ヒロインと変人と・・・
おもしろく~、おもしろく~、と念じながら書いてます(笑)
学校は歩いて十五分ほど。いつもならのんびり歩いて向かうところだが、今日は時間がないので自転車に乗っていく。立ちこぎで必死にこいでいると、学校に着くのはあっという間だ。
校門を抜けて自転車を駐輪場に置き、自分の教室に駆け込んだところでチャイムが鳴った。
「セーフ・・・」
フゥ~、と大きく溜息を吐いていると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。顔を上げると、そこにはクラス一美少女な麗華ちゃんが・・・。
そう、彼女、鈴原麗華ちゃんはとっても可愛いのだ! クラスどころか学校一可愛いと言っても過言ではない。そんな子と同じクラスっていうのはホント幸せ者だよねぇ。もう一生分の幸運を使い切った気がするよ・・・。
夢の中でお姫様役なのもほとんどが彼女だったりする(本人には口が裂けても言えないケド)・・・んな情報どうでもいいか。
鈴が鳴るような澄んだ声で笑う彼女に見惚れていると、彼女は目尻に滲んだ涙を拭いながら挨拶してくれた。
「おはよう、歩夢君」
「あ、お、おはよう・・・」
「歩夢君が遅刻しそうになるなんて珍しいね。寝坊したんでしょ?」
「へ? なんで・・・?」
実際はただ夢を思い出し過ぎて時間がなくなったワケなんだが、そんな事を言えばバカにされるだろうしな。
「寝癖、ついてるよ」
そう言って笑った理由を教えてくれた。っというか、そんなに酷い寝癖なのか? 自分じゃ分からないんだが。
すると麗華ちゃんが自分の櫛とスプレーを持ってきて、僕の腕を引っ張った。ストンと促された椅子に座ると、僕の寝癖を直してくれる。
「綺麗な髪がぐちゃぐちゃだね~」
いや、あなたの方が綺麗だと思いますが。
心臓バクバクいっております! 腕に触られただけで顔が真っ赤な事請け合いです!
いや、まあ・・・僕も男の子ですからネ? いくら学校で告られ率№一、二を麗華ちゃんと競ってる僕でも(大っ変っ、不本意なんですが!)近くにいたり少し触れるだけでもドキドキするのは当たり前なんですがネ? 彼女が僕の事を男として見ていないのが問題なんじゃないかと・・・。
告られ率№一、二とか言いましたが、別に女の子にもててるワケではないデスヨ? もし相手が女の子なら夢の中の住人になりたくなるほど嫌がる事はないのに・・・何故か相手は男なんだよ・・・。
そーです。男である僕に男が「好きだ」って告白してくるんだよ・・・。ありえなくね?
見た目は・・・まあ母さんに似てるから、女の子顔負けの美人顔(父さん談)らしいし、ちょっとは仕方ねぇな~って思・・・いたいけど思えるかぁ! 僕はノーマルだっつうの! だから麗華ちゃんが僕を男として見てないってのがどんだけ辛い事か・・・! ・・・泣いていいですか?
などと内心で号泣していた僕の髪を整え終えた麗華ちゃんがニッコリ笑う。・・・かわええ。
「はい、終わり。ちょうど先生来たから、席戻るね」
「あ、ありがとう」
彼女に見惚れていたせいで少し上擦った声になってしまった・・・。
少々落ち込み気味に席に向かうと(ちなみに僕の席は窓側の一番後ろ。視力が良いから)隣の席に座る親友(僕は腐れ縁だと思っている)がニヤニヤと笑いながら声をかけてきた。
「おはよ。眼福だったなぁ。学校一の美女二人が並ぶと」
「・・・僕は美女じゃないし学校一なのに二人ってのは表現おかしいだろ」
あ、棒読みになってしまった。
「ズボンはいてても女の子にしか見えない奴が何言ってる」
「・・・それはあれか、暗にスカートはけとでも言ってやがるのか、オイ」
「それ以外の何がある!」
いや、そんな堂々と宣言されても・・・。いっその事裸になってやろうか? 男のシンボル見せつけてやろうかぁ!?(お下品です)
・・・駄目だ、むしろ喜びそうだ。特にこの腐れ縁をぶった切りたいほどアホ発言かます友人・・・変人でいいや、その変人。何でこんな奴と毎回同じクラスになるんだ・・・。
そう。何故か小学校からずっと同じクラスなのだ。一クラスというわけでもなく、名前だって近くもない。・・・ああ、忘れてたけど、こいつの名前は渡部篤郎。小学校入学式の時に、どの保護者よりも綺麗だった母さん(身内贔屓ではない)に真っ先に声をかけ、友達が出来ると喜んだ母さんに息子をよろしくとお願いさせた猛者(?)だ。・・・まあ僕が女の子だと思っていた奴は少々落胆していたようだったが(ザマーミロ)。
担任の先生が出欠確認と注意事項を話している間、僕は篤郎とボソボソと先程の会話を繰り広げていたのだが、先生が教室を出てしまうと騒がしくなる周りの声に掻き消されないよう声のトーンを上げる。
「それより美鈴さん、今日も綺麗だったか?」
篤郎の言葉に、僕は呆れた視線を向ける。
「母さんは父さんとラブラブ(死語!?)だから入り込む余地はないと言っとるだろうが」
「別に入り込むつもりはないと何度も言っとる。俺にとって美鈴さんはアイドルなんだよ! 結婚してようが子持ちだろうが関係なく愛せる! それが俺!」
呆れ果てて何も言えない僕。
篤郎は更に母さんの美点と言うか長所を挙げ始める。いつもの事なので、僕は聞いているフリをしながら右から左へと聞き流し、授業の準備を始めるのだった。・・・いい加減飽きないのか・・・。
理科、社会と終わって次は体育の授業。体操服に着替えてグラウンドへ。なのだが、僕はこの時間がいつも憂鬱です・・・。だって着替える時に視線が集中するんだもん。おもに男子!
男女別の部屋で、女子の生着替え見たいからって僕を見るのは間違ってる! 誰が何と言おうと間違ってる! 例え、おかげで助かっていると女子から感謝されてても!
だから僕はカッターの下にTシャツを着る事にしている。夏は暑いが仕方がない。僕の肌を誰が見せてやるもんか! ・・・泣きたいです。
下に着ていたTシャツに落胆の溜息を吐く面々。それで少しは溜飲が下がるというものだ。ってかこの学校、男女半々の人数なんだから男の僕じゃなくて女の子見ろや!
ああ・・・夏になったらプール・・・考えるのが怖い・・・。
などと考えながら変人(もうこれ愛称で良いよね?)と共にグラウンドへ。
体操服から延びる足に視線が集まっているのをウンザリしながら、ストレッチ。
今日は持久走で、二人一組になって一kmの距離を代わり番こに走るもの。一人が走るともう一人は時間や距離を伝えるのだ。
僕は他の男子から組もうと誘われる前に変人を誘う。・・・何か言葉にすると違和感バリバリだな・・・。
じゃんけんで負けた僕が先に走る事に。
別に運動は嫌いじゃないし、身体を動かすのは気持ちが良い。ただ男どもの視線が鬱陶しいだけで。ってかこの場には麗華ちゃんや他の女子がいるだろ! いつまで見てやがる! あ、言葉が乱暴になっちゃった。まあいいや。メンドーだしブリっ子(?)やめよう。
先生のスタートの合図で走り始める第一走者達。僕はその中に混じって自分のペースで走っていた。時折不埒な手が伸びてくるが全部叩き落とす。もうこれ慣れたな・・・。
一kmも走るとなれば息は切れ切れになるし、顔も赤くなる。集中する視線に熱がこもっている気がして(気のせいじゃねぇな)顔を隠したいのだが、如何せんこの状態では無理だな。諦めて残り少なくなった距離を一気に走ろうと考えていたら。
「おっと」
隣で走っていたクラスメイト(男子な)が躓いて転んだ。何と、僕を巻き添えにして。
「うわ!」
抱き付かれるような体勢で転んだので、仰向けになった僕の上に男子生徒が。・・・近いなオイ。
なんか女子の黄色い悲鳴が聞こえた気がするが気のせいだ。うん、気のせいでお願いします。
「悪いな。怪我ないか?」
そいつは申し訳なさそうな顔で起き上がると、手を差し出してきた。行動だけ見たら紳士的だが、明らかにワザと転んでいる。証拠に他の男子がそいつをジロリと睨んで・・・あ、リンチにあった。
僕はもうスッパリその光景を無視して立ち上がる。服についた土を払ってゴール目指して走り出す。ってかあいつのせいで時間ロスしまくったぞ。どーしてくれる。
イライラしながら全力で走る。
もうホントついてねぇよな・・・。いっそ空飛んでった方が障害(物にあらず)に邪魔されず早く行けそうだぜ・・・。
そんな事を考えながらつい溜息を吐くと。
「えっ?」
突然身体が軽くなった気がした。つんのめるように倒れそうになり、慌てて踏ん張る。
(何だ、今の・・・?)
だが今はもう何ともない。気のせいか。今日はやたらと風がきついしな、うん。
やっとの事で一kmを走り切ると、汗を拭き拭き変人のところへ戻る。第一走者全員が走り終るまで待たなきゃいけないしな。って言っても遅れてるのはさっきリンチしてた側とされた側だけなんだけど。
「次、変人の番な」
あ、思わず声に出しちゃったよ。名前で呼ぶつもりだったんだけどなぁ。
「お―。お前より速く走るから美鈴さんに報告よろしく」
スルーですか、そうですか。ってか報告って何だ。自分でしろよ。
そういうと、変人は
「今日は用事があってな。愛しの美鈴さんに会いに行けないんだ。本当に、ホント~に残念なんだが、お前を伝令役に処す」
「うん、嫌。全身全霊で断る。ってか一生僕ん家に来んな。そして息するな」
息継ぎを入れず一息に。心を込めて心情を言葉にする。これコツね。
「ちょっ、最後酷くね!? 顔が美鈴さんに似ているだけに殺傷力ハンパないよ!?」
うん、意味が分からん。そしてお前は母さんの下僕志願者決定。
「ほら変人、次第二走者の番だ。頑張れ変人、そしてあのフェンスを乗り越えて行け、変人」
「棒読み!? ってかフェンス乗り越えたら川だから! 普通に無事じゃ済まないから! っつか人権どこ行った!? ああ、もう突込みどころ満載だなぁオイ!」
当り前だ、お前ごときが人権語るな、ってか早く行け、フェンスをぶち破る事を期待する。
声に出したワケじゃないが、目がそう語っているように見えたらしく(本心だし)変人はスゴスゴと歩いていった。母さん似のこの顔、たまには役に立つな。絶対慰めてやらないからな。
良い笑顔で見送っていると、トントンと肩を叩かれたので後ろを振り返る。するとそこにいたのはクラスメイトの・・・誰だっけ。名前知らん。二年になってクラス替えしてからそう間が経ってないから、まだ知らない奴いるんだよな。あ、そーいえばさっき僕に倒れかかってきた奴の名前も知らないや。
「何?」
とりあえず目の前の男子生徒に向き直る。僕より身長が高い。見上げる形になって、なんかムカつく。
すると彼は頬を少し赤くして手紙らしきものを差し出してきた。
まさか・・・ラブレターとか言わないよな?
「あの・・・兄の友達からって・・・」
「・・・は?」
つい間抜けな声が出ちまったぜ・・・。だって目の前の奴すら知らないのに、その兄どころかその友達って・・・ないわー。
面倒臭い、って心情がありありと表情に出ていたため(つか出した)、相手はアタフタしながら説明してきた。
「朝、靴箱に手紙入れたけど、ゴミ箱に直行しちゃったらしくて・・・」
・・・どうでもいいが、それ説明になっとらん。
詳しく聞くところによると、彼の兄の友達(メンドクサイから兄友な)は僕に一目惚れしたらしく、古風にも靴箱にラブレターを入れたらしい(果たし状の方がどんだけマシか・・・)。
んで僕がそれを読むところを見ようと思って隠れていたが、僕がなかなか来なくて。おまけに他の奴(くどいようだけど男な)が同じようにラブレターを入れようとして、既に入っていたその手紙をゴミ箱に汚物よろしくポイしちゃったと。
男が行った後、兄友は靴箱の手紙をやはり汚物よろしくポイして、自分の手紙を拾おうとして・・・僕が凄い勢いでやってきたワケだ。
結局手紙を渡せず、非常に悲しい思いをした兄友。それを聞いて協力を申し出た兄がちょうどクラスメイトである弟に伝書鳩を頼んだと。
何とまあ友達思いな・・・ってかわざわざ体育の授業にまで持ってくるってのが凄いな。まあ昼休みまでに渡すよう言われているらしいから、焦ってたんだろうな。
靴箱で手に入れたモンなら躊躇いなくゴミ箱行きだったが、こうやって人から渡されると捨てづらいなぁ。ってか普通は本人が持ってくるもんじゃねぇのか? 恥ずかしいとかが理由だったらぶっちしてぇ。受け取る側だって恥ずかしいんだよ!
そろそろ周りの視線が煩いし、僕は仕方なく手紙を受け取った。傍から見たら弟からラブレター貰ってるみたいだな。顔赤くしてるし。
弟は手紙を受け取ってもらえた事にホッとしたのか安堵の表情を浮かべると、本来の役目を果たしに行った(第二走者に時間伝える役な)。
僕は周りの視線を気にせず、手紙を読む。一応隠すように読んだから多少のプライバシーは守られているはずだ、ウン。
そこには『好きです』やら『昼休みに屋上で』やら『待ってます』などと、まあ簡単に言えば非常にラブレターらしい事が書いてあった。他にもつらつら書かれてたが、まるっと無視。無造作にポケットに突っ込むと、僕も本来の役目を果たしに・・・あ、もう終わってたわ。
変人の恨めしげな視線を尻目に、校舎へ戻っていく僕なのだった(スルースルーと)。
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