理由
「俺らは、オマエにそんなこと期待して助けたんじゃないぜ」
「え……うわ、痛い痛い!」
ラキはミリの頭をグリグリと押さえ付けるように撫でた。そしてミリの抗議の声を聞くと面白がって更に撫で付けた。
「オマエは今、キャメルの連れて来た客ってことで扱われとる」
「え?」
「俺達には掟があるから、絶対に仲間を裏切れんのじゃ。つまり仲間の客であるオマエのことも俺達が裏切ることは許されん」
「……。」
マルシファミリーにおいて絶対的な存在である掟のことはミリも聞いたことがあった。
掟はマルシファミリーの設立と共に当時のボスによって定められたという。ちなみに暗殺部隊が生まれたのはファミリー設立から何代か後のことらしい。
現在の暗殺部隊は通常の暗殺任務や本部からの勅命任務、そして掟を破った者に対する制裁の任務も任されていた。
「でも…ラキさんはあのとき私のこと殺そうとしてました」
「あ?」
「2日前」
「……ああ、」
ラキはミリの指摘に暫く思案すると、思い付いた様子でポンと手を叩いた。
「あの制裁の時じゃろ」
「……。」
「まあ、制裁は何を差し置いも第一優先の任務じゃからのー。オマエを殺しても掟破り、裏切り者の制裁をしくじっても掟破り。どうせ制裁を受けるならアイツを殺して制裁を受けた方がマシじゃ」
「え、じゃあ私が死んだらラキさんが制裁受ける所だったんですか?」
「そーじゃ」
ラキはまるで何でもないことのように軽い口調で話すが…なんて恐ろしい掟なんだろう、とミリは思っていた。
更に、どうせ制裁を受けるなら裏切り者を殺してからにする、というラキの覚悟。彼らはそれほどまで掟に対する強い覚悟を持っていたのだ。
「しっかし、オマエがあの状況で狸寝入りをしとるなんて夢にも思わんかったからのー。制裁を受けんで済んだのはオマエのおかげじゃ」
「…私はただ怖くて動けなかっただけです。けっきょく助けて貰ったのは私の方だし」
「ま、これも何かの縁じゃあ。体調が回復するまではゆっくりしてったらええ」
「……。」
「じゃあまたの」
話は終わり、とばかりにラキは立ち上がって外したばかりのお面を装着する。
ヒラヒラと手を振って部屋を出て行こうとする彼の背中を見送るミリは思い切って口を開いた。
「ラキさん」
「?」
「何でお面なんて付けてるんですか」
「……。」
さすがに想定外のタイミングだったのか、ラキはお面の下で目を丸くした。しかしすぐに口元にいつもの緩い笑みを見せて、答えた。
「狐が好きなんじゃ」
「……。」
――絶対嘘だ、と思ったがミリは何も言わずに笑いながらラキの姿を見送ったのだった。