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身体強化と鬼ごっこと・・・

 それからは夢に影が出る事もなく、現実でも捜査に協力してそれなりに役立つ日々だ。一週間もすれば顔見知りも増え、歩けば挨拶を交わせるほどここに慣れてきた。


 ボッコボコにした村田氏と言えば、初めの頃は大人しくしていたようだが、最近はまた悪戯心が騒ぎ出していると助手(秘書と言った方が良いか)が漏らしていた。エスカレートするようならまた半殺しの刑にしますよ、と言うと、本気の目でお願いします、と返されてしまった。一応冗談のつもりだったんだケド・・・。


「歩夢君」


 噂の当人が声をかけてきた。少しビクついているような気がするが気のせいだ、うん。助手の人もそう言ってたし。


「何ですか?」

「大事な話があるから、私の部屋に来てくれるかい?」


 僕達が今いるのは食堂。今日は学校が休みだったので、母さんに朝食はいらないからと言ってここで食事をしていたのだ。土居氏に誘われたからだが、娘さんはどうしたのかと問うと、妻が子供を連れて里帰り中なのだそうだ。すわ、別居か離婚か! と思ったら何と二人目を妊娠中なのだそうだ。予定日までまだ時間はあるそうだが、家の事が出来ないほど忙しい土居といるよりは実家にいた方が便利だろうという事らしい。一人目の子はなかなか出来ない中やっと生まれた娘なので、甘やかし過ぎて我儘に育っている。だからせめて二人目は少し厳しくするつもりだ、と親バカ丸出しの顔でのろけてらっしゃいましたよ、だらしない顔してまあ。微笑ましい光景である。


 それはさておき、僕は村田氏の後について部屋に向かった。村田氏の部屋、とはあの秘密基地の扉の部屋だ。いい加減あの趣味やめろよ、と思わないでもないが、周りの人間から耳にタコが出来るくらい言われているらしいので、黙。


 中には稔と命音もいて、僕の姿を見ると手を振ってきた。やっほー。


「さて、大事な話と言うのはね。また超能力者を見つけたという話なんだ」


 驚いたのは僕と命音。見つけたのは例によって稔だろうし、まあそうだろ。


「アユミンが見つかってからそんなに経ってないよネ。年に一人見つかれば良い方なのにサ」


 そう。超能力を持っている人はそれを隠すか、気付かないままが多い。ただでさえ超能力者が少ないのに、探そうと思えばなかなか見つからないのは道理である。


「それで、見つけたんなら交渉はミノルンの仕事でしょ? 何でアタシ達まで呼ばれたのサ?」


 ここが定位置、と言いたげに僕の背中に凭れかかってくる命音。いや、だから胸が思いっきり当たってますって。


「厄介な人物なんですよ。俺一人では無理っぽくて」


 稔がそんな事を言うなんて、と思わず見上げると、本当に困った様子で微笑んでいた。


 相手の人、そんなに厄介なのか~。ちょっと見てみたい気がするな。味方にしたら稔に対抗できそうだ、ニヤリ。


「ふーん、まあ良いけど。でもアタシそういう交渉事って苦手なんだけどサ?」

「ああ、勿論期待はしてないから大丈夫ですよ」

「そっかー」


 ・・・おい、バカにされてますよ、命音サン。稔も分かってて言ってるな、オイ。


「そういうわけだから、三人で行ってくれ。頼んだぞ」


 村田氏よ、あんたも止めようよ。ここの責任者だろうが。


 目で訴えてみるが、華麗にスルーされちゃったヨ。


「んじゃ行こっかー!」


 元気に歩き出す命音。勿論僕も引きずられる形で歩かされてますがネ。


 毎度の事ながら、二人についていけるのかと不安になる僕でした・・・。もうソロでいんじゃね?




 稔の案内のもと、やってきたのは大きなゲームセンター。休みだから凄い数の人で溢れ返っている。


 その中を、僕達はズンズン進んだ。向かった先にはガンシューティングゲーム。三台ほど並んだうちの一つで、高校生くらいの男子が余裕の顔でプレイしていた。腕前はなかなかのもので、出てくる敵を次々と打ち倒している。


斎藤強司さいとうつよしさん」


 周りの騒音に負けないように、稔が声を張り上げた。呼ばれた男子はいかにも不機嫌そうに振り返る。


 その視線は稔をスルーし、後ろで控えていた僕と命音に平等に向けられた。特に僕は顔を、命音は胸を。


 目が合った途端、僕は思わず命音の後ろに隠れた。それだけ視線の熱が半端じゃなかった事もあるが、鋭すぎる三白眼がとても怖かった。いかにも不良! という雰囲気を醸し出していて、仕事じゃなければ声など掛けたくも掛けられたくもない相手だ。


 僕が怯えたように顔だけ覗かせているのを見て、不良男は舌なめずりせんばかりにニヤリと笑った。こわっ! 肉食獣がここにいる!


 ビビってしまった僕だけど、この反応で相手が女好きだと確信した。


 ・・・自信ないけど。


「良い女二人も侍らせて、良いご身分だなぁ、オイ」


 ・・・やっぱり僕は『女』なのネ・・・。


 不良男は稔をぎろりと睨みながら(というか目が鋭過ぎて普通にしてても睨んでるように見える)、口元に嘲るような笑みを浮かべた。器用ですネー。


「あなたに大事な話があるんです。少しばかりお時間をいただけませんか?」


 おお、全然動じてない。さっすが稔! 交渉役の名はダテじゃない!


「あ? 何で付き合わなきゃいけねーンだよ。どうせなら女置いて失せな。男に興味ねー」


 ハッキリ言う人だなぁ。露骨過ぎて鳥肌立ってます。


「そういうわけにはいきません。話をするのは俺の役目なので」


 いつも微笑みを浮かべている稔だが、さすがに今は無表情になっている。こ、こっちもこわー。


「ったく。ウゼェ。ならオレの気晴らしに付き合ってもらうぜ」

「気晴らし?」

「ああ。簡単だぜ。鬼ごっこするだけだ」


 鬼ごっこ? 小さい時によく遊んだ、アレか?


「お前が鬼だ。オレは逃げる。一時間経ってもオレを捕まえられなければオレの勝ち。その女達は置いていってもらうぜ」


 余裕綽々よゆうしゃくしゃくなのは勝ちを確信しているからか? うう、キモイ。


「もし俺が勝った時は、話を聞いてくれるんですね」

「ああ、何でも聞いてやるよ。すぐに始めようぜ」

「その前に一つ。鬼役は後ろの二人にもお願いしたいのですが」

「ああ? 女に頼るとは軟弱なヤローだな。まあ良い。好きにしろ」

「ありがとうございます」


 そして不良男の言う鬼ごっこが始まった。




 範囲はゲームセンター内、制限時間は一時間。現在時間は十一時なので、十二時に終わる予定だ。


 斎藤は始まりの宣言と同時に、凄い高さを跳躍して僕達を飛び越え、逃げた。僕達は呆気にとられて一瞬あいつの姿を見失う。


「あの能力、恐らく身体強化ですね」


 身体強化? と首を傾げると、稔は苦笑混じりに続けた。


「文字通り、肉体の力を強化する能力だよ。腕力や脚力だけでなく、治癒力も上がるとか」


 稔がそこまで詳しいのは同じような能力を持った超能力者が過去にいたという事だ。なら攻略の仕方も分かるかな?


「触れなければ被害に遭う事はないですね。しかも今回は鬼ごっこという事で向こうは逃げるだけ。さっさと捕まえましょう」


 僕と命音は頷いた。勿論これらの会話をしている間もあの不良男を追いかけて走ってます。


 凄い人だかりだからなかなか追いつけないケド、稔のテレパシーで場所は丸分かりだ。

だが一つ疑問に思ったのは、斎藤が普通の人間にはできない動きをしているというのに、周りの客達は何とも思っていないという事だ。まるでいつもの事だ、と言わんばかりにスルーしている。中には賭け事のようなものをしている者もいる。


 その辺を稔に訊いてみたケド、さすがに分からないらしい。これは本人に訊くしかないな。


 稔が念力で斎藤の動きを止めた。だが身体強化にモノを言わせて自力で抜け出してしまう。ちょっとスゲー。


 何でも斎藤の能力の強さは『強』に当たるらしく、『中』である念力では一瞬動きを止めるのが精一杯らしい。


「じゃあ次はアタシね」


 命音が斎藤に向かって能力『音』を飛ばす。脳を揺さぶって気絶させるとかいう、アレだ。でも命音と斎藤の間には客達がいるワケで。僕と稔が止めようとした時には既に遅く、数人の客がぶっ倒れてしまった。斎藤はといえば、治癒力を上げているので多少ふらついた程度に終わった。


「命音・・・」


 僕と稔からの冷たい視線に、暴走バカ娘はテヘッと可愛く舌を出していた。可愛いケド、これは許せねーっつの。後で村田氏に報告してお仕置きだな。


 などとアホな事をやっている間に、斎藤は階段を二段跳びならぬ全段飛びで駆け上がっていった。さすが身体強化だなー。


 階段にはあまり人気ひとけがなかったので、僕は能力を使って宙に浮いた。そしてジェット噴射をイメージして、某ロボットアニメのキャラクターのように凄いスピードで不良男に追いついた。これはアレだ、言うは易し、ダネ。勢いが付き過ぎて壁に激突しそうになったのは内緒だ、うん。ガクガクブルブル。


「へえ。面白い能力だな。よし、お前は絶対にオレのモノにしてやる」


 げえ。キモイヨ~。これはマジでさっさと捕まえねば。鳥肌が全身に立ったのは言うまでもねーです。


 僕はベルトから警棒を取り出し、斎藤に向けて振り下ろした。まああっさりと避けられるわな。身体強化で視力も良くなってるみたいだし。でも、


「・・・チッ!」


 斎藤の動きが一瞬止まる。やっと追い付いてきた稔の念力だ。その隙に僕の警棒が斎藤の腹(・・・いや、もうチョイ下な)に直撃。あー・・・うん、手加減はした。後で警棒の洗浄と消毒しなきゃな~(少し現実逃避・・・)。


 すっごい形相で蹲る斎藤。あー、うー、ゴメン?


 とどめとばかりに命音の音攻撃。気絶してぶっ倒れる不良男。


 ・・・少し不憫な気がしたのは気のせいじゃねーです、ハイ。


「三人の連携攻撃! 恐れ入ったか!」


 ・・・命音よ、打ち合わせなしの連携攻撃は凄いと思うが、斎藤の頭をふんづけてそっくり返るのは止めておけ、余計に不憫になるから。


 まあ何はともあれ、あっさり白目を向いている不良男を捕まえたという事で、ゲーム終了デス。


 一応念の為にサイキックリング付けておこう、うん。


 やれやれ、と溜息を吐いていると。


 バキッ


 上から何かが壊れるような音が聞こえた。慌てて見上げると、


「室外機!?」


 業務用らしき室外機(エアコンに繋がってるアレ)と鉄柵が落ちてくる!


 そのまま落ちれば命音とその下の斎藤に当たる。稔の念力では重過ぎて止められない。命音の音では弾く事も砕く事も出来ない。


 一瞬の間にそう思い巡らせた僕は、咄嗟に能力を使って跳躍、持っていた警棒を振りかぶった。ついでに腕力の強化(斎藤を見てイメージしてみた)も行っている。


 警棒は正しく室外機と鉄柵を弾き飛ばし、壁にぶち当たった。警棒の方も無事では済まず、バキリと嫌な音を立てて折れてしまう。


 あー!! 僕の警棒がぁぁぁぁ~!!


 と床に着地した僕は肩を落として項垂れる。が、命音にドーン! と体当たりをかまされて抵抗する暇もなく転がった。


「アユミン、ありがとー!! カッコよかったよ~!!」


 お腹辺りに抱き付かれながら、命音の叫びを聞く。・・・どうでもいいが、胸が当たってマス。


「凄いよ、歩夢君。まさに無敵だね」


 稔よ、褒めてくれるのは嬉しいが、いい加減助けてくれぇ・・・。


 命音が放してくれるまでジタバタ暴れまくっていた僕でした・・・。




 しばらくして目を覚ました斎藤は、身体が縛られているのに気付いて盛大に舌打ち。


「タダモンじゃねーから、同じ超人かと思ってたが・・・何モンだ? お前ら」


 超人? 超能力だって事知らないのか?


「あなたと同じ超能力者ですよ。種類は違いますけどね」

「超能力者ぁ~?」

「そうです。あなたの場合は身体強化の能力です。人間の肉体が能力なしにあんな力を出せるはずないでしょう」


 ・・・顔は笑顔だケド、声に冷やりとしたモノが混じっている気がする・・・。怒ってますネー。


 でも不良男は気が付かないらしく、刺々しい雰囲気を消さずに言い返す。


「ハンッ! 超能力だろうが超人だろうが一緒だろうが! こんな縄、すぐにぶち切って・・・な、何!?」


 斎藤は能力で力を上げ、縄をぶっち切ろうとしたが、縄はビクともしない。


「何でこんな脆そうな縄が・・・!」

「切れませんよ。歩夢君の能力で鎖より強い耐久力を持たせてありますから」


 そう。僕は縄に鎖のイメージをかけて丈夫にしておいたのだ。この縄はすぐ近くに落ちていた物で(なぜ落ちていたのかは不明)、そのままでは逃げられるだろうからとやっておいたのが役に立った。


「クソ! 一体どんな能力なんだよ!」

「教えてもいいですが、その前にあなたに協力してもらいますよ」

「協力だぁ~?」

「はい。詳しい話は向こうについてからです。俺達が勝ったら何でも聞くと約束したでしょう?」


 斎藤が鬼のような形相で睨んでる。スッゲーコワイ。


 だが斎藤は観念したのか素直に僕達についてくる。まあほどいた縄を首に巻き直して、逃げたら締まる、とか言われたら逃げらんないわな(これは稔の発案。能力を使う僕はビクビクもんだ)。


 というワケで秘密組織に不良男を連行。その道すがら訊いてみたのだが、何とゲームセンターの客達は斎藤の超人っぷりを見慣れているそうだ。気晴らしと称しては数人の不良グループとゲームをして、金を巻き上げていたらしい(!)斎藤。それを賭けの対象にしてたっていうんだから、客達の図太さはそれこそ超人だな。不思議に思われないのがスゲーよ。


 ちなみに命音と斎藤を襲った室外機は、斎藤を恨んでいた不良達の仕業だった。金を巻き上げられ、恨みを晴らそうとしても逃げられる相手が気絶しているというチャンスに、不良達は行動を起こしたのだ。まあ残らず捕まえて付近の交番に突っ込んどいたケドネ(ニヤリ)。


 村田氏に報告して斎藤を突き出す。後の説明は村田氏がしてくれるだろ。そう思って部屋を出ようとした僕達だが、一緒にいてくれと懇願されました。何でも斎藤の三白眼が怖いらしい。


 ・・・それでもここの責任者か、オイ。


 とにかく、村田氏の説明を聞いて組織に協力する事にした斎藤。まあ今まで金を巻き上げてきた事や怪我を負わせた事などで罪に問われるよりは、と思ったらしい。後は僕と命音を自分のモノにする為だとか。


 いい加減嫌になって僕は男だと伝えてみた。最初はなかなか信じなくて服まで脱いだ(ギャー!)のだが、それでもエモノ認定は取り消されなかった。何故に?


 僕達と同じように個室を用意された斎藤は、嬉々として移住してきた。何でも一人暮らしをしていたそうだが、ここなら金を使わなくても衣食住が確保されるから、らしい。こいつも色々と暗い過去がありそうだな。まあ同情なんてしてやらねーケド。


 まあそんなこんなで仲間が一人増えました。

もしこの物語が終わったら、番外編とか後日談とか書きたいですね~。そういうの大好きなんで(読むのも書くのも)。その辺に稔達の過去とか入れたりも良いかも・・・。

ただ執筆速度が亀並みなので・・・いつになることやら(汗)

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