ひよこ頭
半ば引きずられるように屋敷を出たミリ、そしてもちろんミリを引きずるフィオナの2人は歩いて賑やかな町の方へやって来た。
とりあえずお昼ご飯を食べようということになり、フィオナの案内で連れて来られたのはアンティーク調のインテリアが揃ったお洒落なカフェだった。
「ここね、カフェだけどご飯も食べられるの。特にここのスープライスなんて超オススメなんだから。注文これで良いよね?
お兄さんすいませーん!」
「……。」
有無を言わさずと言った様子で2人分の注文を済ませてしまったフィオナ。
どうせミリに聞いた所で遠慮されてしまうと思ってのことだろう。実際その通りなので、ミリも有り難く好意を受けとっておくことにした。
「フィオナさん」
「なに?」
「あの…なんで今日、こんな風に誘ってくれたんですか」
「何でって買い物がしたかったからよ」
「……でも、」
注文を終えて一息吐いた所で切り出したのはミリだった。
そんな、彼女のまったく納得していない様子にフィオナは思わず苦笑を浮かべる。子供のくせに変に疑い深いというか、心配性というか。もちろんそれだけ苦労してきたせいだとは思うのだが。
そんなことを考えながら、フィオナは再び口を開いた。
「確かに、アンタに用事があったことは認める。でもそれはホームにいても済ませられたことよ。わざわざ外に誘ったのは本当にアンタと女の子同士で買い物がしたかったの。
どう、納得した?」
「……。」
ぱちくり、と大きな瞳を瞬きさせて。しかし取り敢えずは納得したらしい、嬉しそうにはにかみながら頷いた。
暫くすると店員の男の子がフィオナお勧めのスープライスを運んできてくれた。ちなみにミリはオーソドックスな卵とじ、フィオナはチーズリゾット風を選んでいる。ニコニコと期待の眼差しを向けるフィオナに見守られ、まず一口掬って口へ運んだのはミリの方だった。
「うわ、美味しい!」
「でしょー!」
「はい!」
日頃、仕事に追われて忙しくしているフィオナだって年としてはまだ若い、年頃の女の子だ。突如現れたミリという妹分のような存在ができたことでたまには女同士ゆっくり過ごしてみたかったというのが、ミリを外に誘った本心だった。
――しかしそんなフィオナのほのぼのとした気持ちは、今日の本題とも言えるある男の登場によって一気に現実に引き戻されることとなった。
「おーいたいた…
ってもう飯食っとるし!」
「!?」
「酷いやんフィー!少しくらい待っとってくれたらええのにい」
「アンタは仕事でアタシ達は休み。アンタを待ってなきゃいけない理由は無いでしょー」
「相変わらずツレへんねんからー」
「(…うわ)」
突如、現れたのは見知らぬ男。突っ込みどころは多々あるがとにかくまずミリは絶句した。
見上げた男の髪色が、輝かしいほどの真っ黄色だったということに。
「紹介するわ、ミーちゃん。こいつは本部所属のホタル」
「どーも初めまして。よろしゅう頼むでえミリちゃん」
「……はじめまして」
「ほら見なさいよ、この子アンタのひよこ頭に呆れてるじゃない」
「え、うそ!?見惚れてくれとったんちゃうん!?」
「アンタほんと阿呆だわ」
「……。」
――悪い人ではない。
それだけ理解したミリは取り敢えず笑っておくことにした。