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制裁3


ラキの狙いは的確で、鍵は容易に破壊された。

躊躇いもなく扉を蹴破ると部屋の中にはやはり先ほどの男がいて。ミリはまだ眠っていたが、男がすかさずミリの首元にナイフを差し向けた。




「…ばっかじゃのー。この俺相手に、そんな訳の解らん小娘を人質にした所で通用すると思っとるんか」

「くそ…!」

「それよりもこの客間をオマエみたいな裏切り者の汚い血で汚すことの方が俺にとっちゃあ躊躇われる要因じゃあ。なあ、数秒だけ待っててやるから部屋だけ変えんか?」

「う、うるせえ…うるせえ!来るんじゃねえ!」

「…あー、やっぱりだめか」



一応説得するつもりだったらしいラキの言葉にやはり耳を貸すつもりは無いようで、それどころか激情した男は思い切りナイフを振り上げた。

人質にならないなら殺してしまおうという、いかにも殺し屋らしい考えだ。ラキの後ろにいたベルが何かを叫んだ気がした。しかしそれと重なるように響いたのは一発の銃声だった。



「ぐあっ…!」

「今じゃ!ミリ!」

「!?」




――それから一瞬の間に、いろんなことが起きた。

まず火を放ったのはもちろんラキの銃。そして鉛弾は男の手を見事に貫通して見せた。

次に、叫んだラキの言葉に動きを見せたのはなんと寝ていると思われていたミリだった。部屋に踏み込んだ瞬間からラキはミリの狸寝入りに気付いていたらしく、助け出すタイミングを計っていたのだ。

そうしてミリはラキの言葉にビクリと起き上がると男とは反対側の方向へと逃れようとした。しかし、布団が足に絡まったようでそのまま頭からベッドの下へと落下していったというわけだ。



「いったー…」

「なんじゃあ、鈍臭いのー」

「す…すいません……」

「ミリ起きてたのか…?」

「あ、あんな凄い騒ぎの中じゃ寝てられないよ…」

「流石、やり手のスパイですね」

「違います!」






額を押さえながら涙目になっているミリに、ラキもニーナもベルも笑った。

――そんな、和やかな空気が流れて。誰もが終わったと思ったいた……その時だった。




「っ――やる」

「……へ、」

「ミリ!?」

「殺して、やる…この女だけでもっ、殺してやる…!!」

「ちっ!まだ動けたんか!」

「うあああ!!!」





肩にも手にも銃弾をくらっていた、男。致命傷は受けていないにしても、大量の血を流して最早動けないだろうと思われていた男が影から現れてミリをベッドの上に引きずり上げると、その上に乗しかかる。そしてミリの細い首が男の大きな両手に捉えられ、ミリは息が出来なくなった。

もう、男の目には理性の欠片すら浮かんでいなかった。



「(…死ん、じゃう)」





ミリは視界の片隅でまたラキが銃を構えるのが見えた。しかし男は倒れる所か変わらずに悪魔のような形相でミリの首を締め続けていた。

この男はきっと私を殺すまで倒れないのだろう、と、ミリは場違いにも冷静に考えていた。死ぬのは怖かったけど、これでもう誰からも逃げる必要がなくなるのならそれで良かった。ミリはもう抗うことに疲れ切っていた。


「(お父さんとお母さんに会えるかな)」




ミリが力無く目を閉じた……その時だった。





唐突に身体が軽くなり、一気に空気が肺に流れ込んできたこてでミリはむせ返った。意図せずに目からは涙が流れていた。

一体何が起こったのか解らなくて、実はもう自分は死んだのでは無いかと思ったが。

目を開けたら、そこにはやっぱり見慣れた天井があって。悪魔のような男の姿は消えてしまっていた。




「――よお、生きてるかよゴミ箱娘」

「!!」



そう言って視界に現れたのは、またミリの見たことの無い人物だった。苦しげに肩で息をしながら、誰だろうと思っていると次に駆け寄ってきたのはベルだった。



「…大丈夫か、ミリ」

「だい…じょうぶ、」

「良かった、もう大丈夫だぜ。キャメルが助けてくれたんだ」

「まったく、無茶苦茶じゃのー。

いきなり花瓶ぶん投げるとかどこのチンピラじゃオマエ」



ミリは驚いて振り返ってみると、男はベッドの下でダラダラ血を流しながら倒れていた。男の周りにはきっと原形はさぞ素晴らしい花瓶だったに違いない陶器の破片のようなものが散らばっていた。これが直撃してベッドから転がり落ちたのだろう。

ちなみに、所々がピクピクと動いているからまだ死んではいないようだ。





「そんなもん見んでええ」

「うわ、」



……すると、唐突に視界が何かに遮られて目の前が真っ暗になった。なにごとかと、己の視界を塞ぐそれを外して見てみると…それは、狐のお面だった。

ミリは恐る恐る目の前にいた相手へと視線を向けてみる。そこにいたのは……銀髪に青い瞳の美青年がいた。




「(うわ、誰だこの人…)」

「あー…すまんかったのー。苦しかったじゃろうに」

「え?あ…」



狐顔の変人から銀髪美青年へと姿を変えたラキが、すまなそうな顔でミリの首元に手を触れた。

赤く手の痕が着いていたのだ。すると隣りでベルも悲しげに顔を歪めたのが解ったが、2人がそんな顔をする必要ないのに…とミリは思っていた。しかし上手い言葉が見つからず、困ったように黙り込んでいると助け舟を出してくれたのはニーナだった。




「別の部屋を用意してきます。今すぐにでも休みたいでしょうけどもう少し待っていてください」

「あ、ありがとうございます…」

「ミリ」

「はい?」

「よく頑張りましたね」

「…!」




ニーナはそう言ってミリの頭を一撫でしてから部屋を出て行った。

ミリは最初ニーナにあれほど疑われていたせいもあってなんとなく嫌われているような、苦手意識を持っていた。だからあんな風に優しい笑顔を見せられて、驚いたのだ。




「――あっ、おいミリ!?」

「ミリ!!」





そうして、最後に聞こえたのは誰と誰の声だったのか……ミリは確かめる余裕も無い内にまた眠るように意識を失ったのであった。









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