閑話
「…それはそうとベル、」
「なに」
「君、相当この子に肩入れしてますよね」
「……」
2人の目の前で、静かな寝息をたて始めたミリを見届けて。ニーナがずっと気になっていたことを尋ねた。
元々が素直で、勘の良い少年ではあるが今日の庇いっぷりはいつもの彼らしくは無いように思えたのだ。
「……こいつ、泣いててさ」
「…。」
「ニーナに言われて俺、こいつの様子見に来たじゃん?そのとき、こいつ寝ながら泣いてたんだよ」
ベルは、ゆっくりと、言葉を選ぶように考えながら言葉を続けた。
「それで俺、嫌な夢でも見てんのかと思ってこいつのこと起こそうとしたんだ。そしたら、寝てるはずのこいつがなんか俺の手、握ってきて。
このちっさい手で俺の手を弱々しく握ったんだよ」
「……それで?」
「なんか、俺、変な気分になった。
よく解んねえけど、こいつのこと1人にしちゃいけねえって思ったんだ」
ベルはここのチームの中では1番幼い年齢だ。体も小さくて、まだ仕事だってこなしたことは無い。
しかしそんな頼りない自分の手を無意識ながらにも一生懸命にこの少女は手を伸ばして、握ったのだ。
それが嬉しかったのだろう。守りたいと、思ったのだろう。
ニーナはベルのたどたどしい説明を聞きながら、ベルのそんな心情を推理した。
「甘いですね」
「……。」
「おまえはユチェの後を継ぐべき人間なのに」
「…わかってるよ」
ベルは、恐らく将来的にこの殺人鬼集団のトップに立つ人間になるはずだ。
そんな人間が、こんな少女の一挙一動に振り回されるようではやっていけないだろう。
「…しかし、まあ。おまえはそのままでも良いのかもしれませんね」
「どういうことだよ」
「秘密です」
「はあ?」
守りたいものがあるから強くなれる、そんな人間もいる。
きっとこの心優しい少年はそうやって強く、大きくなっていくのだろうとニーナは思った。