制裁
ミリが静かな眠りに着いた頃。
同じお屋敷の別の部屋では、とある男が1人こそこそと誰かに電話をかけていた。
「お、おいっ…約束が違うじゃねーか!」
『…ちっ、悪かったよ。だがこっちだってアイツ1人のために1つ部隊を潰しちまったんだ』
「部隊の1つぐらいがなんだ!こっちはキャメルのクソガキを出し抜くのに命張ったんだぞ!?てめーも知ってんだろ、あの忌ま忌ましい掟…!」
『とにかく!今回の件は失敗だ。あとのことはテメーでなんとかしな』
「おい!?ちょっと待て、助けてくれよ!おい!!」
男の悲痛な叫びが静かな部屋に響いた。
電話越しにも、もう相手の声は聞こえずただ無機質な機械音だけが響いていた。
「――残念じゃったなあ」
「ひい!?」
そのとき、電話とは別の所……男の背後からまた別の男の声がした。
男は酷く怯えた様子で後ろを振り返る。
「ラ、ラキ…!アンタ、いつから」
「隠れんぼは仕舞いじゃ。
しっかしおまえも馬鹿なことしたのー。制裁が怖いならどうしてキャメルを敵に売った?」
「頼むっ、助けてくれ!
俺はヤツらに脅されたんだ!」
「脅された?」
「そうさ!キャメルを言う通りにおびき出せって!そうすれば金を払……」
「ばーかか、おまえ。
それは脅されたんと違う、取り引きじゃ。おまえ掟をちゃんと覚えとるんじゃろう?」
「……た、助け、助けてくれ…」
「敵と取り引きするべからず」
声の主、ラキと呼ばれた男はスーツのベルトから黒光りする銃を引き抜いた。
カチ、と弾が装填されて真っ直ぐに銃口は男の心臓へと向けられた。ラキの表情には笑みすら浮かんでいた。
対する男には、もう解っていた。
自分は掟の名の元に、殺される。
「う、うわあああ!!」
「!おーっと」
ラキの引き金が引かれるよりも早く動いたのは、なんと男の方だった。
逃げるのならまだしも、まさかこちらへ突っ込んでくるとは思わなかったラキは素早く引き金を引いたがどうやら急所を外したらしい。肩に銃弾を受けた男は血を流しながらもラキを交わして部屋の外へ。
裏切り者とは言え、流石はこれまで殺し屋部隊で生き残ってきた男だ。上手く交わしたのか、若しくはただしぶといだけなのか。
「隠れんぼの次は鬼ごっこか。
…まあ、ええか」
ラキはのんびりと歩きだした。