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監査


「改めまして、俺は本部では8代目直属の監査部隊に所属しとります、ホタルいいます。よろしゅう」

「ミリです」



はじめまして、と頭を下げるミリの思考に「監査部隊」の言葉が残る。8代目の直下で監査といえばボスからの勅命のみで動く監察官と言うものだ。

監察官が動いたということは、つまりこれから自分は監査されるのだろう。ミリは思わず息を呑んだ。





「そない緊張せんでええよぉ」

「え…?」

「ただ俺は話を聞きに来ただけやさかい。ミリちゃんのことをどうこうする権利は俺にはあらへんから」

「話…ですか」


暫くすると、先程の店員がコーヒーを運んできてホタルの前に置いた。





「気を悪くしないでね。

実はミーちゃんのことを本部に報告したの、私なんだ」

「フィオナさんが?」

「それが私の仕事の1つだからさ。

だってほら、うちのボスってあれじゃない?面倒くさがりで自分のことしか考えてない。まあそんな所が素敵なんだけど」

「……。」




フィオナの話を要約するとこうだ。


現在のユチェ率いる殺し屋部隊は、元は本部所属の小さな暗殺部隊の1つだったという。それがある日、8代目の実の息子であるまだ幼ないユチェが突然部隊長に就任したことが全ての始まりだった。

異例の人事に戸惑う隊員達を尻目に、めきめきと暗殺者(ヒットマン)としての頭角を見せ始めたユチェ。そうして2年も過ぎた頃には幾つか存在した暗殺部隊を束ねた1つの組織となり、現在の暗殺専門部隊が完成したというわけだ。



「ただねー。

やっぱ本部としては暗殺部隊を独立させることに不安がる人もいたわけ。ユチェはああだし、幹部クラスもキャメルやラキを筆頭に自分勝手なガキばっかりで素直に言うこと聞くやつなんかほとんどいない。そこで私が監査部隊の“目”として選ばれたの」

「目?」

「私はずっと監査部隊だったこいつとも仲良かったから信用もあったみたいで。私が定期的にこっちの情報を本部へ流すっていうのが条件で独立が認められた。

もちろんユチェやキャメル達もこのことは知ってるわよ。要はうちの部隊と本部を繋ぐ面倒な仕事を押し付けられてるってわけ」

「うわ今面倒言うたなおまえ!」

「だって実際面倒じゃない」





とにかく、フィオナがミリのことをわざわざ本部に報告したのにはそういった理由があったから。それは理解した。

しかし、まだホタルが何のためにミリに会いにやってきたのか、その話は進んでいない。そう思ってミリは視線をフィオナからホタルへと移した。





「……で、今度はフィーから報告を受けた俺の出番っちゅーわけや」

「はい」

「本部はが気にしとるのはミリちゃんがイムファミリーの人間やったことでも、アビノ=ルッチの恋人やったっちゅーことでも無い。俺が聞きたいのは、ミリちゃんを匿ってくれとった教会の人間を奴らが皆殺しにした、あの事件のことやねん」

「!!」




ホタルの口から継いで出た予想外の言葉にミリは目を見開く。

と、同時にどれだけ時間が経っても消えることの無いあの日の恐怖、そして巻き込んでしまったことに対する罪悪感に襲われミリは己の胸を掴んだ。







「……堪忍なあ」

「え?」

「嫌なこと思い出させてもうて」


ふわり、と。

ホタルがミリの頭に手を置いて。そのまま2、3度優しくミリの髪を撫でるホタル。温かくて優しい掌。


しかし突然のことに戸惑いを見せるミリに、助け舟を出したのはフィオナだった。





「こらアンタね、馴れ馴れしく女の子に触ってんじゃないわよ」

「いやいやちゃうねん!なんやろ、この子見とるとなんかこう…ぶわぶわっと、な?な?なんか解るやろ?」

「……ああ、まあ。癪だけど言いたいことは解る」

「……。」





「(…解るんだ)」



ホタルのよく解らない例えに同意したフィオナにミリは内心で呟いた。

なんだかんだ言いながらも2人はやっぱり仲が良いんだとまるで他人事のように感心する。

そんなミリの視線に気付いたらしいフィオナが、くしゃっと無邪気な笑顔を浮かべて口を開いた。




「要はアンタがあんまりに情けないから助けたくなるってことよ」

「う……」



そんな台詞を受けてももちろん言い返せないミリを見て、フィオナとホタルは楽しげに笑ったのだった。





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