case.019「ウラ市場アストレイ」
祭り道中をそれて進んでいけば、薄暗い道の奥に大きく開けた場所。
「ここは…」
「ウラ市場。ガラクタ市。あるいは自己責任市場とも。一応の正式名称としては「からくさ市場」だけどな」
「からくさ市場、なるほど…」
その広場には所狭しと屋台やござ敷きの露店が立ち並び、雑多で煩雑な祭り道中の、さらにうらぶれて露悪的な雰囲気。
それぞれの店先には青い火の入ったランタンが掲げられ、火が消えている所は店じまいのようだった。
雰囲気ある~!薄ぼんやり怖いのに、どことなくノスタルジックでファンタジック。ごちゃごちゃしていてちぐはぐなのにワクワクする感じ。イイ!
そわそわする僕をよそにサカヅキさんは辺りの店を見回し、目当ての店を見つけたのかすいすい波をかき分けて進んでいく。
「あ、わ、待ってください…!」
「ちゃんと着いてきなー?はぐれると危ないからな」
だったら手加減して下さいよ、って言ってる間にもズンズン突き進んでいくのを必死に追いかける。その足が止まったのは、市場の中でも奥にある露店のひとつだった。
「どうも」
「…」
目深にフードを被った男性、らしき店主は黙ったまま。少し頭が動いたので、許容されているのはたしかだろうけれど。
並べられた品はパッと見ても本当にガラクタっぽいというか。控えめに言っても不用品。でも、直感に優れたサカヅキさんが気にしているんだから、なにかしら価値があるんだろう。
むむむ、と目を凝らしてみるけれど特に分からない。サカヅキさんは何やら真剣に精査していて声をかけづらい。
「はあ」
自分の見る目のなさにがっかりしつつ、ついでに隣近所の店先も覗いてみることにした。ここから大きく動かなければ大丈夫だろう。
「うーん。いろいろあるなあ」
その時、視界の端にきらりと光るなにかが過ぎた気がして、ふっと振り返る。
…?
「いまなにか…」
振り返っても光るものは特にない。せいぜいがランタンの青い炎くらいで、どちらかといえば薄暗い。
サカヅキさんはまだ店先で夢中。…少しくらい、大丈夫かな。パって行ってすぐ戻ればいい。
でも一応声はかけておくべきだよな。
「サカヅキさん」
「んー?」
「あの、少しそこ見に行っても良いですか?すぐ戻ります」
「んー」
「…えっと、じゃあ、すぐ戻って来るので」
こちらを見ないままにひら、と手を振られる。これはオッケーってことで良い、んだよな?
そっと周囲を確認してその場を去った。
「…確かこの辺り」
3つ目の店を曲がってすこし。見回してもあの光はない。
もうもっと先へ行ってしまっただろうか。流石にこれ以上は迷いそうだ、戻らないと。
そう思って踵を返したとき、またちかりと瞬く光。今度は2回。まるで呼ばれているようだ、と頭の隅でちいさく思ったけれどなぜかその光に抗いがたく。
気づけば戻る為に踏み出した足は光の方へ進んでいた。
「あれ、ここどこだ…?」
ふと我に返ったのは、鳥居の続く石畳の上。
いつの間にやら、からくさ市場も抜けてどこだかの通りに入り込んでしまったようだ。周囲には鳥居と灯篭しかなく、遠いどこかで笛の音が鳴っている。
ぼんやりと明るい道に朱。
「…」
なんだかその音色を聞いているとふわふわして、不思議ともっと近くで聞きたいと足が進む。緩やかな傾斜、鳥居をどんどん潜り抜けて奥へ奥へ。
「…」
先の見えない鳥居の道が急に途切れる。突然現れた石の階段。見上げると一際大きな石の鳥居。さっきまでとは打って変わって白く明るい。
すうっと吸い込んだ息が体中にしみわたる。
階段に足を掛ける。
「あら。お客様だなんてめずらしい」
しとやかな声。
「ようこそ。イツキ神社へ。歓迎いたします」
さらりと零れ落ちる白。不可思議に光り、流れている。
「それで…」
光を閉じ込めた瞳がこちらを射抜く。
「どちら様でしょうか?」
僕が迷い込んだのは、こちら側で唯一の神社。巫女さん、もとい、ナギさんが言うには、だけれど。
呆然と立ち尽くしていた僕の目の前でぱちんと手を打って、その音で正常な思考を取り戻したナギさんは僕の拙い話にうんうんと頷いて言った。
「あらまあ。それでこちらに?それはそれは…」
「す、すみません。勝手に立ち入ってしまったみたいで」
「いいんですよ。俗人はほとんどここへ来られませんけれど、ここへ来たのならヒナタさんが呼ばれたのはたしかでしょう」
呼ばれた、というのは本当なんだと思う。
流石に僕でも慣れない場所、それも怪しさ極まるウラ世界で自ら単独行動なんてしない。ましてやサカヅキさんから離れるなと言われておいてコレだ。瞬く光と言い、誘導されたのは間違いないはず。
「呼ばれたのには意味があります。せっかくですから、こちらへ。ご案内いたします」
「あ、はい。ええと、でも…」
「ここは厳密に言えばウラ世界ともまた位相の異なる場所。時間の間隔も異なりますし、何より呼ばれた以上、用を終えなければまたすぐにでも呼ばれるでしょう」
「はあ」
「ですから、どうぞこちらへ」
「…わかりました」
なんだか強引な人だな。
でもそういう事情があるならしょうがないか。別段、怪異の時のような寒気や違和感もないし。むしろなんというか、落ち着く?安心するような気分ですらある。
「じゃあ、失礼します」
そっと小さく頭を下げれば、ナギさんは光る瞳を伏せてにっこりと笑った。




