


「・・・猫?」


 そう呟いたのは一緒に入ってきた男の子。綺麗な顔をしているな~、と思ってジッと見ていたら、向こうもジッとこっちを見てきた。


「アタシ命音。アンタは?」

「・・・上村稔です」


 無愛想、というより感情が薄いっていうのかな? そんな感じでアタシを見る稔。


「ここどこ?」

「・・・村田さんの家です」

「ふ~ん。稔は村田の子供?」

「・・・違います」

「え、じゃあ弟とか?」

「・・・それも違います。家族です」

「んん? 家族? アタシとお姉ちゃん達みたいな?」

「・・・多分、それと同じだと思います」

「そっか」


 ニヘラ、と笑うと稔は不思議なモノを見るような目で見てきた。


「何故バカみたいに笑えるんですか?」


 言い方はアレだけど稔がアタシをバカにしているワケではない事は見ていて分かった。ただ純粋に疑問に思った事を訊いただけみたい。


「昔お姉ちゃんに教えてもらったんだ。明るく楽しく笑っていれば悲しみなんて吹っ飛ぶって」

「・・・・・・」


 アレ? なんか難しい顔してる?

 そこでずっとアタシ達の会話を微笑ましげに眺めていた村田が身を乗り出してきた。


「うんうん。やはり人生は明るく楽しく! 幸せになるための条件だな!」

「おお~。村田、良い事言う!」

「そうだろう? かく言う私の幸せは娘の梨花だな。もう可愛くて可愛くて見ているだけで幸せになれるんだ!」


 ん? 娘がいたんだ。ちょっと見てみたいな~。

 村田の娘自慢を聞きながらどんな子かなと想像していると。


「・・・何故あなたは呼び捨てにするんですか?」


 村田を無視して稔が横から訊いてきた。なんか稔は質問ばっかだね。まあバカ丸出しのアタシでも答えられる質問ならバッチコイ! だけど。


「ん~? クセかな? 孤児院ではお姉ちゃん以外の兄弟姉妹はみんな呼び捨てだったからサ。おかあ・・・先生達も最初は呼び捨てにしてたけど、殴られちゃったし」

「・・・叱られたの間違いでは?」

「ううん。拳骨で殴られた。愛の鉄拳ってやつ?」

「・・・・・・」

「それにその方が仲良しに感じられるジャン?」


 あはは~、と笑っていると、稔に深く溜息を吐かれた。何故。


「だったらあだ名の方がいいのでは?」

「あだ名?」

「呼び捨てよりは良いと思いますよ。失礼な時もありますからね」

「ふ~ん。じゃあ・・・ミノルン!」

「・・・は?」

「だからミノルン。稔のあだ名」

「・・・・・・」


 眉根を寄せて嫌そうに見てくる稔、もといミノルン。でも言い出したのはミノルンだから言い返せないみたい。


「村田は~、ムラタン・・・ゲンゾーのが良いかな?」

「できればムラタンで」


 本人からの希望によりムラタン決定。ってか今まで娘自慢してたよネ?


「じゃあ梨花に会いに行こうか。と、その前に」


 村田改めムラタンはそれまで鼻を伸ばしてたけど急に真剣な顔になった。カッコいいじゃん。


「君は超能力を持っているね」

「・・・ちょうのうりょく?」


 何それ。


「簡単に言えば、人が出来ない事を出来る力だな」

「・・・アバウトすぎるかと」


 横からミノルンが何か言ったけど、そっちが分からなかった。


「あば・・・何?」

「・・・何でもありません」


 また深い溜息を吐かれた。だから何故。


「上村君は力を感じ取る事が出来るんだ。だから君の事も見つけられた。先生方が話していたのを聞いたんだが、君は恐らく『音』の力を持っているはずだ」

「音?」

「そう。音は振動が伝わって起きる。物が壊れたのは君が起こした振動が激しかったせいだと思う」

「ふ~ん」


 何となく分かるような分からないような。ま、どうでもいーや。


「それで、君には力をコントロールできるようになってもらいたい」


 こんと・・・? 良く分かんないけど、音を出せって事かな?


「力が出るのは感情が昂った時だそうだけど、自分の意思で出せるかい?」

「やった事ないから分かんない」

「だよね。じゃあ上村君。見せてあげてくれるかい」

「・・・分かりました」


 そう言って辺りをキョロキョロすると、ミノルンはアタシのリュックを見てそれを指差した。


「見ていてください」


 言われた通りジッと見つめていると、何とリュックが浮きあがった!


「アレ? 浮いた?」


 思わずリュックに手を伸ばす。だけどリュックは離れるように天井高くまで上がってしまい、手が届かない。


「アレレ?」

「これが超能力だ。ちなみに上村君の力は『念力』と『テレパシー』だな。彼は最初からコントロールが完璧だったからあまり訓練は必要としなかったが」


 ムラタンが色々と説明してくれてるみたいだけど、アタシはリュックに気を取られていたから全然聞いていなかった。

 その後アタシの練習・・・じゃなくて訓練か、はまた今度、という事で梨花ちゃんとご対面! もう可愛くて可愛くてつい頬ずりしちゃったヨ! ムラタンが娘自慢をしちゃうのも頷けるネ!

 可愛い物好きのアタシが梨花ちゃんをなかなか放さなかったから、ムラタンは少しイライラとしてたみたいだけど、ま、いーや。



 それからミノルンの事をムラタンから聞いた。と言っても数ヶ月前に家族になった、ってだけだけど。多分ミノルンも本当の親がいないんだろーな。

 んでミノルンは厳しかった・・・。すぱるた、だっけ? アタシがきちんとコントロール出来るように教えてくれたんだけど・・・ほぼ無表情で説教されるのはけっこう怖かった・・・。ま、おかげでちゃんと能力が使えるようになったけどネ。それは感謝感謝。

 その後アメリカにある能力開発施設、っていうところに留学みたいな形で行く事になった。そこでもっと能力を生かせるように訓練を重ねるらしい。なんか交流を深める事も兼ねてるって言ってたなあ。だから英語を勉強したけど、全然分かんなくて。結局向こうで直に聞く事で覚えた。もうホントーーーーに苦労した!

 アメリカにいたのは六年ほど。日本に帰ってきた時、ミノルンの顔に表情が見られるようになっていたのは嬉しかった。でも梨花ちゃんの事があったから嬉しさ半減。病室で眠る梨花ちゃんを見た時は何も言えなかった・・・。

 だからアタシは明るく楽しそうに笑う。悲しみを吹き飛ばすように。ミノルンだってアタシの気持ちは知ってるから、いつも笑顔でいる。

 でも。それが少し無理をしている事は気付いてた。だから。アユミンがここに来てくれてすっごく嬉しかった。ミノルンが悪戯を仕掛けているのを見たのは初めてで、それだけでもアユミンに心を許していたのが分かる。おまけにすっっっごい可愛い!! アタシの好みど真ん中!

それにアユミンは愛情を受けてきたんだって見てて良く分かる。ちょっと羨ましいな、って思ったけど、アタシにも家族はいるんだから贅沢かな。


「あら命音サン。お仕事でお疲れでしょう? さっさとお休みになられてはどうです?」

「ハン、アレぐらいで疲れるワケないでしょ。アンタこそ仕事があるんじゃないのサ。とっとと戻りなさいよ」


 目の前にはライバルのリンリン。本名は鈴原だからリンリン。

 あれから色々あったし、ライバルはたくさんいるけど、今の生活は結構楽しい。梨花ちゃんともライバルになっちゃったけど。強司は・・・無視無視。あだ名も付けてやんないんだから。

 確かにアタシはバカだけど、強司なんかにバカにされるほどじゃないモン!

 さて、今日もアユミンと仕事仕事。ミノルンが一緒なのは良いけど、強司が一緒なのはやだナー。

 そんな風に考えながら、アタシは音を響かせるのだ。

次は強司編・・・書けるかわかりませんが(苦笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ