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――余程疲れが溜まっていたのか、身体に負担がかかっていたのだろう。ミリはあれから2日間のあいだ高熱にうなされ続けて。

落ち着いた頃には、ミリがマルシファミリーに転がり込んでから3日目の朝を迎えていた。






「ようやく熱も引いたわね」

「……ありがとう先生」

「いえいえ。貴女みたいな可愛らしい患者を看るのは久しぶりだったからちょっと楽しかったわ。……なんて、不謹慎だったかしら」



ペロ、とおどけたように舌を出して笑った彼女はなんとマルシファミリー殺し屋部隊専属の医者だという。アリア先生だ。

殺し屋専属の医者がこんなに美人な女の先生で大丈夫なのだろうかと、ミリも最初は心配になってしまったほどだ。



「それじゃあ、食事を持ってきて貰うわね。その間に服を着替えておきなさいな」

「はい。」






ミリはこの2日間、熱にうなされながらも記憶はしっかり残っていた。ここの人間は、驚くほどにミリを丁重にもてなしてくれたのだ。


身体を起こして、服を着替えながら考える。

お風呂に入れなかったミリの身体もメイドさんらしき女の人が拭いてくれたし、食事も2日間3食きっかり準備してくれた。しかもそれはお粥やフルーツ、スープなど、確実に体調の悪いミリのことを気遣って、ミリのために作られたような食事だった。

それでもやはり食欲は湧かなくて最初ご飯を残してしまい、申し訳なかったから食事をいらないと断ったのにアリア先生がそれを許しはしなかった。そんなわけで、ミリはここ数年したことが無いような贅沢な暮らしを2日間経験していたのだ。






「よー、起きたかチビっこ」

「!?」




着替えの途中でぼんやり考え込んでいたミリは慌ててブラウスの前ボタンを閉じる。

そこには謎のトレードマーク、狐のお面を被った男が部屋の扉を開けて立っていたからだ。どうやら今日はラキがミリの食事を運んできてくれたらしい。



「ちっ、少し遅かったのー」

「な、何が…」

「今ババアにミリが着替えとるって話聞いて覗きに来たんじゃあ。あ、これメイドから奪ってきたオマエの飯」

「っ……!!」




ミリは赤くなって手元にあった枕を投げつける。

しかしラキはトレーに乗せたミリのご飯を一欠片も零すことなくそれを難無く避けて見せた。ラキはこの2日間も何度か部屋に来ては熱に苦しむミリの枕元でちょっかいばかりかけてはアリア先生に見つかって追い出されていた男だ。ミリもラキのそんな言動にはすっかり慣れてしまった。




「元気になったよーで何よりじゃ」

「…ラキさん性格悪い」

「そりゃどーも」


くっくと笑いながら、ラキは食事をベッド脇のテーブルに置く。まあ…なんだかんだ言っても、あの制裁の時から何かと暇を見つけては部屋を訪れて相手になってくれるラキにはミリも心の底では感謝もしているのだが。


そんなことを考えている間にラキは私のいるベッドの隣りへ椅子を引きずって来てそこへ座った。そして、お面を外せばその姿は銀髪美青年へと変貌した。




「あの」

「なんじゃあ」

「そのお面かわいいですね」

「貸してやろーか?」

「……いらないです」




「(……気になる)」



ミリは、そんなラキの視線を受けながら有り難く食事を頂くことにした。目の前には美味しそうなオニオンスープ。

しかし、ミリの頭の中はまったく違うことで埋めつくされていた。




「気になるんじゃろ」

「え」

「“どうしてラキさんはお面なんてしてるんですか”って顔に書いてある」

「……。」

「くくっ」




ラキは楽しげに笑った。

完全に頭の中を見透かされたミリは申し訳なさそうに黙ってスープを掬って口へ運ぶ。

いくら義理とは言え敵ファミリーのボスの娘である自分が、必要以上にここの人達と関わるべきではないからだ。自分を助けてくれたラキやキャメルやベルのことは本当に感謝している。だからこそ自分が関わってはいけないと思った。




「で、聞かんの?」

「……聞かないです。私みたいなやつが口を出すことじゃないし」

「なんじゃあ、つまらん」

「あの、ラキさん」

「ん?」

「私は一応ヨナンの娘ってことになってるけど、私ファミリーの情報とかは何も持ってないんです。だから、優しくしてくれても何も返せないです」

「は?」

「せっかく助けてくれたのにすいません」




ミリはスープを置いて、頭を下げた。


ミリは、ずっと考えていたのだ。敵ファミリーの関係者である自分にここまで親切ににしてくれる理由を。そして考えついたのは、自分が役に立つと思われているからではないか?ということだ。

だが先程言った通り、ミリはマフィアの世界のことは何も知らなかった。義理の父親であるヨナンがどんな仕事をしていたか知らなかった。だから、ラキ達の得になる情報だって、何も持っていない。つまり自分は彼らの役には立てないのだ。





「……おまえ、」

「はい…」



ミリは頭を下げたまま、ラキの言葉に耳を傾ける。


――すると、次の瞬間。

後頭部に鋭い衝撃が走った。


ラキがミリを殴ったのだ。




「ったぁぁ…」

「オマエなあ…そんな小難しいことばっかり考えとるからなかなか熱が下がらんのじゃろうが。あほかあ。」

「――へ?」




ミリが顔を上げると、ラキは呆れた様子で腕を組みこちらを見下ろしていた。





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