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「……な、なんで…え、てか今どこから落ちて…?」

「何でってオマエわかんだろ?ノコノコ歩いて来てコイツの目に止まってみろ、撃ち殺されんだろーが」

「えーいくらえお仕置きじゃあ」

「うわ…!?」



混乱気味のミリを余所に、地面に突き刺さったナイフを引き抜いたキャメルは、それを折り畳んでポケットへ仕舞う。そしてラキは両手をグーにしてミリの頭をグリグリと攻撃してきた。

ちなみにこれがまた地味に痛い。





「い、痛いですラキさ……って、あれ…ラキさん?」

「んー?」


ニヤニヤ笑いを浮かべるその男の特徴的な口調は、明らかにあのラキであった。しかし、改めてその顔をしっかりと見てみるとなんだか雰囲気が別人に見えるような気がしてまミリは確認するようにマジマジと相手を見つめる。対するラキらしき人物はそんなミリの視線を楽しげに受けていた。






「――なるほど、君がラキか。

殺人鬼集団の唯一にして最強の、潜入者」

「せんにゅうしゃ…」





そんなラキとミリのやり取りに、入って来たのはルッチだった。右手に持ったままの銃をブラブラと弄びながら、相変わらずの余裕な笑みを浮かべている。

ミリはルッチの台詞にあった聞き慣れない言葉に眉を潜めた。


「噂に聞いてるよ。マルシファミリー殺し屋部隊で顔を自由に操れる変装の達人、顔中の僅かな筋肉を動かして様々な表情を作ることが出来る。常に顔を変えながらあらゆる場所への潜入作戦の成功率は100パーセントだ。しかも君、本来の顔は部隊の中でも一部の人間にしか晒していないっていう話だよね」

「ほー、それは随分な噂じゃの」




ラキは口許に笑みを浮かべながら、どこからか取り出したいつもの狐のお面を取り出して装着した。狐のお面は部隊の中でも顔を隠すためだったのだろう。

しかし、部隊でも一部の人間しか知らないと言われてるラキの素顔をミリは見てしまっている。ラキは何のためらいもなく、ミリに素顔を晒していたが大丈夫なのだろうか…。

ミリのそんな心配を余所に、続いてルッチは視線をラキからキャメルへと移した。





「そして君は…言うまでも無いかな。最強の殺し屋部隊を纏めるボス、マルシ=ユチェにその若さで最も信頼されている男。

会えて光栄だよ。

赤の殺人鬼、キャメル」

「……。」




キャメルは、何も言わずにただ不敵な笑みを浮かべて応えた。

ミリはそんな3人の間で不安げに視線をさ迷わせる。どうしたら良いのか、と縋るように後ろにいたフィオナに視線を向けてみたが、彼女は最早こちらの話に加わる気は無いようで面倒くさそうに欠伸をしていた。フィオナからの助けは期待できないことを悟ると、ミリは視線をキャメルとラキの方へと戻した。


コソコソ逃げるように出て来てしまった自分なんかのために2人はこんな所まで来てくれた。これ以上彼らに優しくされたら余計な期待をしてしまう。弱い自分に負けてしまう。

だから、ミリはここで2人に甘えるわけにはいかなかった。





「ラキさん、キャメルさん。

助けてもらったのに、お礼も言わずに出て行ってすいませんでした。でも私、」

「んなことどーでも良い」

「え?」

「一度しか言わねえ。

俺がオマエを拾ってやったのは同情したからだ。俺はオマエとよく似た境遇のガキを知ってる。だから放っておけなかった」

「……。」

「それでも、オマエを助けたのはちゃんと俺の意思だった」






――ミリの台詞を遮って、唐突にキャメルは淡々とそんな話をし始めた。

ぶっきらぼうで、不器用な台詞だったが、その口調はとても優しくて。ミリは胸が温かくなるのを感じた。




「だから、それを途中で投げ出すなんてダセー真似を俺にさせんじゃねえよ。帰るなら堂々と俺にそう言ってから帰りやがれ」

「…わたし、」

「帰りてえなら、そう言え。あんなクソヤローでもヤツの傍にいたいって言うなら、そう言え。

もしそうじゃなくてオマエの中に何か俺達に助けて欲しいようなことがあるなら、今度はオマエの意思で言ってこい」

「クソヤロー、ねえ」

「!!」




そのとき……スッ、とミリの肩に誰かの腕が回された。言うまでもない、それはルッチの腕だった。ルッチはミリの身体を引き寄せる。まるで、キャメルにこれ以上近付くなとでも言いたげに。


「確かに俺はクソヤローだ。

しかし君は違うと言えるのか?なあ、君は今までに何人殺してきた?ちなみに俺は今までに殺したやつの人数なんて覚えていないけど」

「あ?俺だってそんなもん覚えてねーよ」

「だろうね。そんな人間が他人をクソヤローなんて、よく言えたもんだ。

――ああそれと、ミリは俺の許嫁だ。気安く近寄らないで貰えるかい?」



ルッチはミリの肩に回した腕に力を込めて、挑発するようなギラギラした瞳をラキとキャメルに向けた。

しかし、それでもキャメルはまったく怯んでいなかった。





「――やっぱりアンタはクソヤローだなアビノ=ルッチ」

「あ…?」

「俺なら大事な女にそんな顔はさせねえ」

「!」




キャメルに言われて初めて、ルッチは腕の中のミリの異変に気付いたらしい。ミリは、声も無く静かに涙を流していた。





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