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case.010「足跡リサーチ」


 初出勤の翌日は肉体的疲労もあるだろうという社長の好意で午後からの出勤となった。なんなら昨日少し早めに上がらせてもらえたのもあり、たっぷりと休養を取ったのち9時過ぎにのそのそ起き出して支度。

 借りた服は洗って畳んだ。あとは、菓子折りでも…。いや、お菓子は毎日食べてるわけだし他の奴の方が?いやでも…。

 ぐるぐる考えつつ1日ぶりなのに久々に足を入れたようにすら感じるくたびれた革靴を履いて、破損した靴のかわりを買いに近くのスポーツショップへ。

「…うん。これが一番動きやすいかな」

 ミチカケ先輩からも靴は2、3足買って普段からローテで慣らしておくといいと教えてもらったので、同じ靴を3足購入。ついでに分かるように色の違う靴紐も買っておく。あとで付け替えなきゃな。

 重いかごを持って移動、ジャージは洗い替えもあるから多めに5着。インナーも同じようにかごに。

「入りきらない…」

 かごに靴の箱を3つ。隙間にインナーをねじ込み、入りきらないジャージは腕に抱えて何とかレジへ。パンパンに膨れて嵩張る重い袋を何とか担いで帰宅。

 さっそくおろしたての装備を身に着けて、事務所へ。お昼ご飯は食べない。というのも、今日も事務所でドールちゃん先輩のごはんが待っているからだ。


「ごちそうさまでした!」

 満ちた腹を撫で、手を合わせる。

 今日購入した靴やジャージも全額経費で精算してもらったし、本当に福利厚生が充実しすぎていて天国のような環境だ。

「いい気分のところ悪いね。ヒナタくん、午後はちょっとハードだから。よろしく」

「えっ」



「というわけで来ました。いかにもな廃屋…」

「なにぶつぶつ言ってんのー?行くよー、のどかちゃん」

「はい、すみません!」

 ウラ道を通って、着いたのは薄暗い森。ほとんど手付かずの荒れた道をかき分けて歩くこと15分弱。開けた場所にはいかにも出そうな廃屋。

 汚れた外壁に伝う草、ひび割れた窓。めちゃくちゃホラーに出て来そうな外観すぎて、一周回って何も出なさそうな気さえする。

「でも、ここに連れてこられてるってことは…」

 出るんだ…、怪異。

 すでに若干鳥肌が立った腕をさすりながらミチカケ先輩の後に続く。

「そんなに構えなくて大丈夫だよー。今日は怪異確定って訳じゃなくて―、疑いのある場所をいくつか回るだけだからー」

「そうなんですか?」

「そー。普段は他のメンバーがやってるんだけどねー。ちょっと今海外だからー」

「へえ。…え?海外?いやそれよりも、他のメンバーって、他にいるんですか?まだ?」

「そーだよー」

 初耳だ。

 いや、むしろあんな少人数ってことの方がおかしい、のか?

 怪異なんてものと生身で戦うんだからもっと武装とか、なんならムキムキの軍人さんみたいな人がいても不思議じゃないような…。

 なんて思考を飛ばしていると、ミチカケ先輩は指折り数えながら言葉をつづける。


「実働がミチカケちゃんとのどかちゃんでしょー。ドールちゃん先輩は最終兵器だから事務所にいてもらってー、社長は上と交渉とかがあるしー。あとは海外出向中の2人。だから全部で6人だねー」

 しれっと僕が実働部隊にカウントされている…。

 いや、これから鍛えて戦力になればいいんだ。頑張ろう!

「あと2人いるんですね。その方たちはどんな仕事をしてらっしゃるんですか?」

「んっとねー」

 ミチカケ先輩が事前に拝借していた鍵で玄関を開ける。中は外観から想像できる通りのアレ具合で、けれど床が軋む感じはない。

 存外古い建物って訳でもないのか、廃屋になってから日が浅いのか。にしては外観はかなり年季の入った荒れ具合だったけれど…。

「すっごい目が良くてよく気付く先輩とー、頭が良くてもらった情報からドンピシャな推測が出来る先輩でねー。先輩たちはコンビで動いて各地の怪しい場所を調べたりしてるよー」

「へえ。すごい方たちなんですね」

「うん。先輩たちが来てくれたおかげで怪我も減ったし、対処も格段に楽になったからねー」

「すごい!」

 あれ、でもそういうってことは歴はミチカケ先輩の方が長いのか?

 まあいいか。

「それにネットとかで噂の怪しい場所って、いざ行って調べるとガセだったりとかするしねー。空振りが減るだけでもかなりありがたいよー。自分の目で足で当たっていくのが確実で早いんだってー」

「なるほど。…なんだか昔の刑事もののドラマみたいですね」

「あはは、かもねー。そのうち帰ってきたら紹介するよー」

 可愛い後輩が出来たって自慢しなくちゃだしー、と何でもないようにつづけたミチカケ先輩に思わず胸が温かくなる。

 可愛い後輩なんて、いつぶりに言われただろう。あれ、僕ってもしかして弊社に入ってから思った以上にダメージ受けてたのかも。


 大きいとはいえ、一軒家。洋館というほどの規模でもない廃屋の調査はあっという間に終わった。

 要所要所でミチカケ先輩の足が唸るところもあったけれど、それらは怪異もどきにもなっていない埃みたいなもの、らしい。軽く蹴散らして終了。

 サカヅキさんから渡されたバインダー、その1枚目の書類に調査済みのチェックをつける。

「じゃー、次行こう」

「はい」


 2件目は潰れた工場跡地。

 同じように鍵を開けてはいると案外機材らしきものや不要になった未回収の資材は取り残されていて、がらんとした空間というよりは雑多で煩雑といった印象だ。

「…ここ、ちょっと重なってるね」

「!」

「まあでも、姿のない怪異もどきってとこかなー」

 なんでもないように言って、振り返る。

「渡されたアレ、ちゃんと持ってるー?」

「はい…!」

 ぎゅっとグリップを握りしめる。硬いプラスチックの感触。

「飛距離短いから、注意してねー。量も限られてるし、無理せず基本的には回避優先」

「はいっ!」

 誤射しないように引き金に手をかけるのはまだやめておく。

 ちゃぷ、と水の揺れる音。蛍光色の直線的な形状。

 出しなに渡された、イヤーカフに続く僕用の特殊アイテム。

「でも、なんでコレなんですか?同じようなものなら、例えばエアガンとか…」

「所持に規制あるからねー。それに、ソレだったら誤射しても人間に害はないから」

「…」

 半分透けるように内部構造の見える玩具。

 水鉄砲だった。



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