プロローグ2
「女ァ!どこ行ったぁ!?」
「まだ遠くは行ってねえはずだ!探せ!」
そんな男達の会話を、女は彼らのすぐ傍らにある業務用の大きなダストボックス――所謂ゴミ箱の中に身を竦めて聞いていた。
ギャグみたいな話だけどまさか彼らもこんな所に隠れていようとは思わなかったらしい。暫くすると男達の足音は遠くの方へと行ってしまった。
女――ミリは頭でそっと頭上のフタを押し上げて外の様子を伺う。辺りに人影は無い。どうやら上手く撒けたようだ。
「(…つかれた)」
ミリは思ったよりも広いスペースのあるゴミ箱の中に再び頭を引っ込めて、ぐったりと肩を落とした。
ちょうどゴミは回収した後のことだったらしくそこは綺麗なものだった。というか、今の暮らしを考えるとこんな風に誰にも見られずゆったりと体を休められる場所があるだけマシなのかもしれない。
「(少し休んで良いかな…」
少しだけ、少しだけ…と言い聞かせてミリは目を閉じた。きっと次にゴミを捨てに来た人が良い人だったら気付いて起こしてくれるに違いない。もしそれが良い人ではなく悪い人、例えばさっきの男達だったら…とも思ったが、考えたく無かったので考えるのを辞めた。
「(目が覚めたら…ここがフカフカのベッドになってたら良いのに)」
ミリは疲れ切った様子でそのまま静かに目を閉じた。
だからミリは何も知らなかった。
まさかここでのちょっとした居眠りが、まさか己の人生を大きく変えるきっかけになるものだったなんて。