デジカメと『それ』と・・・
長い気がするのは気のせいでしょうか・・・
プリントしたら写真を貰う約束をして、何とか許しました。土居氏に悪気はないハズだからね・・・。
麗華ちゃんはクスクスと笑いながら行ってしまった。襲われたら危ないと思って一緒に行こうかと言ったんだけど断られてしまったので、仕方なく周辺を見回る。
「警察が辺り一帯を調べ尽くしたんだよね。それでも手がかりなしかぁ・・・」
「この辺りは人通りが少ないから、目撃者がいないんだよ。犯人はそれを知っていて罪を犯してるんだろう」
何とも厄介な犯人だな・・・。
などと溜息を吐いていると。
「キャ・・・ッ」
微かに・・・本当に微かに悲鳴のようなものが聞こえた。それは麗華ちゃんが歩いていった方角で・・・。
僕は血の気が引く思いで駆けだした。
「お、おい! どうしたんだ!?」
土居氏が後を追いかけてくる。
「悲鳴が聞こえた!」
「何!? 私には聞こえなかったが・・・」
土居氏には聞こえなかった? ならなぜ僕には聞こえたんだろう・・・。アレか、能力のおかげか。
だが今はそんな事を考えている時ではない。麗華ちゃんの無事を祈りながら角を曲がると。
「麗華ちゃん!!」
そこには麗華ちゃんの口を手で押さえつけ、羽交い絞めにしている覆面の男が。
僕の声にパッと顔を上げた覆面が、後ろから追いかけていた土居氏に気付いて逃げだした。突き飛ばされるように解放された麗華ちゃんは力が抜けたようにへなへなと座り込む。
「大丈夫?」
土居氏が犯人を追いかけていったので、僕は麗華ちゃんの傍にいる事にする。
「だ、だいじょぶ・・・」
口ではそう言いながらも震えが止まらない様子の麗華ちゃん。僕は思わず彼女の肩を抱き寄せ、背中を優しく叩く。
いつもの僕なら恥ずかしくてこんな事は出来なかっただろうケド、こんなに怯えている麗華ちゃんを放ってはおけない。彼女が抵抗せず身を任せている事もある、と思う。
やがて五分くらいして、土居氏が戻ってきた。
「逃げ足が速くて、姿を見失ってしまった・・・」
この辺りは細い路地が多くあって、土地勘がある人間なら逃げおおせてしまう。
土居氏は僕と麗華ちゃんに「すまない」と謝ってきた。
「い、いえ、あたしは大丈夫ですから」
その頃にはもう震えが止まっていた麗華ちゃんは、頬を赤くしながら首を横に振った。
「家まで送るよ。買い物はまた今度にした方が良い」
それでも買い物に行く、何て言われたら心配のあまりストーカーするかも、と続けたら麗華ちゃんがやっと笑ってくれた。
「歩夢君がストーカーなら逆に嬉しいかもね」
ナヌ? それはどういう意味デスカ?
だが麗華ちゃんは何も言わずに、頬を赤くしたまま僕達に家まで送られたのでした。何故に?
その後再び現場に戻ってきた僕と土居氏。犯人の手掛かりもなく、逃げ足が速いということぐらいしか分からない。
「どこに行ったのか・・・」
「応援は頼めないの?」
「もう連絡はしてある。だが顔も分からず、服装も変えていれば人数を集めたところで見つからない。地道に目撃者を探す事になるだろうね」
「そっか・・・」
ウーン・・・と唸っていると、土居氏がジッとこっちを見詰めてきたので、ん? と首を傾げる。
「いや、敬語じゃなくなったなって・・・」
あれ? いつの間に?
「すいません、さっきの事で動揺してるのかも」
「無理もない。それに敬語はいらないよ。一応は上司だし?」
微妙な雰囲気を吹き飛ばそうとワザとふざけるように言ってくれる土居氏。その心遣いに感謝! ただ肩を竦める仕種が上手だとは言っておく。
「ホントどこに行ったんだろ、犯人。どうせなら監視カメラでもあれば・・・」
こんな場所にあるわけないんだケドね~、などと呟いていると。パッと頭に浮かんだアイデアが!
「あ!」
「何だ?」
思わず叫んでしまい、土居氏が眼を丸くする。う、恥ずかしい・・・。
「えっと、僕の能力使えるかなぁ、と思って・・・」
「能力? 確か『夢現』だったか?」
「うん。ただの思いつきで終わるかもだけど・・・土居さん、デジカメ貸して?」
上目遣いで強請るように・・・って僕が意識してやったんじゃないよ! だって土居氏が高いんだもん! 勝手に上目遣いになっちゃうんだもん! 何で僕の周りは身長が高い奴ばっかり集まるんだ~!
などと心の中でシャウトしながらデジカメを受け取る。こころなしか土居氏の顔が赤く見える・・・。首を傾げたのがマズかったか?
そんな事は置いといて、僕はデジカメを麗華ちゃんが襲われていた場所へ向けた。パシャっと一枚。画面に何の変哲もない道が映される。
「それをどうするんだい?」
土居氏に訊かれるが、まだ出来るか分からないので、黙。
僕は両手でカメラを持つと、巻き戻しのイメージを思い描きながら息をゆっくりと吐いた。すると、
キュルキュル・・・
やった! 成功した!
カメラの画面に映っていた画像が、まるでビデオを巻き戻すかのように巻き戻っていく。後ろ向きで歩いてくる僕、麗華ちゃん、土居氏。家まで送っていこうと歩き出した時だろう。そして地面に座り込む麗華ちゃんと慰める僕。犯人を追いかける土居氏。麗華ちゃんを襲っている犯人。全てが後ろ向きで動いていく。
僕はそこで力を止め、カメラを元の状態(何の変哲もない道の画像)へ戻した。
「いやはや、凄いねぇ・・・」
ずっとカメラを凝視していた土居氏が呆然とした様子で呟く。僕自信こんなにうまくいくとは思っていなかったから驚いたよ。
とにかく、これを使って犯人を探そう。先程の画像で犯人がどこから来たのかが分かったので、そっちを向いてパシャ。再び能力を使って巻き戻し。それによって犯人が潜んでいた場所を特定。そこをデジカメに収め、三度能力を使うと・・・。
「お」
土居氏が驚きの声を上げる。
そこには覆面をかぶろうとする男の姿が映っていたのだ。
「これで犯人の顔が分かったな。後はこいつの住所、分かるか?」
「時間はかかるケド、多分分かる」
「頼んだ」
「うん!」
頼まれた事が嬉しくて、張り切って返事をしてしまう僕。だって新人初日で能力も把握したのが昨日だっていう、ほぼ役立たず決定な状況だったんだよ? 頼りにされるのって、すっごい嬉しいんだ~!
などとウキウキしながらも手は動かす僕。巻き戻しては犯人が動く方向へパシャ。そして巻き戻し。その繰り返しだ。時間はかかるが、徐々に犯人のもとへ近付いているのが分かる。
やがて一軒のアパートに辿り着いた。頭にボロ、と付けたくなるほどの古さだ。
そのアパートの一階、奥から二番目のドアに男が入っていくのを、カメラの画像が映し出していた(出ていく場面なので、後ろ向きでは入っていく画像になる)。
「あそこか」
「そーみたい」
僕達は少し離れた所からアパートを見ていた。私服だし子連れに見えるので警官だと気付かれる心配はない。だが犯人は僕達の姿を見ているので、あまり近くまでは行けなかった。
「村田さんに連絡して監視する。今アパートの中にいるかどうかまでは分からないから、応援が来るまでここで見張ろう」
「うん」
おお~! ホントに僕、警察なんだなぁ。などと今更実感。だって本来なら能力なしで探すのが警察でしょ? 能力使ってる時は必死だったケド、やっぱそれはフツーじゃないし。こういう見張るっていう行為が、ちょっと憧れてたというか・・・ハイ、子供です。
ちなみに村田氏に能力の事を言ったら「凄い便利な能力だなぁ。これからの捜査は楽になりそうだ」とほざいてました。僕に全部任せる気じゃないだろうな!
それから応援が来るまで、僕は土居氏にコツやらなんやらを教わりましたとさ。
ただいま秘密組織(本来の名称、長いからこっちで定着)の食堂(何気に充実してます)でお食事中。だって応援の人達が来てここに帰ってきた時はもう夕方だったんだぜ。お昼抜きで頑張ってたから、お腹ぺこぺこだ~! ってか食堂がある事に驚いたんだケド、例によって村田氏の希望だったり。あの人ホント何者?
ラーメンをズルズルとすすっていると、前の席に誰かが腰掛けた。
ん? と見上げると、稔と命音(こう呼ばないと怒る・・・)がニマニマ笑いながらこっちを見ていた。気持ち悪いって・・・。
「凄いね。初日から大活躍だなんて」
「うんうん。さっすがアタシのお気に入り! これからも期待しちゃうからサ」
・・・スイマセン、二人の愛が重いです・・・。
食欲がどっかに吹っ飛んでいくのが感じられた。でもせっかくの美味しいラーメンを残すわけにはいかないと胃に流し込む。
「でもサ、何で男が部屋に戻ってきた時に踏み込まなかったの? アタシなら特攻かけてふん捕まえてやるのにサ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
僕と稔の溜息が重なる。
「あのですね、男の顔も住所も超能力で分かった事なんですよ。それじゃ証拠にならないし、無理に踏み込んで何も見つからなかったらこっちがやばいんです」
「証拠なんてすぐに見つかるでしょ? 覆面とか」
稔がやれやれ、と言いたげに説明しても命音は首を傾げるだけ。オイオイ、僕にも分かる事が何で分からないんだ~。
「似たような物なんてどこにでもあるよ。言い逃れなんていくらでもできるでしょう? 本当に言い逃れが出来ない、犯人だっていう証拠がないと。まあその前に家宅捜索の令状がとれるか、って話なんだケドね」
僕が言うと、命音だけでなく稔まで驚いた顔をしていた。オイ。
「アユミン、アタシより物知り!」
「うん。命音より頭が良いね」
・・・褒められてる気がしない。ってか稔よ、命音が年上だって分かってるのか?
食べ終わった僕は食後のお茶(勿論玄米茶)をズズ・・・と飲む。前方のお二人は何も持っていないので、僕と話をするためにここに来たようだ。
「村田さんも褒めてたよ。命音以上に役に立つ人材が来てくれて嬉しいって」
・・・ここでの命音の立場って・・・。
聞けば命音はサポートよりも特攻が得意なんだそうだ。
・・・一応、ここって捜査が主のハズだよねぇ?
お茶も飲み終わったので、食器を返却口に返して帰り支度。と言っても荷物なんてそんなにないケドね。
ちなみに僕達三人には個室が用意されてたりします。自宅の僕の部屋ぐらいの広さ。ビックリだよ、うん。これでいつ家出しても大丈夫だな。・・・する気はナイヨ?
「稔、命音。僕はもう帰るケド、何か用事あった?」
「いや・・・ああ、一つ言っておく事があった。歩夢君の能力はコントロールが完璧なようだから、訓練は必要ないって。夢の中で練習してたのが良かったみたいだよ」
「ホント凄いよね~。おまけに警棒握らせたら日本一! だしサ」
いや、日本一ってなに・・・。
命音が口を開くとツッコミしか返せないような気がするのは気のせいか。いや、気のせいじゃねーナ(反語)。
「じゃあまた明日」
明日からはまた学校だ。だからここに来るのは学校が終わってからになる。村田氏は用事がある時は連絡するから毎日は来なくていい、と言っていたが、まだ新人で覚えなければいけない事がたくさんある僕はやっぱり来た方が良いと思うのだ。ここには資料室もあるので、勉強するのにもってこいだし。
二人はここで暮らしているらしいので、来れば会えるだろ。
「また明日」
「また明日~」
二人の声を背中に、僕は食堂を出た。
家に返ると父さんも母さんも嬉しそうに抱きついてきた(父さんは撃退したケド)。どうやら村田氏から今日の事を聞いたらしい。あの人、ワザワザ連絡したワケか。マメだなぁ。
パーティーを開きそうな勢いだったので、夕飯は軽くでいいと断った(ラーメン食べたしな)。それにより落ち込んだ両親だが、すぐに復活して和気藹々としていた。ホント変わった両親だよな・・・。ってか僕の周りは変な人だらけだからしょうがないか(これでも良い意味で言っている)。
夕飯食べて風呂入って寝る。
今日は色々あったせいか能力を使いまくったせいか、とても疲れた。いつもならゲームをするところだが、早々とベッドに入る事にした。そしてすぐに訪れる夢。僕の思い通りにできる空間へとやってきた。
「訓練は必要ないって言ってたケド、さすがに夢の中では練習しないとネ」
今回は剣の扱いというより、警棒の扱いを練習しようと思う。握ればきちんと扱う事は出来るが、切るのと殴るのでは少し違ってくるからな。
練習場所は前と同じ体育館。ここの方が練習しやすいような気がする。
というワケで、僕は一心不乱に警棒を振りまわしていました。だけどしばらくして
「ん?」
違和感を感じた。前にも感じたのと同じ感覚。だが前より大きい。
「あれか・・・?」
ふと気付くと扉の前あたりに『それ』があった。『それ』はまるで湯気のようにユラユラと揺れている。空間が歪んでいると言った方が良いかな。向こうが透けて見えているから、『物』でないのは分かった。とにかくワケが分からないもの。
今までなかった事なので、僕は呆然としながらもそれに近付いた。
『・・・こ・・・が・・・・・・か・・・』
すると人の声のようなものが聞こえてきた。だがそれはまるで電波の悪いラジオのように、途切れ途切れにしか聞こえなかった。
もっとよく聞こうと近付いて・・・僕はそこで目が覚めてしまった。
「何だったんだ? あれ・・・」
ベッドの上でボソリと呟く僕。だが答えは出そうになかった。